51 あやかし退治 父と娘の戦い
ヨウコ達と別れた琴葉と父は、巨大な土蜘蛛に向かって駆け出す。
「どっちが多く、脚を潰すか勝負よ!」
「がはは。父さんに勝てると思うのか?」
「ええ。私は右に行くね!」
「気を付けろよ!」
二人は軽口をした後、笑顔で左右に別れる。
琴葉は退魔の木刀を何度も振るい、父は霊気を纏った拳で何度も殴り付ける。
だが、土蜘蛛の脚は硬く、攻撃を弾かれてしまう。
数分攻撃を続けるが、らちがあかず、父が琴葉を呼び戻す。
そこで二人は協力し、守りを固めながら、言葉を交わす。
「全然、手応えがない」
「そっちもか。俺の攻撃も、少ししか効いてないみたいだ」
「お父さんでも!?」
「これはマズイかもしれないな」
「どういうこと?」
「この土蜘蛛……御神体を取り込んでしまっている」
「え……あやかしが御神体なんか取り込んだら死ぬんじゃないの?」
「本来ならな。琴葉にはまだ教えていなかったが、まれにいるんだ。死ぬどころか、力を増して、人間に害なすあやかしがな」
「力を増すって、どれぐらいなの?」
「前に戦った時は、神主レベルが10人以上いたな。それでやっと互角だ」
「嘘……」
「その時より土蜘蛛は弱いみたいだから、取り込んで間もないのかもしれない」
「じゃあ、勝てそう?」
「いや。無理だ。だから琴葉は、嬢ちゃん達を連れて逃げろ」
「お父さんはどうするつもり? まさか……」
「なにを心配してるんだ。適当にあしらって逃げるに決まっているだろ」
「そ、そうよね……じゃあ、行って来る!」
「おう!」
父は琴葉を見送ると言葉を漏らす。
「はぁ……俺が逃げ切るのは無理だろうな……だが、必ず琴葉を逃がしてやる!」
父は土蜘蛛に向かって行こうとするが、土蜘蛛は目標を、背を向けた琴葉に移し、走り出す。
「待て! 琴葉! 琴葉〜〜〜!!」
父の叫び声が聞こえたのか、琴葉は振り返る。
「きゃあ!」
それと同時に土蜘蛛の脚が振り降ろされる。
父の叫びのおかげで、琴葉は防御に間に合ったが、それでも巨大な脚を防御するには体勢が悪く、吹っ飛ばされる。
その倒れた琴葉に、土蜘蛛の爪が襲い掛かる。
「琴葉!」
その絶体絶命の危機に、父は間に合った。
「グフッ……」
「お、お父さん……血が……」
だが、琴葉を優しく包み込むと同時に、土蜘蛛の爪が父の背中を斬り裂いた。
「がはは。これぐらいどおってことない」
「嘘よ!」
「……琴葉。お前の今すべき事はなんだ?」
「それは……土蜘蛛を倒す事よ」
「そうじゃない。お前は賢い子だ。わかっているだろ? 俺達は関係ない子供を巻き込んでいるんだ。まずはひよりの安全確保だ」
「でも、土蜘蛛を放っておくわけには……」
「そんなの、ひよりが助かってから、大社に報告すればいいんだ」
「お父さん……」
「さあ! 早く行け!!」
「……わかった。すぐに応援を呼んでくるからね!」
「ああ。それまで粘るとしよう」
父は立ち上がり、琴葉が走る足音を聞きながら、土蜘蛛に鋭い目を向ける。
その瞬間、土蜘蛛の大きな脚が振り落とされた。




