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巫女

      ― 1 ―




ファリス王国の王都マイセン。人種族が支配する黄金都市。太陽の沈まぬ都市とも言われるこの都市は長い歴史を持っている。


300年前に、勇者が女神ユリエスから神託を受けたのも、王都マイセンにあるユリエス教会でのことだ。その時の壁画は今でも国宝として王都マイセンのユリエス教会に保存されている。


全てのユリエス教の中心地、それが王都マイセンにあるユリエス教会だ。だから、人々からは聖ユリエス教会や、単に聖教会と呼ばれることもある。


そのユリエス教会の内部は厳格な階級制だ。教皇を頂点として、数人の大司祭。その下に司祭。そして、更に下に神父がおり、一番下には見習の修道士や修道女がいる。


その他、ユリエス教会直属の騎士団として、テンプルナイツが組織されている。ファリス王国騎士団とは別の命令系統を持っている騎士団。その唯一の決定権者はユリエス教の教皇であり、ファリス国王といえども、勝手にテンプルナイツを動かすことはできない。


そして、もう一つ。ユリエス教会には、特殊な身分の者が存在する。


巫女だ。この世界で女神ユリエスからの言葉を聞くことができる存在。生まれた時から、その身体にユリエスの紋章を宿した人間。それがユリエスの巫女。


300年間に魔王を倒した勇者に、神託を与えたのもユリエスの巫女だ。


だから、ユリエスの巫女は教会にとっても特殊な存在になっている。ファリス王国において、誰にも侵すことのできない存在でもある。それが、たとえ国王であっても、教皇であってもだ。


ただ、ユリエスの巫女が権力を持っているわけではない。あくまで女神からのお告げを受けるという役割があるだけだ。


故に、ファリア王国における巫女という存在は、聖域とされていた。




      ― 2 ―




午後の礼拝時間。ファリス王国にある聖ユリエス教会の大聖堂は、西から入る陽光がステンドグラスを通って床に光の模様を浮かび上がらせている。


白い大理石が敷き詰められ、奥には大きな祭壇と女神ユリエスの像。高い天井には女神ユリエスを称える天井画が描かれている。


格式高い聖ユリエス教会の大聖堂に入れる人間は、ごく限られた者しかいない。


その限られた人間の一人が、現ファリス国王である、エドワード2世だ。小太り気味の体と、長い癖毛には白髪が混じっている。どこか気の弱そうな男だ。


エドワード2世は、女神ユリエス像の前に跪き、手で胸に十字を切った後、祈りを捧げる。


「エドワード陛下。午後の礼拝、ご苦労様です」


祈りを捧げるエドワードの後ろから少女の声が聞こえてきた。透き通った声だ。一切の不純物のない声と言うべきか。どこまで透明な声。


「ああ、これはこれは巫女ルフィエル様。それに、ザリウス様も。お二人がこうして揃っておられるのも珍しいですな」


エドワードが温和な声で返事をした。振り返った先にいたのは初老の男と小柄な少女。男の方は教皇ザリウス。そして、もう一人は少女。緩いウェーブのかかった金色のロングヘアーに、愛らしい顔立ち。華奢な体は純白のローブを纏っている。


何気なく言っていることだが、教皇ザリウスとユリエスの巫女たるルフィエルが一緒にいるということは稀だ。


特にザリウスがルフィエルを避けている。ファリス王国では国王であっても対立することのできない教皇という地位にあっても、ユリエスの巫女だけは、その権力が及ばないのが理由の一つ。


「ええ、エドワード陛下にご挨拶をと思っていた所、偶然お会いしましてな。ルフィエル様も陛下にお目通ししたいということであったので、ご一緒させていただきました」


ザリウスは笑顔で答えるが、内心ではいい気分ではなかった。このユリエスの巫女たるルフィエルという少女。今年14歳になったばかりの子供なのだが、何を考えているのか分からない。ただ単に賢明であるというだけでなく、人の裏側まで見通しているような感じが、薄気味悪かった。


「はい。エドワード陛下が来られていると知りまして、丁度、清めの儀式も済んでいたことでしたから」


普段、ユリエスの巫女が、こうして聖ユリエス教会の大聖堂に顔を出すことはない。ユリエスの巫女が住む場所は別の所に用意されている。


特殊な身分を持っている関係から、滅多に外に出て来ることもない。女神ユリエスからの神託があるか、年に数回ある祭事に出席するくらいしかない。


だから、こうして何もない平日の午後に、ファリス王国の3つの頂点が一堂に会していることは、非常に稀有なことだった。


(この娘……。本当に単なる気まぐれでここに来たのか? いや、そんなはずはない。私が国王に会いにい来ることを見越しているに決まっている)


ザリウスは横目でルフィエルを見る。澄ました顔で、微笑みをエドワードに向けているだけの少女。ただの清楚な少女にしか見えないのだが……。


「左様でしたか。何もない日でしたが、ユリエスの巫女様にお会いできるとは、これは良き日になりそうですな」


エドワードも屈託のない微笑みで返している。


「ええ……、私としても、今日が良き日になってくれればと思っていたのですが……」


ルフィエルは俯きながら言った。どこか影のある言い方だ。


「どうかなされましたか?」


エドワードが心配そうに、ルフィエルに声をかける。


「それが……。不穏なことを耳にしましたので……」


「不穏なこと……?」


ルフィエルの言葉に、エドワードの顔が曇る。同時にザリウスも眉間に皺を寄せる。


「はい……。先日、バルマスクの近くで大きな戦闘行為があったということで……。どうやら、テンプルナイツも出動したとか……」


ここでルフィエルがザリウスへ目を向けた。心配そうな顔で見つめているが、目にはまるで感情がない。


(やはり、そういうことか……。国王の前で私のことを言及したいということだな……。小娘の分際で猪口才ないことをしてくれる)


ザリウスは努めて無表情を保った。ここで動揺を見せるようなことはできない。


「ザリウス様……、テンプルナイツを動かしたというのは……? 一体何をされていたのですか?」


エドワードが質問をしてきた。これは当然の質問だ。教会直属の騎士団であるテンプルナイツは、ファリス王国内でも屈指の力を持つ騎士団だ。


中にはケインのような親のコネで入った者もいるが、基本的にはエリートの集団。そのテンプルナイツが動くということは、ただ事ではないということ。


「なあに、心配めされるな国王陛下。確かにテンプルナイツを動かしたのは事実です。それは、この国に魔王信奉者なる不浄の者が入りこんでいたから。その魔王信奉者を討伐ためにテンプルナイツを動員したということです」


「魔王信奉者を討伐……」


「はい。その通りでございます。魔王信奉者とは即ち、女神ユリエスに仇名す者達。それを討伐するのは、テンプルナイツの役目。ただの鼠ではありますが、魔王信奉者らめに聖なる力を知らしめんとするのは当然のこと。圧倒的な力で叩き伏せてやりましたわ」


ザリウスは自慢気に語った。教会直属の騎士団が、見事にその使命を果たしたと声を高らかにしている。


これは、事前に用意していた回答だ。バルマスクで目立つようなことをしたのだから、いずれ国王の耳にも入るだろうと予想はしていた。だが、まさかユリエスの巫女からその話をされるとは思ってもいなかった。


「さ、左様か……。そうか、魔王信奉をか……。なるほどな。あんな無法者どもを野放しにしていては、世の平和も成り立たないというもの。ザリウス様、よくぞ討ち果たしてくださいました」


「陛下からそのような言葉をいただき、真に光栄でございます。我がテンプルナイツにも、陛下の言葉を伝えさせていただくとしましょう。ただ……、魔王信奉者の全てを排除したわけではありません。まだどこかの地下に潜んで、魔王復活の算段を企んでいる恐れがあります。ですが、テンプルナイツが必ずや、魔王信奉者を根絶やしにしてくれましょう」


実際にはアイクとティアリーズを取り逃がしているため、今後もテンプルナイツを動かすことが出て来る。そのための大義名分を今のうちに作っておく。


ザリウスはそう言いながらも、チラリとルフィエルの方を見た。澄ました顔に動揺のようなものは一切見当たらない。ザリウスがどんな返答をするのか、分かっていたような顔つきだ。


「そういうことでしたか。陛下の仰る通り、魔王信奉者のような者を野放しにはできませんね。ですが、私達ユリエス教徒は、広く女神ユリエス様の教えを説くことが本懐です。それこそが、この世界にとっての救い。その目的は違わないでくださいませ」


ルフィエルは静かに声をかけた。優しく綺麗な声だが、透明な氷が喉元に突きつけられているような鋭さがあった。


「もちろん。我々、ユリエス教徒は女神さまも庇護の下、幸福を享受することができているのですから」


(うす気味悪い小娘が……)


ザリウスは心の中で独り言ちながらも、ルフィエルに微笑みかけた。




      ― 3 ―




聖ユリエス教会で、国王、教皇、巫女の3者が会した後、ザリウスは聖ユリエス教会にある自分の執務室に戻って来ていた。


絨毯の敷かれた広い執務室なのだが、所せましと書物が並べられているため、手狭に感じる。歴史書や魔法書、それに錬金術に関する書物や、魔物に関する研究書物もある。


この部屋はザリウスの固有の空間だった。教皇に仕える者だけでなく、直属の部下やテンプルナイツであっても、この部屋に入ってくるようなことはしない。


逆に言えば、この部屋に入ってしまえば、かなり高い気密性が保持されることなになる。


コンコンコンコン


そんなザリウスの執務室のドアと叩く音がしてきた。


「入れ」


ザリウスは躊躇もなく返事をした。基本的に誰も入れることのない部屋を訪ねてきている人がいるのにも関わらずだ。


「入ります」


そう言って入って来たのは、16~17歳の少女だった。ツーサイドアップの長髪は、燃えるような赤い色をしている。


身に着けているのは、深紅の胸当てにミニスカート。茶色いロングブーツに皮手袋。背には身の丈ほどはある大剣を背負っている。凡そ教会に来る者の装備ではない。


だが、本人はそんなこと気にした様子はなかった。綺麗に整ってはいるが、まだ少女らしさを残して顔立ちは、もっと他のことを気にしているような感じだった。


「よく来てくれた、炎の勇者リオナよ」


ザリウスは立ち上がって、来訪してきた少女に歓迎の意を示した。





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