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森の住人 Ⅳ

俺は腰のホルダーからナイフを抜き取った。


剣を構えたいところだが、生憎、500Gの中古剣は折れてしまっている。


「アイク、どうする? 燃やしてしまう?」


俺の傍にピッタリとくっついているティアが提案してきた。確かに、木のモンスターに対して炎の魔法は効果的だ。だが……。


「こいつら全部燃やすと、俺達も火の海に飲み込まれるぞ……」


完全に囲まれている状態だ。しかも、『暴食の民』と呼ばれる木のモンスターは、こいつらだけじゃない。ここら一帯の木全部が『暴食の民』だ。その全てに炎の魔法で攻撃していたら、鎮火する前にこちも丸焦げになってしまう。


「うぬぬ……。それは困る……」


ティアも状況を理解したようで、呻き声を出している。まあ、一番の有効手段が封じられている状態だから、気持ちは分からなくはない。


「燃やす以外の方法だ。斬るか、潰すか……、もしくは、爆発で吹き飛ばすか――おい、スプライト」


「何よ? 人間、今は呑気に話をしてる状況じゃないでしょ!」


オロオロとしながら飛んでいるスプライトが返事をしてきた。いつもの茶化した態度は見当たらない。


「ここは『暴食の民』の領域だったな? 今から、ここら一帯を吹き飛ばすけど構わないよな?」


「ええーッ!? 何それ!? 吹き飛ばすって――キャッ!?」


スプライトが何やら抗議めいたことを言っていたが、それを遮るようにして、周りの木々が枝を飛ばしてきている。


「こいつら『暴食の民』も草も苔も地面も全部、綺麗さっぱり吹き飛ばすけどいいかってことだ? 森の民の許可をもらいたい!」


俺は鞭のように飛んでくる、木々の枝を避けながら叫ぶ。


「綺麗さっぱり吹き飛ばすって、エッ!? そんなこと――」


流石のスプライトも森の一角が無くなることには動揺があるようだ。そんな重要なことを、ただの妖精が許可を出すなんて難しいんだろうな。そもそも、どうやって、辺り一面を吹き飛ばすのかも分かっていない様子。


「要するに、こういうことをする――ハゼロ!」


ティアは冷静に呟くと、正面に向けて右手を翳した。そして――


ドゴーンッ!!!


突如、爆炎が巻き起こった。ティアが放った魔法だ。単に燃やすのではなく、爆発を主体とした攻撃魔法。爆風と衝撃は凄まじいものがあるが、延焼するようなことはない。


「これを、もっと大きな力でやる」


ティアが攻撃をした跡には、捲れあがった地面と木々の残骸が転がっている。それでも、威力はかなり抑えていたのだろう。目の前にいた2~3本の木が吹き飛んだだけだ。


「ちょっ、な、何なのよそれ!? もっと、他の方法はないの!?」


スプライトはまだ抗議の声を上げている。相手が『暴食の民』であっても、やはり森を壊されるのは抵抗があるようだ。


だが、同じ森に住むものだとしても、相手は木のモンスター。スプライトが何を思っていようが、伝わる相手じゃない。


ただ目の前にいる獲物に向けて攻撃をしてくるだけ。俺達に飛んでくる鞭のような枝は衰えることはない。


「他の方法もないことはない」


ティアがスプライトに返す。その間にも飛んできた枝を防御障壁で防いでいる。


「他にあるなら、それでやって!」


「分かった――キリサケ!」


ティアは斜めに手を振り上げて呟くと、緑色に光る三日月刃が飛び出してきた。それは高速で一本の木に直撃すると、何の抵抗もなく斜めに斬り裂いた。


ティアの魔法によって斬られた木の上半分が、あっけなく地面に落ちる。


「風の魔法か? 凄い切れ味――」


俺がティアの魔法に斬られた木を見ながら言った時だった。斬られたはずの木が、その枝を鞭のように飛ばしてきた。


俺は咄嗟にナイフで弾いたが、一瞬でも反応が遅れていたら直撃するところだった。


「斬っただけじゃ『暴食の民』を倒すことはできないのよ!」


スプライトが大きな声を上げている。木の生命力からしたら、体を真っ二つにされた程度では暫く生きている。切った茎を地面に植えたら、そこから根を生やして成長する植物だっているくらいだ。


あれほどの切れ味を持っている風の刃は確かに強いが、相手との相性が良くない。


「だったら、燃やすか、爆破するしかない……。ああ、毒の魔法を使うっていう手もある」


ティアがスプライトを見ながら言う。スプライトが毒なんて選べないことを分かってて言ってるな。魔王の力で毒の魔法なんか使ったら、森の民どころか、『暴食の民』ですら生息できない場所になるんじゃないのか?


「ああー、もう! 分かったわよ! 爆破で! 爆破一択で! それ以外は駄目だからねー!」


頭を掻きむしりながらスプライトが叫んだ。そもそも、こいつは、俺達がどうやって『暴食の民』の大元を倒すと思ってたんだ? というか、妖精がそこまで考えて行動はしないか。案内しろと言われて、面白そうだから案内してきただけだろう。


「よし、許可ももらったことだし、ティア、派手にやるぞ!」


「任せて!」


俺はティアに向けてニヤリと笑った。ティアも自信あり気な顔で返してくる。


「派手にやる必要はないって! 普通にやってよー!」


普段、揶揄うばかりの妖精も、こうなってしまっては形無しだな。


でも、俺としても冗談や揶揄うつもりで言っているわけじゃない。こいつら『暴食の民』の力を考えると、ある程度のことは目を瞑ってもらわないといけない。


「行くぞー!」


俺は叫びながら飛び出して、狙いを付けた一本の木に思いっきり拳を叩きつけた。同時に魔力も注ぎ込む。セイントナイトを倒した時と同じ、敵を破壊するイメージを思い浮かべながら、魔法(魔力の暴発)を発動させる。


激しい爆発音とともに、空間そのものが破裂し、地面は根こそぎ弾け飛ぶ。その被害は、一撃を受けた『暴食の民』の一部である木のモンスターだけでは済まない。俺の視界にある範囲全ての木々が、文字通り根こそぎ木っ端みじんに吹き飛んでいく。


余りにも大きな衝撃に、スプライトの悲鳴が聞こえてきた気がするが、今はそれどころではない。戦の真っ最中だ。


「ゼンブ、フキトベ」


ティアの方をみると、何やら物騒なことを呟いていた。そして、その声が聞こえてきたのと同時に、大地が大爆発を起こした。


地中から吹き上がって来る焦熱と爆風。大きな地震でもきたのかというくらいの振動が起こり、バラバラに弾け飛んだ木々の破片と土が宙を舞っている。


『派手にやる』とは言ったが、やり過ぎじゃねえの? 俺だって手加減はしたぞ。


「あわわわわわ…………」


ほら見ろ、スプライトが唖然としてるだろうが。ここまで動揺する妖精とか、俺も初めてを見たわ。


「ティア、後は俺に任せておいてくれ」


これ以上ティアにやらせたら、地形が変わってしまう。それは流石にドリアードに申し訳ない。やり過ぎて、道案内の件が白紙に戻されても困る。


「私はまだ大丈夫だけど?」


「ここで本気出しても仕方ないだろ? 魔力は、『暴食の民』の大元を倒す時に取っておいてくれ」


まだやる気のティアを俺は制した。本当にこれ以上はまずいから。『暴食の民』の大元のモンスターと戦う時も、広範囲の魔法は止めてやらないといけないな。


「分かった……」


物足りないような顔をしているが、俺の言うことは聞いてくれたようで、ティアは一歩後ろに下がった。


俺は残りの『暴食の民』を見やる。もう半分以上は地面ごと吹き飛んでバラバラになっていた。いくら木の生命力があったとして、ここまでバラバラになってしまっては、動きようがない。


「さて、残りを片付けるとしますか!」


これほどの力を見せつけたとしても、残っている『暴食の民』が怯んでいる様子はない。そもそも、怯むということ自体がないのか。ただ、生存競争を勝ち抜くという一点にのみ存在している奴らだ。意思もなければ思考もない。感情もないから恐怖もない。


無秩序にその勢力を伸ばして、考えなしに種を広げる。


あるい意味で、もっとも純粋な存在なのかもしれない。その目的に邪な心は一切なく、種を残すという欲望だけに忠実な存在。


俺は鞭のように飛んでくる枝を払いながら、残っている『暴食の民』に拳つ突き付けた。


魔力の暴発を利用した爆発は、太い木々でも枯れ木のように粉砕していく。魔法としての力で作用していないだけで、魔王の魂と結びついた魔力はやはり凄い。


単純に魔力を暴発させてぶつけただけの攻撃で、地面は剥がれ、大木が裂けて空に飛んで行く。


そうして、次々に『暴食の民』を吹き飛ばしていくと、さほどの時間もかからずに、辺り一面は何もない土地に変っていた。





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