【67話】来年も、再来年も
「二年にも噂が広がってるとか……最悪だ」
放っておけばそのうち飽きる。
そう思って噂を放置していたことが裏目に出た。
しかしだからと言って、なにか行動を起こそうとは思わない。
どんなことをすれば噂が消えるか分からないし、下手に動けば逆に噂が広がってしまうことも考えられるからだ。
要するに、俺にはなにもできない。
これまで通り、みんなが飽きるのを待つしかない。
まさかこんなところで、目を背けたくなるような現実を知らされるとは思わなかった。
食べすぎでただでさえ気分が悪いというのに、ひどい追い打ちだ。
でもさっきのやり取りは、悪いことだけではなかった。
剣崎が俺のことを、『親友』と言ってくれたこと。
あれはそう、良かった。めちゃくちゃ嬉しかった。
思い出すだけでも、またにやけそうになってくる。
いかんいかん。抑えなくては。
顔をぶんぶん振っていると、陽気な足音が近づいてきた。
「お待たせー」
その正体は、雨宮さんだ。
両手には、りんご飴。
他にもいくつもの袋を腕にぶら下げている。
袋の中身は見えないが、おおよそ予想はつく。
食べ物だ。
きっとあの中には、露店で買ってきた食べ物が入っているに違いない。
「はい、これ。村瀬くんの分だよ」
「…………ありがとう」
隣に腰を下ろした雨宮さんから、差し出されたりんご飴を受け取る。
俺の口元に浮かぶのは、苦笑いだ。
食べすぎで苦しい今、食べ物なんていらない。
見るだけでも気分が悪くなってくるレベルだ。
けれど雨宮さんからの厚意を突っぱねるなんて、俺にはできなかった。
「袋に入ってるのは全部村瀬くんの分だよ。ちゃんと食べてね」
「……うん。ありがとう。でも、家に持って帰ろうかな」
「えぇ!? ここで食べて行こうよ!」
「そうしたいのはやまやまなんだけどさ……ほら、舞へのお土産にしようと思って」
「おぉ、それは大事だね!」
「だ、だよね」
雨宮さんと舞の関係が親密でよかった。
おかげで無事にこの窮地を乗り切ることができたんだからな。
ありがとう、舞。
「さっきちらっと聞いたんだけどさ、そろそろ花火が始まるっぽいよ」
雨宮さんのその言葉と、同時。
ヒューッ!!
離れたところから甲高い音が聞こえてきた。
真っ黒な空へ向けて、花火が上がっていく。
ドォン!!
大きな音を立てて弾けたそれは、鮮やかな花を宙に咲かせる。
「わはぁ! 綺麗だね!」
「うん」
素直な感想をそのまま口に出すと、雨宮さんが手を重ねてきた。
「今年のお祭りは、今までで一番だ! 村瀬くんはどう? 楽しめた?」
「うん。雨宮さんのおかげでものすごく楽しかったよ。来てよかったって、心からそう思ってる。誘ってくれてありがとう」
「それならさ、来年も――ううん、来年だけじゃなくて再来年も、大人になってからもずっと一緒に来ようね! それでまた今みたく、一緒に花火を見るの!」
もしかしたら俺はまた、からかわれているのかもしれない。
それとも、本心からそう言ってくれているのだろうか。
俺には見当もつかない。
でもできることなら後者であってほしい、なんて思ってしまう。
どうかそうでありますように。
次々と打ち上がっていく花火に、想いが届くことを強く祈った。




