【66話】親友
「よう、村瀬! どうだ、楽しんでるか?」
「うん。思っていたよりもずっと楽しめてる」
「その割には苦しそうな顔してっけど……大丈夫かよ?」
「ちょっと食べすぎちゃってね。でも、問題ないよ。心配してくれてありがとう」
「なに言ってんだ。俺とお前の仲だろ。気にすんなよ」
俺の肩を手のひらで叩いた剣崎は、爽やかなイケメンスマイルを浮かべる。
マジでいいやつだ。
きっとそういうところが、モテまくる理由なんだろうな。
「えっと、そっちはデート中?」
「おう。……あ、そうだった! お前にも紹介しなきゃだよな。こちらは、西口綾さん。一個上の先輩だ」
はにかむ剣崎の隣で、西口先輩が頭を下げる。
美人で清楚な、大人っぽい雰囲気の女性だ。
いつだが雨宮さんは自分のことを『クールビューティー』と呼称していたが、そういう称号は西口先輩みたいな女性にこそふさわしい。
ちょっと緊張しつつ、俺も「初めまして」と言って頭を下げる。
「で、こいつは村瀬。俺の親友だ」
うおおおおお!
下を向いている俺の顔は、めちゃくちゃニヤケていた。
全身を駆け巡るのは、溢れんばかりの喜び。
あの剣崎に『親友』と言ってもらえたことが、それはもう嬉しくてしょうがない。この場で飛び跳ねたいくらいだ。
「はじめまして、西口です。あの有名な恋愛強者に会えるなんて、とっても光栄だな」
うん?
どうしてそのことを先輩が知っているんだ?
不穏なワードが聞こえてきたことで、ぶち上がっていた俺のテンションは一気にダウン。
顔を上げてみれば、西口先輩は小さく笑っていた。
「……俺のこと、知っているんですか?」
「もちろん。私たちの学年でも、キミはかなりの有名人だからね」
おいおいおい!
なんだよそれ……ふざけんなよ!
事実無根の噂は、一つ上の学年にまで広がっているらしい。
これは非常にまずい。どんどん収拾がつかなくなっている気がする。
「村瀬は本当に頼になるやつでさ! 綾さんと今みたいな関係になれたのも、こいつが色々と相談に乗ってくれたおかげなんだ! 俺にとっては恩人みたいなもんかな!」
「へぇ、噂通りのやり手なんだね。村瀬くん。これからも斗真くんのことをよろしく頼むね」
「…………はい」
いやいや! はい、じゃねえだろ!!
外見も中身も完璧な剣崎に俺がしてやれることなんて、ひとつだってねえよ! むしろ俺がお世話になりたいくらいだわ!
しかしながら、相手は初対面の先輩だ。
心の叫びをぶちまけるなんてこと、人見知りの俺にできるはずもなかった。
「斗真くん、私たちはそろそろ行こうか。あんまり邪魔しちゃ悪いよ」
「だな。じゃあな村瀬。また飯でも食いに行こうぜ!」
「う、うん」
去っていく二人に、俺は手を振ることしかできない。
このまま行かせてしまっていいのか。
追いかけて「俺は恋愛強者じゃないんです!」と、訂正するべきじゃないのか。
きっとそうするのが正しいんだろうけど、効果はないだろう。
冗談だと思われてまともに取り合ってくれない光景が、容易に想像できる。




