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街道を外れて Ⅳ

赤く熱された鉄板のようになっている地面に、雨が降り注ぎ、一瞬で蒸発していく。それは、瞬く間に水蒸気となって充満していった。


まるで、蒸し器の中にでも放り込まれたような熱気に、俺は顔を顰めながらもティアに話しかけた。


「これで、もう蘇ることはないよな?」


「大丈夫。完全に焼失させた」


ティアの言葉通り、ゾンビはおろか、民家だった建物すらなくなっている。残っているのは、俺達がいるタニアの家だけ。


「そうか。ならいいんだけど……。ところで……、さっきの魔法……なんだけどさ」


「うん」


「エンダル湖で見たのとは、また違う魔法だよな?」


同じ炎の魔法だったが、どこか違うように見えた。エンダル湖で見たのは、吹き上がるような地獄の業火だったが、今のは純粋に炎だけの魔法だった。それがどう違うのかと言うと、説明はできないが、印象が違ったとしか言いようがない。


「敵を倒すというイメージと、ただ、炎で燃やし尽くすだけっていうイメージの差」


「イメージの差? そもそも、魔法の詠唱に当たる部分はどこだったんだ?」


一応、下級とは言え貴族だった俺は魔法の授業を受けている。まあ、睡眠学習だったから、あまり覚えてはいないが、最低限魔法に関して知っていることとして、魔法には詠唱がある。詠唱なしに魔法は発現しない。


「魔法を使うのに詠唱は必要ない」


「んなわけないだろ! 魔法に疎い俺でも知ってるわ! 魔法っていうのは詠唱しないと、魔法自体に意味をなさない」


「私は詠唱が必要な魔法を知らない」


「知恵の宝珠にある魔法は、全部詠唱なしの魔法ばかりか?」


ティアの知識の源は基本的に、額に埋めこまれている豆粒ほどの宝石だ。ティアの母親である魔王レイヴィアが娘に残した知識の宝石、知恵の宝珠。


「詠唱なしの魔法? そもそも、魔法を使うのに詠唱は必要ない。詠唱がない魔法と言われても、それが魔法だとしか答えようがない」


ティアが困った顔で返してきた。これはお互いの認識がズレてるな。


「つまり、ティアが言いたいのは、魔法っていうものに、詠唱の『ある』『なし』っていう考え方自体がないってことだな?」


「そういうこと。魔法を使うのに、どうして詠唱が必要なのかが分からない」


「ティアの母親が使ってた魔法が、そういうものなんだな……」


魔王が使う魔法か。詠唱なしに発言する魔法。しかも、威力は目にした通り。いや、それ以上だろう。ティアはまだ万全の状態ではないのだ。


「魔法っていうのは、そういうものだと思っていた」


「そうか……。で、俺達が使う魔法なんだけどな、どんな魔法が発現するのかは、詠唱によって決まるんだ。ティアの場合、詠唱がないにも関わらず、意図した魔法を発現させることができるのはどうしてだ?」


「イメージしたことが魔法として発現する。後は魔力を込める量で威力が変わる」


まじかよ。魔王レイヴィアの魔法って、そんな理屈を飛び越えた物だったのか。


「イメージしたことが魔法に……。凄いな……」


俺は素直に驚嘆するしかなかった。でも、そんな魔法を使う魔王を倒したのが勇者アクレイア。どんなに凄い奴だったんだろうか。物語の中に出て来る勇者アクレイアの話だけでは、想像もつかない領域にいそうだ。


「アイクにもできはず」


「えッ!? 俺にも!?」


俺は思わず間の抜けた声で聞き返してしまった。子供の頃から剣技一本で育ってきたこともあり、魔法に対しては苦手意識がある。魔法が苦手だったから、得意な剣にだけ傾倒したと言ってもいいかもしれない。


「私の魂と結ばれたアイクなら、できて当たり前」


「そ、そうか……。そうだよな。俺はティアの魂と結ばれたんだ。俺にもティアみたいな魔法が使えるかもしれないよな!」


テンプルナイツの隊長格に殺されて、ティアが結魂の儀で俺を生き返らせてくれた。その結果、俺は魔王竜の力を手に入れることになったのだ。だから、俺にも魔王の魔法が使えるはず。勇者に憧れていた俺が、魔王の魔法を使えるというのは考え物だが。


「魔法は別に難しいことじゃない。感覚で使える」


「感覚で使えるって言われてもな……。まあ、いいか。魔法が使えるなら、それに越したことはない。魔法の練習は、また今度だ」


魔法が使えると分かって、ちょっと試してみたいという気持ちもあったが、ここは死者が眠る場所だ。折角、安らかに眠ることができるようになったのに、俺の魔法で騒がしたら悪いからな。


俺とティアは、そのままタニアの家の軒先で雨宿りをすることにした。




      - 2 -




翌朝、雨はすっかり上がって、明るい朝日がキシル村だった場所を照らしている。


「陽の光の下に晒されると、やったことの重大さをまざまざと見せつけられるな……」


焦土、焼け野原。それ以外の言葉は当てはまらない。俺は真っ黒に焦げた地面を見渡しながら呟いた。


畑を焼き払ってから、作物を育てる方法を聞いたことがあるが、それでもここまではやらないだろう。単純にやり過ぎた感がある。


「もう、ここには人は住んでいなかった。だから、問題はない……、と思う……」


夜目が利くとは言え、暗い中でよく見えなかったが、ティアも朝になって自分がやったことの大きさを実感しているようだ。声が若干震えている。


「それが不思議なんだよな……。キシル村って、いつ無人になったんだ? キシル村が廃村になったなんて聞いたことがないぞ?」


キシル村からバルマスクに出稼ぎに来る話を聞いたのは、いつのことだったまでは覚えていないが、それほど昔というわけじゃない。


考えられるとしたら、キシル村というのが昔あって、キシル村からの出稼ぎという言葉だけが残ったという可能性もある。実際に会ったことがなくても、話だけならいくらでも出回るからな。


「知恵の宝珠には、キシル村っていう名称もない。それより、食料の確保ができなかったのは問題……」


ティアが険しい表情で言ってきた。


「その問題が残ってたな……」


確かにティアの言う通り。食料を確保するために寄り道した村が廃村だった。当然、食料を確保できる見込みもない。


仮に、食べることのできる保存食が残っていたとしても、昨晩焼き払った後だ。


「また、川で魚を採る?」


「そうだな。食料が尽きる前に山に入って、鹿を仕留めてもいいしな」


こういう時に田舎育ちで良かったと思う。家が没落して、冒険者になりたての頃も、山にある物で、何が食べられて、何が食べらないのかを知っていたことで、どれだけ助かったことか。全て、子供の頃の遊びから学んだことだ。


俺とティアはキシル村だった所を後にすると、辿って来た獣道を引き返していく。


昨日の雨の影響で、地面はぬかるんでいて、草も湿っている。はっきり言って、歩いていて気分の良い道ではない。


ほとんど人が通らない道だから、整備も何もされていないから仕方のないことだと諦めて歩く。


昨日は必死で走ってきた道だ。街道からの距離も結構ある。


「なあ、ティア」


「なに?」


「食べれない物ってあるか?」


俺はふと思い出して、ティアに聞いてみた。食料を調達するにしても、食べらない物が何かを聞いておこうと思っていた。


「タニアが作った料理」


「それ以外だ」


あれは料理ではない。鍋の中にたまたま動物の死骸と排泄物が入っていただけだ。


「分からない……」


「……ああ、そうだよな……」


300年間閉じ込められていて、食事をしたこともないからな。食べられない物が何かっていうのは経験がないか。『分からない』って答えているってことは、知恵の宝珠にもその知識はないってことか。


「じゃあ、今まで食べた物の中で、これはもう食べたくないなっていうのはあるか?」


「ない」


「俺が作った猪とヤギのミルクのスープも、また食べてみたいって思うか?」


「うん、あれは私の思い出の味。初めて食べた料理だから。焼き過ぎた猪の肉は硬かったけど、食べ応えがあって私は好きだった」


なかなかワイルドなティアリーズさんだな。焼いた後、一日たった猪の肉なんて、硬くて喰えたもんじゃなかったけど、ティアは大丈夫だったようだ。


「ワイルドボア駆除の仕事があれば、また引き受けてもいいな。倒せば、食料も確保できるし」


「私としては、豚を駆除する仕事があってほしい」


「ねえよ、そんなの」


おそらく駆除した豚を焼いて食べることが目的なんだろうが、家畜として飼われている豚を、誰が駆除してほしいと頼むのか。


「そうか……。それは残念……」


ティアは非常に残念そうな顔をしている。本気でそういう依頼があるのかもと期待してのかもしれない。


「金が手に入ったら、豚の串焼きくらい買ってやるよ」


「本当か、アイク!」


ティアの顔がパァッと明るくなる。分かりやすい奴だ。


「本当だ。約束する」


本当はもっと美味い物も喰わせてやりたいところなんだがな。今はそんなに金がない。金に余裕ができたら、本物の料理人が作る料理を食べさせてやろう。


そんな会話をしながら獣道を進んで行く。


朝から出発して、もうすぐ昼になる頃だろうか。ずっと歩き続けているから、もうすぐ街道に出るんじゃないかと思っていた時だった。


「こんな道あったか……?」


俺達は三叉路にやって来た。街道から逸れて、真直ぐ進んできたはずだ。途中で分かれ道はなかったはず。


俺は地図を取り出して確認をしてみる。


「どうしたの……?」


ティアが心配そうに地図を覗き込んできた。


「いや……。こんな道あったかなって……」


地図と方角を見比べる。太陽の位置からすると、俺達が向かっている方角は街道に出る道で間違いない。大雑把な地図だから、こんな獣道まで載ってはいないが……ん? 待てよ……


「もしかして……。こっちの道が……!?」


地図と現在地を見比べてみる。街道はもう少し行ったら出るはずだ。そして、地図に記載されているキシル村の位置。街道からそこまで離れてはいない。ということは……。


「道……、間違えてた……?」


「そう思うか?」


俺の質問に対して、ティアが無言で頷く。正解だ。


ということは、昨日の村はキシル村じゃなかったってことか!? 地図にもない村に辿り着いてってことか!? 確かに廃村だ。地図に載るわけがない。雨が降って来たことで、道を間違えて、迷い込んだ先が廃村だった。そして、迷い込んだのがたまたま魔王竜で、時間帯が黄昏時だったと。


「ティア……。こっちがキシル村だ……」


「私もそう思う」


そうして、キシル村への正しい道を辿っていくと、ほどなくして到着。小さな村だが、活気のある村で、バルマスクへの出稼ぎから返って来た人も多く、村にしては豊富な物資が揃っていた。


俺達は無事、キシル村の人達から食料を買うことができたのであった。





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