【65話】夏祭りといえば……?
バクつく胸を手で抑えた俺は、深呼吸。
必死になって息を整える。
落ち着け!
爆発しそうになっている心臓に強い言葉を言い聞かせ、なんとか冷静さを取り戻そうとする。
「ここで問題です! 夏祭りといったらなんでしょうか?」
雨宮さんが出題してくるが、今の俺にはクイズに答える余裕なんてものはない。
さっきの出来事のせいで思考回路はぐちゃぐちゃ。
まともにものを考えられない。
でも、こうも思う。
ここで余裕がない素振りを見せればさらにからかわれてしまうかもしれない、と。
主導権を握られっぱなしというのも悔しい。
だからここは、意地だ。
無理にでも意地を通す。
平気なフリを装って、俺は解答を口にする。
「……花火、じゃないかな」
夏祭りといえば、結構な確率で花火も上がる。
それを見ながら、「綺麗だねー」なんて言うのが世の中の定番だ。
そしてここの夏祭りも、その例に漏れない。
終盤に行われる打ち上げ花火はわりと有名で、人気がある。
それ目当てでわざわざ遠くから来る人なんかもいるくらいだ。
しかし、
「惜しい! あと一歩だったね!」
正解ならず。
それなりに自信があっただけに、結構悔しい。
「正解は、食べ物の露店をコンプリートすることでした!」
惜しい……か?
いや、花火と食い物じゃぜんぜん違うだろ。一歩どころが百歩くらい離れてるじゃねえか。
というかそもそも、露店の食い物をコンプリートってなんだよ。
食品を扱っている露店の数は、ぱっと見ただけでも30以上。
それらをすべて回るなんて、ハッキリ言ってどうかしている。
雨宮さんは『これこそが夏祭りの象徴!』みたいな雰囲気を出しているが、そんな狂気のチャレンジをしている人間なんて聞いたことがない。
「という訳で、コンプリート目指してさっそくしゅっぱーつ!」
「……マジでやるんだ」
焼きそば、りんご飴、ベビーカステラ……。
雨宮さんと一緒に、食べ物を売っている露店を回っていく。
その先々で雨宮さんは、商品を大量購入。
手に入れた食べ物を、バクバクとおいしそうに味わっていた。
そして隣を歩く俺も、彼女の目的に付き合わされていた。
食べ物を買っては、急いで腹に落とし込んでいく。
個人的にはもっとゆっくり味わいたいところだが、それはできない。
『時間をかけすぎるのはNGだよ! コンプリートできなくなっちゃうから!』、と強く言われているからだ。
「よし、食べたね! それじゃあ次に行こう!」
「う、うん」
ひとつ食べ終えると、すぐに次の店へ向かわなければならない。
インターバルなんてものはなかった。
スケジュールは非常にタイト。
こんなにも忙しい祭りは初めてだ。
へとへとになるが、それでも不満なんてものは少しもなかった。
心の中にある感情は、楽しい、とただそれだけ。
大切な友達と露店を回って、次々に食べ物を腹に収めていく。
それが本当に楽しい。
もし一人で同じことをやったとしても、絶対につまらなかっただろう。
この楽しみはきっと、雨宮さんと一緒だからこそのものだ。
でも、気持ちだけでは乗り切れないこともある。
「……ちょっと休憩させて」
俺の胃の容量は限界を迎えていた。
大量の食べ物を取り込んだことで、腹が風船みたくパンパンに膨らんでいる。これ以上はもう入りそうにない。
「まだ半分くらいしか回ってないよ?」
「そうなんだけどさ……お腹が苦しくて……。ごめん」
手近にあるベンチに腰を下ろし、深く息を吐く。
ともかく今は休息が必要だ。
「分かったよ。私は続けてくるね。少ししたら戻ってくるから、それまでにお腹を空かせておくように!」
「…………やれるだけ頑張るよ」
力なく呟いてから、駆け足で去っていく雨宮さんの後ろ姿を見守る。
グロッキーな俺とは違い、雨宮さんは最高に元気だ。
あれだけの量を食べているというのに、まだまだ余裕を感じる。
男としては少し情けない状況ではあるが、こればかりはしょうがない。
なにせ雨宮乃亜の体は、特別製。人類の神秘なのだから。
「さて、と――あれ? あいつは……」
反対側に顔を戻してみると、見知った人間を発見した。
ここ最近話すようになった超絶ハイスペック陽キャ――剣崎だ。
ロングヘアーの女性と手を繋ぎ、仲睦まじい雰囲気で言葉を交わしている。
あの人が陽菜に振られたときに慰めてくれたという、例の先輩だろうか。
「村瀬じゃないか!」
剣崎の方も、俺に気が付いた。
二人してこっちへ近づいてくる。




