交易の街 Ⅲ
俺とティアは、バルマスクの冒険者ギルドでコカトリスの討伐依頼を受け、詳しい出現ポイントなどを聞いてから出発。
コカトリスは街道の近くに巣を作っているようで、餌を求めて街道に現れることがあるようだ。バルマスクに向かう街道を行き来する商人は多いから、必然的に誰かがコカトリスと遭遇してしまうということ。
護衛を雇っている商人ならまだ大丈夫だろうが、そんなに金の余裕がある行商人は多くない。
そこで、バルマスク商会連合からコカトリスの討伐依頼が出されたというわけだ。
コカトリスの出現ポイントは、バルマスクから歩いて半日とちょっとの距離。流石に、そのまま直行していたら夜になるので、途中で野宿をした。金もないからバルマスクの宿には泊まれないという事情も考慮されている。
そして、次の日の朝からコカトリスの出現ポイントに向かって、再び歩き出し、午前中には到着した。
「この辺りにコカトリスが巣を作ってるらしい」
俺は丘陵を見渡してティアに声をかけた。バルマスクに向かう街道は基本的に平野が続いている。丘陵地帯もあるが、馬車の進行を妨げるような場所ではない。
どこからでも来れて、どこにでも行ける。そんな場所がバルマスクだ。だから、凶暴なモンスターが生息している地域であっても、この場所を占領したいと考えたわけだ。
「この先の道は、確かファリス王国から出る道に続いてる……」
ティアが街道の先を見つめながら言う。ティアにしてみれば、コカトリスの討伐より、ファリス王国から出ることの方がよっぽど大事だからな。
「そうだな。コカトリス討伐の報酬をもらったら、またこの道を通ることになる」
「どれくらいの数を倒せばいい?」
「できるだけ多く……と言いたいところだが、コカトリスは群れをなしてるわけじゃない。今日一日で、倒せるだけ倒すっていうのが目標だ」
図体も大きなコカトリスは、基本的に群れない。群れを成すモンスターもいるが、そういうモンスターは体の小さい奴らだ。キラービーは群れるモンスターの代表だろうな。小さいくせに毒針は強烈だから、正直言ってあまり相手にしたくはない。
「私もできる限り魔法で戦うから」
「無理はしなくていい。まだ万全の状態じゃないだろ?」
「万全の状態じゃなくても、問題はない。見える範囲くらいなら地形を変えられる」
「地形まで変えるんじゃねえよ! そんなに強い魔法使ったら、コカトリスが消滅してしまうわ! 討伐した証拠にトサカと尻尾を持っていかないと報酬が貰えないからな!」
一体どれだけの威力の魔法を使うつもりでいたんだ、こいつは……。まあ、タニアが居た村を焼き払った威力を考えると、それくらいのことはできるのだろう。
「なるほど、トサカと尻尾を残せばいいのか」
「そっちの方が難しいだろ! そんなに器用なことできるのかよ?」
動き回るコカトリスの胴体だけを綺麗さっぱり消滅させる気なのだろうか? でも、ハルタートの街で木箱の中に閉じ込められた時、魔法で木箱だけを壊してたから、そういうことも可能なのかもしれない。
「大丈夫、力を加減したらいいだけのこと」
どうやらティアは自信あり気の様だ。だったら、やらせてみるのもいいかもしれない。
「そうか、なら今回は頼りにさせてもらうぞ」
「任された」
ティアは既に勝ち誇ったような顔で返してきた。まあ、魔王竜からしてみれば、コカトリスなど雑魚でしかないのだろうけどな。
それから、俺とティアはコカトリスを探して丘陵を歩いていく。少し高台になっている所に上って、周囲を見渡してみると――
「いた、あそこに二匹いる」
人間よりも大きな鳥型のモンスター。鶏の頭と蛇の尻尾が特徴的だ。
おそらく番なのだろう。木の枝を組み合わせて作った巣も見える。卵はまだないようだ。このまま放置していれば、いずれ卵を産んで個体数を増やすことになるだろう。そうなる前に討伐させてもらう。
「確認した。仕掛ける?」
「ああ、コカトリスは好戦的なモンスターだから。それに、巣があるんだ、俺達に気が付いたら、向こうからも仕掛けてくるさ」
「分かった。タイミングはアイクに任せる」
「タイミングも何もねえよ。今すぐ仕掛ける。ティアは後方から援護してくれればいい」
「了解した」
俺はティアの返事を聞くと、丘陵を一気に駆け下りて、コカトリスの番に向かって行った。走りながら剣を抜いて、いつでも攻撃できるようにしておく。
「クエェェェェーーーッ!?」
コカトリスの一体が俺に気付いて、けたたましく鳴き声を上げる。その声で、もう一体の方も俺に気が付くと、威嚇するように鳴き声を上げて向かってきた。
闘争心旺盛なモンスターだけあって、俺のことをすぐさま敵と見做して迎撃に来た。
こっちとしては、逃げられるより好都合だ。
先に気が付いた方の一体が、翼を羽ばたかせながら、鋭い足の爪を突き立ててきた。
聞いた話では、コカトリスは蹴りで木を倒せるほどの威力を持っているそうだ。
俺は突き出されたコカトリスの蹴りを右に避けると、同時に剣を振り上げた。その一撃で、コカトリスの片足を切断。痛みに耐えかねたコカトリスが、悲鳴のような鳴き声を上げる。
足を斬られたコカトリスが、丘陵の草原をのた打ち回る。俺は止めの一撃を入れるべくコカトリスに飛びかかろうとした時だった。
コカトリスは足を斬られながらも俺の方に顔を向けて、毒の息を吐いてきた。
紫色の水蒸気のような息が俺に吹きかけられてくる。俺は咄嗟に横に飛び、これを回避。結構ギリギリのところだった。
だが、まだ毒の息は止まっていない。コカトリスは顔だけを俺に向けて来る。
「遅い!」
しかし、倒れた体勢での攻撃だ。完全には俺の方へと毒息を向けることはできではいない。その隙を突いて胴体に一閃。コカトリスの体から血しぶきが飛び散る。
流石に、この一撃でコカトリスからの毒の息も止まってしまう。
俺は苦しそうにしているコカトリスを楽にしてやろうと剣を振りかぶり――
「ケエェェェェーーーーッ!!!」
憤慨した番のコカトリスが俺に襲い掛かってきた。大きく翼を羽ばたかせて、両足の爪を俺に突き立てて来る。
俺は標的を変えて、剣を構えなおす。そして、一歩踏み出して俺の間合いに入れ――
バリバリバリバリーッ!!!
突然、俺の目の前に雷光が走った。空気を割るような轟音と、ビリビリと肌に感じる痺れ。目の前には、雷の槍に貫かれたコカトリスがいた。
コカトリスの胴体の中心に突き刺さった雷の槍は、数秒もしない内に消え去る。残されたのは、黒焦げに感電したコカトリスの死骸だ。
「アイク、大丈夫だった?」
ティアが丘陵を駆け下りて俺に声をかけてきた。
コカトリスを倒した雷の槍は、ティアが放った魔法だ。一発で仕留めている。
「ああ、大丈夫だ」
俺も少し感電したけども。
「どう? 上手くやれた?」
ティアは倒したコカトリスを見ながら訊いてきた。
「……上出来だ。これなら、トサカと尻尾を持っていって報酬をもらうことができる」
ティアの雷魔法を喰らったコカトリスの胴体は丸焦げだが、頭部と尻尾は少し焦げた程度で済んでいる。
「そう、なら良かった」
上手くやれたことに一安心なのだろう。ティアはホッとした表情を見せている。
「よし、それじゃあ、トサカと尻尾の処理は俺がするから、少し待っていてくれ」
「分かった」
俺は、まだ虫の息の一体に近寄ると、止めの一撃を入れた。そして、トサカと尻尾を切り落として、麻袋に詰める。もう一体の方も同じ。討伐の証拠となる部位を切って麻袋に入れる。
「アイク、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「コカトリスの肉は食べることができる?」
俺がコカトリスの処理をしている中、ティアがそんな質問をしてきた。確かに、コカトリスの体のほとんどが鳥だ。その肉を食べることができるかどうか。食べらないこともないかもしれない。
「どうだろうな……? 俺もコカトリスの肉は食べたことがないから分からない……」
「だったら、食べてみる?」
ティアは肉食のドラゴンの血が混じっているからか、肉という物には興味を示す傾向がある。
「……いや、止めておこう」
「どうして?」
「コカトリスは毒の息を吐いてくるんだ。体に毒をため込んでいるんだと思う。強力な個体は、視線にも毒があるくらいだからな。喰って、腹を壊したくはない」
俺もコカトリスの肉については少し興味があった。だけど、貴族だった頃にもコカトリスの肉を食べるなんて話は聞いたことがない。
人を襲うモンスターだから討伐するのであって、食用に狩るわけではない。中には、コカトリスの肉を食べた奴もいるかもしれないが、俺は食べる気にはなれない。
「そういうことか……残念」
ティアはがっかりした様子だった。
「そう落ち込むな。この二体だけでも報酬は10,000Gだ。バルマスクで何か美味い物を買ってやるよ」
「串焼きがいい!」
「50Gの豚の串焼きか? ははは、まあいいよ。それが食べたいならな」
何とも安上がりなお嬢さんで助かる。
「うん! 頑張って、もっとコカトリスを討伐する!」
ティアはかなりやる気のようだ。俺達にしたら簡単に倒せる相手で、一匹5,000Gの報酬だからな。今のうちに稼いでおくのも悪くない。
それから、俺とティアは、再びコカトリスを探して丘陵地帯を歩いた。
が、結局、その後見つけることができたコカトリスは2体だけ。コカトリスは群れを作らないから、数を見つけることは困難だと予想はしていたが、一日中探し回って倒したコカトリスの合計は4体。
他の冒険者もコカトリス退治の依頼を受けているだろうから、既にかなりの数が駆除されていたということだろう。それでも20,000G手に入るのだから、報酬としては悪くないか。
ティアと出会う前の俺なら一日に20,000G稼ぐなんて、絶対にできないことだったしな。
そうして、コカトリスの討伐を終えた俺達は、バルマスクに帰るために街道に戻っていった。




