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森の住人 Ⅱ

「道案内をしてくれるっていうことか……。それで、そっちの要求はなんだ?」


今、俺達が置かれている状況を考えると、道を教えてくれるというのは非常に助かる。問題は、ドリアードがそのために何を要求してくるのか。


「こちらの要望は一つだけ。この森に住まう怪物を倒していただきたいのです」


「怪物……?」


何やら物騒な話になってきた。


「そうです。この森は本来、ここまで荒れた森ではありませんでした。それは私達の主である、この大樹の精霊エント様が森を統治していたから……。ですが、エント様も過ぎゆく時の流れの中に存在する者……。今となっては、全盛期の力とは程遠いものとなってしまいました……」


ドリアードは悲し気な目で、後ろに聳える大樹を見つめた。エントといえば、木の上位精霊だ。巨人の姿をしていて、森の守護者とも言われている存在。


「要するに、年老いて力が弱くなったってことだな」


「仰る通りです……。ただ、年老いた者は朽ちていき、新しい命の礎となる。これが摂理です……。なので、エント様が寿命を迎えることは問題ではありません」


「まあ、それが自然だからな」


「ええ……。そうなのですが……、問題なのは、この森にもう一つの勢力があることなのです」


「もう一つの勢力?」


「この大樹の精霊エント様が治めるは、摂理と調和を重んじる森の民です。そして、もう一つの勢力が、自らの欲望のままに貪る勢力。私達が『暴食の民』と呼んでいる勢力です。エント様の力が弱まったことで、その『暴食の民』を抑えることができなくなったのです……」


ドリアードの表情が硬くなったのが分かった。かなり煮え湯を飲まされているのだろう。悔しさも顔から滲み出ている。


「要するに、その『暴食の民』と呼んでいる奴らを倒してほしいってことだな?」


「はい……。その通りです……」


「一つ聞いていい?」


そこにティアが質問を投げてきた。


「なんなりと」


ドリアードの方もティアの質問には快く受けてくれるようだ。


「あなたは、怪物を倒してほしいと言った。それなら、その『暴食の民』というのは、具体的にどんな怪物なの?」


それは俺も気になってた。相手がどんな怪物なのか分からないのでは、倒しようがない。


「エント様と同じく大樹です。大樹が怪物と化し、この森のほとんどの木々が、その怪物の配下に入ってしまいました……」


「この森のほとんどが……!?」


俺は驚きのあまりに聞き返していた。広大な面積を誇るワルター大森林のほとんどが、その大樹の怪物とやらに支配されているということだ。とんでもない規模だぞ。


「残された安息の地は、この場所の他、幾ばくかの場所です。我が主たる、大樹の精霊エント様が何とか怪物の侵攻を食い止めてくれてはおりますが、それも限界が近づいております。エント様も精霊としての姿を現すことができないほどに力を使い果たしているのです……」


この場所が他と違って、凄く清らかに感じられるのは、大樹の精霊エントのお膝元だからか。これが本来のワルター大森林の姿ってことか。それが、『暴食の民』という勢力のせいで、魔の森と化しているっていうわけだ。


「もう一つ質問がある」


またもティアがドリアードに質問を投げてきた。


「はい。どうぞ」


「そもそも、暴食の“民”と呼んでいるといことは、複数いるということ。これだけの大きな森の勢力図を書き換えるほどの集団なら、倒しきるにはかなりの時間を要する。私達に、そんな時間の余裕はない」


まあ、確かにティアの言う通りだな。ワルター大森林の覇権を取るような勢力だ。どれだけの数がいるのか想像もつかない。ただ、ティアは、倒しきるには時間がかかるとは言っているが、倒しきれないとは言っていない。時間さえあれば可能だということか。ハッタリで言っているわけじゃないところが凄いよな。


「『暴食の民』は個々の意思を持った存在ではありません。ただ、本能が求めるままに食らいつくすだけの怪物。その大元である怪物を退治していただければ、この森に広がる怪物の力も衰えます。そうなれば、私達で対処することも可能になります。100年もすれば、エント様の後継者も育ち、元の森林に戻ることができるでしょう」


この辺りはドリアード基準の話だな。100年単位で考えている。木の精霊からしたら100年なんて、決して長い時間でもないのだろう。まあ、大元を叩いた後の話は、こいつら森の民の問題だ。俺がどうこういう話じゃない。


「大元の怪物を倒せばいいってことは分かった……。エントの力が衰えて、勢力図が書き換わったのと同じってことだな……。だが、そんな怪物を俺達が倒せるとでも思うのか?」


とは言いつつ、倒せるんだろうけどな。だが、安請け合いをするつもりはない。道案内という報酬だけで、ワルター大森林が魔の森になった元凶を叩けというのだ。割に合わない。


「そのことにお答えする前に、少しだけ聞いていただきたい話があります」


「聞いてもらいたいこと? まあ、構わない。話してくれ」


何故かは分からないが、ドリアードの表情に余裕が戻ったように見えた。それが、少し気になるが、話を聞くだけならいいだろう。


「昨日のことです。夕暮れ時に大きな爆発がありました。森の一部が破壊されるほどの大きな爆発です。一体誰がそんなことをしたのでしょうか……。あれは、森に対する敵対行為……。もし、そんな輩がまだ森の中にいるとしたら、森の守護者として、永遠に森の中を彷徨うように仕向けなければいけませんね……。でも、あれだけの力があれば、怪物も倒してしまうのではないかとも思います……。力の持ち主が私達の味方であるなら……、の話ですが」


それ、俺のことを言ってるな。ドリアードはどこか嫌味な笑顔を向けてきている。完全に犯人が俺だと分かってて言ってやがる。木の精霊だから、木々を通じて情報が入って来るのか? 多分そうだろう。まるで、見ていたかのような口ぶりだからな。


ということは、ドリアードが最初に『財宝を探しに来たのか?』と聞いてきたのもこのためか。俺達が欲に目が眩んだ人間かどうか、もっと言えば敵対する側の人間かどうかを確かめてたんだ。


あの時、財宝の在りかを聞いていたら、『暴食の民』と同類と見做され、ずっとワルター大森林の中を彷徨うことになってたんだろうな。危ない危ない。


「……分かった。引き受けよう。その爆発を起こした犯人は知らないが、俺も似たようなことはできるからな……」


俺は白々しく言い張る。もう、ドリアードの方も分かって言ってるんだ。開き直るしかない。ティアが俺の方を半眼になって見ているが、気にしないことにする。


「そう言っていただけると思っていました!」


ドリアードは、顔をパアッと明るくして言う。そら、そう言うと思ってただろうさ。最初から脅してくるつもりだったんだろうからな。


「俺も冒険者だ。依頼があれば、報酬次第で仕事はするさ……」


道案内は確かに欲しかったから、ドリアードの取引はそこまで悪くはないのだが、やはり時間のロスは痛い。早くしないと、森を出た先の主要な街に教会の手が伸びてしまう。


だが、このまま森を抜けられないのはもっと痛い。っていうか、詰む。となると、この話を断るという選択肢はない。


「流石は私が見込んだ人間です」


「褒めてもこれ以上出せる物はねえよ。それより、怪物の情報だ。大樹の怪物なんだろ? 森の中で木を探すなんて、いくら何でも無理だぞ?」


俺の予想では、目の前にある大樹のような大きな木だとは思うが、如何せん深い森の中だ。見晴らしのいい平原で大樹を探すのとは訳が違う。


「それに関しては問題ありません。森の民であるスプライトに案内をさせますので――出てきなさい」


「はーい」


ドリアードが一声かけると、どこからともなく軽い声が聞こえてきた。


声のする方向は俺の頭の後ろからだ。思わず後ろを振り返ると、顔のすぐ近くに一匹の妖精が飛んでいた。黄緑色の髪に花飾りを着け、背中にある透明な虫の羽で飛ぶ、掌サイズの妖精スプライト。


「『暴食の民』の大元である大樹の場所。あなたなら分かりますね」


ドリアードは、俺の顔の近くを飛んでいるスプライトに優しく声をかけている。


「うん、任せておいて。この人間を案内すればいいのね? へぇ~、結構いい顔してるじゃないの。ふふ、好みかも」


愛らしいスプライトが悪戯に笑いながら俺を見ている。好意的なことを言ってくれてはいるが、どうも揶揄われている気分にしかならない。


「こいつが、案内役か?」


俺は小さな妖精を見ながら、訝し気に言った。これから、この森を支配しているような怪物と戦いに行くのに、こんな小さな案内役で大丈夫なのだろうかと心配になる。


「そうよ。私があなたの案内役をやってあげるの。どう、嬉しいでしょ?」


スプライトはクルクルと俺の目の前を飛んだあと、顔前に止まって、自信あり気に言って来た。


「なあ、他に案内できる奴はいないのか?」


俺はスプライトを無視して、ドリアードに問いかけた。見た目の幼さもあり、どうも頼りない気がする。


「ちょっと! どういう意味よ! 私が案内してあげるんだから、もっと喜びなさいよー!」


スプライトは不満そうに頬を膨らましている。そういう仕草は確かに可愛いとは思うがな。


「心配なさらずとも大丈夫ですよ。彼女も立派な森の民です。この森のことは熟知していますよ」


ドリアードは微笑みながら言ってる。


「そういうこと! だから、私が付いて行ってあげるの。ね、楽しそうでしょ?」


スプライトは俺の鼻先を指で突いてきた。何やらご機嫌に話をしているスプライトだが、そこに――


ブンッ


ティアの平手打ちが飛んできた。


「わっ!? ちょっと、何するのよー!」


間一髪、俺とティアの身長差もあり、平手打ちはスプライトを直撃することなく空振りに終わる。


「アイクから離れて! 私達は遊びに行くわけじゃない。アイクもあなたの案内を嬉しいとは思っていない!」


真顔のティアがスプライトに食って掛かる。なんだか声音も低い。


「ええー、なんでよー? あたし、この人間のこと気に入ったの! 一緒にいるんだからねー」


「何を訳の分からないことを言っているの? あなたに案内してほしいなんて一言も言っていない。アイクだって、他の案内役を要求している。あなたの出番はない」


「何よ、ちっこい癖に生意気なこと言うのね! あたしが案内役をやるって決まってるんだから、あたしが案内するの!」


「ちっこいのはあなたの方。よくもその大きさで、私を小さい呼ばわりできたもの」


「あたしは妖精だからいいんですー! あなたは妖精じゃないから、小さいんですー!」


「また訳の分からないことを言ってるの? あなたは妖精で、小さいの。私はあなたより大きい――」


「おい、ティア……、やめとけ、不毛だ……」


一体この二人は何の話をしているのか? 完全に論点がズレてるぞ。


「うっ……。でも、こいつが……」


悔しそうな顔で俺を見るティア。だが、同じ舞台で争うようなことでもないぞ。完全に子供の喧嘩だ。


「真面目に相手するな……。妖精ってやつはそういうものなんだ……」


俺はティアの頭にポンッと手を置いて宥める。


「アイクがそう言うなら……」


ティアはまだ納得はしていないようだが、一応退く気にはなってくれたようだ。


「こいつは信用していいんだな?」


俺は改めてドリアードに聞き直した。これから森を支配しているような怪物と戦いに行くのに、この妖精で問題ないのか。


「ええ、問題ありません。私が保証いたします」


ドリアードは迷わず返答してきた。


「分かった。それじゃあ、案内を頼むとする」


正直言って、これ以上不毛な口論をしたくないというのが本音だ。だから、このスプライトの案内で納得することにした。


「ふふふ、よろしくねー」


スプライトは嬉しそうに俺の顔の周りを飛んでいる。反面、ティアは不満そうに地面を蹴っていた。




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