第25章
「な、なに言ってんだよ。 本物の魔女なんて伝説上の生き物なんだろ。 こ、こいつが伝説っぽいか? 明らかに変な奴だろ? ほら、伝説っぽくない! 魔女じゃない! 爺ちゃんの勘違いだって」
リオンは、セレネの顔を老人にクイッと向けて狼狽する。 そして、リオンは壊滅的に嘘が下手だった。 原始人は伊達じゃない。
セレネ自身、この老人にはいずれ正体がバレると思っていたが、まさか欠伸をしている時にカミングアウトされると思っていなかった。 舌を噛んでしまい、涙を流している。
そんな2人を余所にドクターMは、にっこり笑って答えた。
「踏み方が、以前出会った魔女の知り合いによ~似ておったんじゃ。 あの力加減にワシは、一目惚れしたんじゃよ」
最低な判別のされ方だった。
「あ……さいですか」
呆れたリオンの顔を見て、疑われていると認識したドクターMは、更に付け加える。
「ほれ、頭は忘れても体が覚えていると言うではないか!」
何故か必死に弁解する老人。 あえて言おう、そこじゃない。
普通の人間なら1秒でも早く忘れておきたい記憶だった。
「うん? 以前って……昔、セレネに会ったことがあるのか!? いつ? どこで!? セレネの記憶について何か知ってないか? どこで会ったんだ、爺ちゃん! 思い出してくれ爺ちゃん!! まさかこんなところで知り合いに会えるなんて! よかったなセレネ」
リオンは、老人を持ち上げて揺さぶる。
ドクターMの首が前後にガクガクガクとヘッドバンキングしている。
「わわ、ワシが出会った魔女は、紅い髪じゃ。 名前も知らんし、スリーサイズも知らん。何年か前に会ったから、まだどこかにおると思うぞ。 ハハッ!」
首がゴキゴキと、おかしな音を立てているのに、何故か幸せそうに声を出すドクターM。
それは何故か。
彼がドMに他ないからだ。
「紅い魔女……本当にそいつも魔女なのか?」
「魔女じゃろうて。 着替えを覗こうとして、改造した魔力探査機をカメラの代わりに使ったんじゃが、計測機がイカれてしもうたよ。 あれはMFの魔力も計れる計測機じゃ、MFより多い魔力を所持する人間などあり得んで―――かっは!」
その魔女に代わりに鉄拳制裁をして、リオンは思った。 自分も人を殴ることに慣れてきたなと。
思わぬ手掛かりを見つけたことに喜んだが、結局何もセレネに関することはわからなかった。
(魔女は、セレネだけじゃない……。 会うことが出来れば何かわかるかもしれないな)
「っていうか、色んなやつに踏まれてるんだな。 爺ちゃん今何歳だよ? もっと体を大事に扱わないと死んじまうぞ?」
先ほどまで顔面を踏みつけ、顔面にパンチをめり込ませた少年が言う。
いくら頑丈な体でも歳を取れば弱ってくる。 見た所、80歳は優に超えているであろう老人の体が心配になったリオン。
「今年で364じゃ、そろそろ歳じゃで、気を付けるとするよ」
老人の体は頑丈過ぎた、そして80歳を優に超え過ぎていた。
「何を食べたらそんなに生きれるんだ?」
セレネが興味津津に尻尾を振りながら、自称:364歳の老人に問いかける。
「落ち着け。 普通死んでるだろうがよ!!」
「いや、こうして生きているぞ?」
「嘘なんだよ、あり得ねぇって! 常識的に考えたらって……あっ、すまん。 そうだったな、お前は変な所で常識がわからないんだったな」
騙されているセレネに言いかけて止めた。 彼女は記憶と一緒に常識というものが欠落している節がある。 今回もそれが災いしたのだと判断したリオンは、またやってしまったと自分を責めた。
「失礼じゃな。 自分の歳ぐらい覚えておる。 まだ、ボケてはおらんよ。 間違いない、今年で368じゃ」
「……言ってるそばから、さっきの数字と違うんですけど」
リオンに指摘され老人が目を点にして汗を流す。
暫し、沈黙。
静かすぎて外の声が聞こえた。 誰かが酔って倒れただとか、貧血で倒れただとかの会話で賑やかになっているようだ。
「から4引いた歳じゃ、ハハッ! いや、縁起が悪いからやっぱり5引いてくれ」
「えらく変わった歳の教え方するんすね!! って、な・ん・で・そ・ん・な・にコロコロ歳が変わんだぁこらぁ!!」
リオンがドクターMの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「100を過ぎた頃から歳何ぞ、管理し切れておらんよ。 ワシはドワーフじゃ。 人間の物差しで計らんでくれ~」
「ドワーフ? 嘘だろ……本当にあんなのがいるわけねぇじゃねぇか!?」
いや、こうして魔女がいるということはドワーフがいてもおかしくない。
空中で足をバタバタする自称:ドワーフのドクターM。
手先が器用で屈強な小人、ドワーフ。
鍛冶が得意で、刀や鎧を作って神々に提供していたと言われる伝説の種族、ドワーフ。
それが……コレかと、リオンは目細める。 昔読んだ絵本の知識に誤りがあるのかもしれない。
いや、ドワーフの伝説は美化され過ぎた空想なのだ。 だって、現実はご覧の通り醜い。
女性に踏まれて奇声を上げる小人、ドクターM。
細くて白い足が好みの小人、ドクターM。
踏む者をドSに目覚めさせる小人、ドクターM。
(誰だ……あの絵本を書いたやつは。 出会った伝説がこうも変人ばかりだと他の伝説も恐ろしくなってきたぞ)
魔女はセレネ、ドワーフはドクターM。 普通に生きていれば恐らく会うことができないであろう伝説の生き物達。
今の所、100%まともな神経をしていない。
目の前の老人は、容姿からもそれとなくドワーフの雰囲気はするが、彼らはもっと屈強な小人だった筈。 そして、ドワーフがドMなんて認めたくない。 ドSでも嫌だ。
「本当じゃ。 いいから降ろしてくれ。 お主、今の状況がわかっておらぬのか? ワシらは狙われているのじゃぞ! こんな所で棒立ちになるアホがどこにおるんじゃ!! はよ、座るんじゃ!」
その時、銃声がした。
表通りが騒がしくなっている。
隠密達が動き出したのかとリオンは、姿勢を低くして外の様子を見ようとベッドから窓を覗き見る。
「爺ちゃん……今の、銃声だよな? まさか、ノーションさんが撃たれたんじゃ!」
血相を変える少年を宥めるように、老人が言った。
「大丈夫じゃ、あやつがそんなへまはせんよ。 それに敵さんも見つけてくれと言わんばかりの発砲はせん。 村人も武器は押収されておるじゃろうし、恐らく、軍の威嚇射撃じゃろ」
老人はカーテンを開けて、窓を一望する。
「よ~く見ておくんじゃ、これが、軍の正体じゃ。 お主が考えている軍の姿かどうか確かめるにはちょうどいいんじゃないかの。 魔女の件はこれが終わってからじっくり話してやるとしよう。 ワシもさっき思い出したことなんでな、魔女とは積もる話もある」
「ちょっと! 外は危ねぇんじゃねぇのか!」
リオンは窓に近づいて、外の成り行きを観察している老人を抱え込もうとした。
「なに、彼奴等とて共和国軍と鉢合わせになることは避けよるて。 下手をすれば戦争がまた始まるからの。 そして、戦争が始まると今の帝国に勝機はない、隠密共は今頃、一目散に姿を隠しておるじゃろう」
悲鳴が止み、表通りに静寂が訪れている。
気味が悪い。
物音を立てれば何かに襲われるのではないかという強迫観念に駆られる程静まり返った夜の村。
ウインド村を思い出す。
そんな中で、外でガラガラガランと大きな音を立てた馬鹿がいる。
すぐさま、静まり返ったが、軍人が声を上げて通りは瞬く間に混乱状態に陥った。
「爺ちゃん、一体この村で、何が起こってんだ」
「集金じゃよ。 生かしてもらえる代わりに税を納めるのがこの村のルール。 納めれん者は、足りない分を働いて支払う」
自称:ドワーフが、窓とは反対側にある部屋の入り口へ向かってゆっくり歩き始めた。
「そんな税金ありかよ! そんなルールがまかり通ってるのか? 上層部は? 官僚達は何してんだ!」
ウインド村にも軍が統治に来ている筈だ。 もし、軍の統治がそんな横暴なやり方ならば、金の無い村人は全員死んでしまう。
曲がったことが大っ嫌いなカーストなんて真っ先に殺されるだろう。
リオンは一刻も早くウインド村の状況を確かめたいと思った。
盗賊に襲われない代わりに、軍の家畜になるだけなら今から戻って……。
(戻って……どうするんだよ)
何もできない。 家畜が1匹増えるだけだ。 それにセレネの存在をひけらかす愚行だ。
そんなリオンの気も知らずに老人は、楽しげに答える。
「税金で気楽に過ごしておるんじゃないかの? いや、国のために日夜何かを考える公務をしておるのか。 “有言不行”が共和国大統領の統治の仕方じゃでな。 官僚も目の前で違反せん限り軍の行動を規制せんし、軍人ともなれば公の機関、エリート階級。 エリートのすることに間違いはない国、共和国。 前回の大統領の独裁から勝ち取った“自由と平等の国”じゃろ」
言い終わると鼻で笑って老人は、ドアの前で立ち止まる。
リオンとセレネは、今までこの老人が本気で怒っている姿を見たことがなかった。
怒鳴りつけたり、物に当たっているわけではない。 しかし、2人は何も言えないぐらいゆっくりと言葉を並べる老人の気迫に圧倒されている。
これが長く生きた老人の怒り。 後から込み上げてくるマグマのような熱さがこの老人にはある。
「おっと、すまんの。 お主らには関係の無い話じゃった……少し言い過ぎたわい。 統治する軍人によって村は変わる。 ここの村は軍の支援が来たおかげで、まともな生活ができるようになった人間もいるのも事実じゃ。 軍で働かされても餓死することはないでな。 どっちがいいかはこの村人が決めたこと、外部の人間が口出しすることではなかったの。 ところで、お主に1つ頼みたいことがある。 この場を乗り切る最も重要なことじゃ……頼まれてくれるか」
目を見開いて振り返る老人を見て、リオンは固まった。
「な、なんだよ」
リオンはそれだけ言うのがやっとだった。
殺気だった空気。
室内の暗闇が泥のように重たく感じる。
やはりこの老人―――ただ者ではない。
「ドアを……開けてくれ」
ちみっ、と背伸びをしてドアノブに手を伸ばす老人。 手は辛うじてノブに届いてはいるが回せないようだ。
「普通に頼めんのかアンタは! やれやれ」
リオンがドアに近づこうとした時、ドアが老人ごと吹き飛んだ。
「なっ!! まさか、爺ちゃんを狙ってる奴らか! 年寄りを雑に扱いやがって! 許さねぇ……」
「あひゃ~ん」と、嬉しそうに壁まで吹き飛ばされる老人。
前言撤回。 訂正……何故、一撃で殺さなかった。
長い間、暗闇に隠れていたため部屋の外からの光が眩しい。 リオンは老人を諦め、セレネだけを守ろうと身構えて、長身の影と対峙した。
「たっだいま~。 人の部屋に勝手に上がり込んで上等じゃ……あれ、あなた達だったの?」
クルクルと指先で回していた眼鏡がカツンと落ちた、部屋に入ってきたノーションは意外な入室者を見て呆気に取られた様子だ。
「ノーションさん! 無事だったんですか! よかった」
「え? えぇ。 まぁね。 ところで、どうやってこの部屋に入ったの?」
リオンが眼鏡を拾いノーションに近づく、ノーションは部屋の四隅を見渡していた。 何かを警戒しているようにも見える。
「どう? って、普通に入ったんですけど。 それより髪の毛どうしたんですか?」
ノーションは「普通に……ね」と接近しているリオンにすら聞きとれない程小さな声で呟き、眼鏡を受け取る。
「あ、ありがとう。 髪? やっぱ、変よね? 敵さんにリボン切られちゃったのよ。 お気に入りのリボンだったのに。 リオン、何か縛る物、持ってないかしら」
肩まで伸びた金髪を指で流し、耳にかけて辺りを見渡す。
リオンは髪型で女性がここまで印象が変わる物なのかと唖然としていた。
髪を降ろし、眼鏡をかけていないノーションはまるで別人だ。
着用している服が軍服じゃなくエプロンなどの格好ならば、家庭的なお姉さんである。
「縛る物ですか? 別に括らなくても……そのままでも、いいんじゃないですか? 似合ってますよ」
つい思っていることをそのまま発射してしまったリオン。
その言葉を意外と感じたのかノーションは、目が点になる。 そして、妖艶な笑みを浮かべ、人差し指をリオンの鼻の頭にチョンと置く。
「ふふ、私を攻略するのは後、5年早いわよ。 大人になったらお付き合いしょう。 お世辞でも嬉しいわ、まさか原始人さんに褒められるなんて。 私も捨てたもんじゃないわね」
リオンの目の前でウインクをして、眼鏡をかける大人の女性。
リオンは何とも言えない感情になった。 なぜなら、目の前の金髪の女性は、暗闇のせいか、とてつもなく大人びて幻惑的な美しさを持っていたからだ。 こんな人と自分はこの数時間一緒に過ごしていたのかと思うと頭がクラクラする。
ノーションは、セレネが「ぬぅぅ……」と、リオンの後頭部を見ていることに気が付き、更に付け加える。
「あらあら? リオンは大人の女性の方が好きなのかしら~。 やっぱり“小食”で“しっかりした”“お姉さん系”が好みよね~」
「は、はぁ。 そりゃ憧れたりしますけど。 姉ちゃんがいるので、どうしても甘え癖があるというか……って、何の話しさせるんですか!」
「そうかそうか~甘えん坊なのね~」とからかいながら、リオンの頭を撫でてみる。
それを見て、セレネがリスのようにほっぺ膨らませる。
(あらやだ……可愛い)
ノーションが、むくれているセレネを見て目を逸らす。 ちょっとだけからかうつもりだったのに予想以上の反撃で、心が揺れた。
そんなノーションの胸元にロープが差し出される。
更に下を見るとクワっと目を見開いている老人がいた。
何の特殊能力も発動しない、開眼。
「縛る物を持ってきたぞい!」
「あの……ドクターを縛るわけじゃないんですよ?」
言いつつも、老人を縛り上げてベッドの上に吊るし上げるノーション。
ギシッギシッ、ゆらり、ゆらりと不穏に揺れる小さな人影……この暗闇であんなものを見ると首吊り自殺をしているように見える。
極めつけに「ハヒッヒ!」と連呼しながら喜びを表している影。
もう、ホラーだった。 この部屋の宿泊客は明日から激減するに違いない。
「まぁ、いいか。 髪は、しばらくこのままにしておくわ。 鬱陶しくて嫌なんだけど……とにかく部屋に戻りなさい。 軍が来たら旅の者ですって言って、それ以外何も言っちゃダメよ。 世の中の体裁を気にして、旅人には寛大な態度で接してくれるからね。 わかったらなるべく早く戻りなさい」
「わかりました」
髪を掻き上げて、ノーションはリオンを部屋に戻す。
これからやってくる軍人をどうやって上手く撒くかが今の課題だ。
今着ている軍服は処分した方がいいだろう。
本物の軍に見つかると後々面倒臭いことになる。 行方不明中であろう女性軍人の服を、どうして民間人が持っているか、などと聞かれたら新しい行方不明者を偽装するのに手間が掛る。
「動きやすいから、お気に入りだったのにな~。 また、どっかで調達すればいいか」
ノーションは軍服を脱ぎ、鞄に突っ込んである白衣に着替えた。
今日から、軍人ではなく、医者だ。
◇
「ドクター、念のために聞いておきますけど……敵がこの部屋に侵入しましたか?」
「ほほ、誰も入ってきておらんよ。 あの子達以外はな」
少年と少女が部屋に入った音を確認して、ノーションが尋ねた。
「そうですか。 私の結界って、子どもでも解除できましたっけ?」
ノーションは、天気の話をするように言う。
「最近の子どもは、賢いからのぉ。 解除できるんじゃないか?」
「ご冗談を……自慢じゃないですけど、二流の魔術師でも私の結界は解除不能ですよ?」
ノーションの結界は確かに強固なモノである。 展開するのに時間が掛る代わりに、一度展開すれば、こちらから許可しない限り侵入は、ほぼ不可能。
中に入るためには、仲間のみが知る侵入コードを実行しない限り入れない。 今回の結界で侵入コードを教えたのはドクターMだけだ。 少年少女には教える時間がなかったため、不利な戦場に留まりながらも彼らを守れる位置で戦っていたのだから。
「ドクターが侵入コードを教えたのですか?」
「まぁ、教えたには教えたのじゃが……」
言葉に詰まる老人を見て確信した。
「結界を破壊して、張り直した……いえ、私の結界を浸食して、かなり高度な結界魔術に変質させた」
その通りだったため老人は何も言えなかった。 少年が侵入コードを実行している間に、結界が張り替えられたのだ。 あの時、老人は死を覚悟していた。
何の苦も無く、目の前で結界浸食をやってのけた、魔女が恐ろし過ぎて。
「セレネですね? あの子は一体何者なんですか? まぁ、今回の件で、だいたい検討は付きましたけど」
自分の結界を破るのならば、自分より一枚上手の魔術師だったと説明が付くが、人外の魔力、結界の浸食、そして、あの呪いに等しい美貌。
「―――魔女―――ですね。 あなたが目指した究極の生物。 会えてよかったじゃないですか。 前回とは違って本物ですよ、彼女は」
ニヤリと笑って老人を見る金髪の女性。 明かりが付いていないこの部屋ではどんな笑みも不気味に見える。
「ワシは、もうそんな気などない。 どれだけの犠牲が出たかお主も知っておろう。 魔女を造ろうなど夢のまた夢―――いかれた妄想じゃ。 人もドワーフも自分の領域から出ることはできん。 “逆十字のクーデター”を忘れたか? 魔女絡みの研究は全て失敗し関係者が全員死んでおる。 ワシが生きているのは奇跡じゃよ、ワシもいつ殺されるかわかったもんじゃない」
「だから、やるんですよね、今回の仕事。 今更、怖気付いたとは、言わせませんよ。 それに、私があなたを守りますよ、稼働している間わね」
ノーションが、老人がぶら下がっているロープを切断する。
「今日は、どれぐらい使ったんじゃ?」
「ギリギリでした、4分の3ぐらいですよ。 ここの結界を張り直そうとしたので、かなり使いました。 まぁ、破るので精一杯でしたが」
ノーションが躊躇い無く、白衣と上着を脱いで背中を老人に見せる。
「魔力は大切に扱うんじゃぞ。 お主はまだ完全じゃない。 ワシが生きている間はこうやって調整ができるが―――」
「あなたが死んだ時、私も死んでますよ。 造り手と命を共にするのがホムンクルスの運命。 あなた程の方がお忘れですか、薔薇十字団の錬金術師、マジョリティー博士」
「ほほ、ワシは今も昔もスコラの雑用係じゃよ。 う~む……最近、物忘れが激しくてのぉ、そんなけったいな道理は、忘れたわい。 お主は死なん、ワシが保障しよう」
背中にある狼の入れ墨に赤黒い魔石を取り込ませ、伝説とも秘密結社とも呼ばれた薔薇十字の老人は、本日何回目になるかわからない嘘を付いた。
薔薇十字団とか出てきました。
後々の章で実態は明かされるので、お付き合い下さい。




