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交易の街 Ⅰ

      ― 1 ―




キシル村で食料を調達してから、俺とティアは街道に戻って歩いていた。


一日雨が降ってぬかるんでいた道も、その後の晴天によりすっかり渇いている。


ハルタートの街を出てから、もう1週間にはなる。この辺りになってくると、バルマスクも近いということもあって、行商人の馬車も目立つようになってきた。


「アイク、バルマスクにはもうすぐ着きそう?」


昼過ぎの街道で、すれ違う馬車を見ながらティアが訊いてきた。バルマスクは交易の街だという話をしていたのを覚えているのだろう。


「ああ、後一日もあれば着くはずだ」


「ハルタートよりも大きい街……」


「楽しみか?」


「うん。どんな所なのか見てみたい」


ティアが興味あり気に言ってきた。ハルタートに着いた時も、ティアははしゃいでいた。大きな街の活気というのは確かに興奮するものがある。


「ファリス王国第二の都市だからな。王都マイセンの次に大きな街だ。今日も天気が良いから、予定通り着けるはずだ」


俺は空を見上げながら言った。風は渇いた空気を運んできている。空は高くて青い。しばらく天気が崩れるようなことはなだろう。


「早く行って、仕事を見つけないと」


ティアはやけにやる気を出している。以前、バルマスクならランクの高い仕事がいくらでもあるという話をしていたが、それでやる気を出しているのか。


「そうだな。バルマスクの冒険者ギルドなら、報酬の良い仕事はいくらでもある」


「また串焼きを食べることができる?」


透き通るようなティアの青い目が、俺を見つめてくる。


「余裕でできる! 串焼きだけじゃなくて、もっと美味い物も食べさせてやるよ」


一本50G程度の豚の串焼きでやる気を出しているのか。まあ、そんなことだろうとは思っていた。


「あの串焼きよりも、美味しい物……。駄目……、その欲望は身を亡ぼすに値する……」


「値しねえよ! お前の欲望どんだけ低いんだよ。聖人でももっと欲張るわ!」


ティアの価値観がよく分からない。もっと美味い物を食べさせてやろうかと思っていたが、そんな物を食べさせたら一体どうなってしまうのか。ちょっと興味はある。


こんな会話をしながら、この日も位置に歩き続け、街道の脇で野宿をし、次の日も朝から歩き続ける。


そうして、太陽の位置が一番高くなった頃。俺とティアは、ファリス王国第二の都市、バルマスクへと到着した。




      ― 2 ―




「す、凄い……」


ティアがバルマスクの入り口で声を漏らしていた。


バルマスクは交易の拠点でもあるため、防衛のために、街は見上げるほど高い外壁に囲まれている。いきなりそこに断崖が現れたかのような迫力のある大門だ。


平時は大門が開かれているが、有事の際には分厚い鉄大門で閉ざされる。とは言っても、有事の際なんてほとんどない。300年前の魔王軍との戦争があった時代の名残らしい。


「俺も最初にバルマスクの街を見た時は、ティアと同じ反応だったよ」


「アイクは、いつ来たことがあるの?」


「初めて来たのは子供の時だ。両親に連れて来てもらったことがある。冒険者になってからは、一度だけだな」


初めてバルマスクに来た時、子供だった俺は、何の目的でバルマスクにまで来たのかはよく分かっていなかった。ただ、都会に来れたということが嬉しくて、はしゃいでいたのを覚えている。


「早く入ろう!」


少し興奮気味のティアが俺の服を引っ張ってくる。本当に、こういう所は子供みたいだな。


「分かった、分かった。慌てるな」


俺はティアに引っ張られながらバルマスクの街へ入って行った。


巨大な大門の下をくぐり抜けると、まず見えるのが馬車の群れだ。行商人が得意先の商店に品を下ろしたり、荷物を受け取って、行商先に行く準備をしたりしている。


また、得意先がない行商人にも、直接商談の話を持ち掛けてたりと、入り口から熱気に溢れている。


そして、次に目に付くのが建物の群れだ。


整備された石畳の道の両脇には、いくつもの店が軒を連ねている。


「バルマスクの入り口から中央にかけて建っているのは、ほとんどが商店だ」


俺はキョロキョロと周りを見渡しているティアに声をかけてやった。


「これのほとんどが、店……!?」


「行商人から仕入れた物を売買する店が多いな。他には行商人相手の酒場や宿。この辺りの店を経営する人を相手にする店なんかもあるな。バルマスクの住民相手の店は、もっと奥の方にあるみたいだな。その辺りはあまり行ったことはないけど」


「店が店を呼ぶのか……」


「まあ、そんな感じだ。そうやって、バルマスクは大きくなったんだと思う」


交易に便利な場所に人が集まり、人が集まった場所では商売が始まる。商売が始まれば、人が集まり、新たな商売が増えていく。それがバルマスクという街だ。


「冒険者ギルドはどこにある?」


「もっと先だ。バルマスクの中央通りにある。冒険者ギルドはバルマスクにとっては重要な場所だから、人通りの多い所に建ってるんだ」


「冒険者ギルドが重要な場所なの?」


「行商人相手の仕事が多いからな。護衛の仕事とか、街道に出たモンスターの討伐とか。安全に交易をするために、冒険者ギルドにはいつも依頼が殺到している。俺達冒険者はその仕事を請け負って、報酬をもらう。まあ、持ちつ持たれつの関係なんだが、割の良い仕事が多いけど、危険な仕事も多いのがバルマスクだ」


「危険な仕事も多いのか……」


「だな……。野盗なんかは、バルマスクに繋がる街道を狙ってくるし、人が多いってことは、人を狙ってくるモンスターも多いってことだ。あと、地域的にも危険なモンスターが出没する場所でもある」


「危険なモンスターが出没するのに、交易が発達したの……?」


「そのおかげって言ったらあれだけど、冒険者ギルドが大きくなったんだよ。交易に向いている立地だから、モンスターを駆除してでも自分たちの場所として勝ち取った。それに貢献したのが冒険者ギルドだったてわけだ」


そういう歴史もあって、バルマスクにおける冒険者ギルドの地位は高い。


「それなら、冒険者にとってもこの街は住みやすい所なんだ」


「実はな……、そうでもないんだよ……」


「そうでもない? どうして?」


「危険な仕事が多いって言っただろ。バルマスクの冒険者ギルドは、ベテラン御用達だ。俺みたいな新米冒険者ができる仕事なんて何一つなかったんだよ……」


「なるほど……。それは、確かに世知辛い……」


「だろ? だから、俺もいつかはバルマスクで仕事ができるような冒険者になりたいって思ってたところなんだよ」


俺はニヤリと笑って言った。魔王竜の魂と結ばれたことで、とんでもない力を手に入れた。そのおかげで、俺はバルマスクの冒険者ギルドで仕事をしようというわけだ。一足飛びに目標に到達してしまった。


「アイクがそれでいいのなら……、私は……」


ティアが急に俯いてしまった。何か気になることでもあるようだ。ああ、そうか――


「ティアが気にすることじゃない。俺が選んだことだ。むしろ、俺を助けてくれたのはティアだ。そのことは感謝している」


俺はフードの上から、ティアの頭を軽く撫でてやった。俺が魔王竜であるティアと魂を結ぶことになったのは、俺がティアを守ろうとして殺されたからだ。そのことを未だに気にしているのか。


「うん……。アイクが納得してるなら……」


「辛気臭い話はなしだ。このまま行けば、冒険者ギルドに着くぞ」


俺はもう一度、ティアに微笑んで言った。


「うん……、行こう」


ティアも俺に応えるようにして返事をしてきた。


それから、バルマスクの街並みを見ながら歩いて行く。大勢の人達とすれ違っていく。誰も俺達のことは気に留めない。それもそうだろう。ここは商人の街だ。お世辞にも身なりが良いとは言えない俺達を相手にするような商人はいない。


逃亡中の身からすると、声をかけられないのは非常に都合が良い。みすぼらしいだけの旅人なんて、珍しくもない。


そして、やって来たのがバルマスクの冒険者ギルドの前だ。


階段を上った先にある正面の入り口は大きく、多くの冒険者が出入りしている。建物は直方体に切り出された石材を互い違いに並べて積み上げられており、まるで要塞のような威圧感がある。


「ここが……、バルマスクの冒険者ギルド……。全然違う……」


ティアが巨大な冒険者ギルドを見上げながら口を開いている。


「そ、そうだろ……。これがバルマスクの冒険者ギルドだよ……」


かくいう俺も、今更ながらに緊張してきた。以前、バルマスクに来た時は、前を通っただけの冒険者ギルドだ。だけど、今からその冒険者ギルドで仕事を探す。怖気づいている場合ではない。俺は自分に渇を入れて、冒険者ギルドの中へと足を運んでいった。





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