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【64話】夏祭り


 俺と雨宮さんは、薄暗い空の下を横に並んで歩いていた。

 向かう先は、夏祭りの会場となっている公園だ。

 

「どう? 似合ってるかな?」


 足を止めた雨宮さんは、その場でくるりと一回転。

 浴衣の袖口が、ひらりと宙を舞う。

 

 なにが、と聞かずとも、彼女の言葉が指すのは明白。

 

 鮮やかな青色の生地に、数多くのひまわりが描かれている浴衣。

 今俺が求められているのは、それを着ている雨宮さんについての感想だ。

 

「……う、うん。いいと……思う」


 目を逸らした俺は、ぎこちなく答える。

 けれどそれは、ぜんぜん似合っていないから感想を言いづらい、ということではない。

 

 青色の生地は髪の毛と同色でマッチしているし、ひまわりはいつも元気な雨宮さんのイメージにピッタリだ。

 早い話が、よく似合っている。

 

 だからこそ俺は、直視できないでいた。

 あまりに眩しすぎるものだから、どうにも目を逸らしてしまう。

 

「そっかぁ。せっかくだしと思っておしゃれしてきたけど、いまいちだったか」

「いや、そんなことないよ! 違うんだ! そ、その……ものすごく似合っていると思うし、だからこそ俺は……」


 歯切れの悪い言い訳をしていると、すぐ隣からクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 雨宮さんの口元に浮かんでいるのは、いたずらな笑みだ。


「冗談だよ! ふふふ、村瀬くんって結構分かりやすいよね」

「……ひどい」


 どうやら、からかわれてしまったらしい。

 ちょっと悔しくてしょげていると、雨宮さんはいつの間にか俺の背後に回っていた。

 

「そろそろ目的地だ! 行くよ、村瀬くん!」

「わっ! 急に押さないでよ!」


 雨宮さんは俺の両肩を押しながら、グイグイと前へ進んでいく。

 きっと俺の都合なんて、少しだって考えていないのだろう。

 

 ほんと、マイペースなんだから。

 

 けれどもそういう部分に対して腹が立つことはない。

 たぶんそれは一緒にいる時間が長すぎて、慣れてしまったからなんだと思う。

 

 

 祭りの会場が近づいてくるにつれ、賑やかな声と太鼓の音がだんだんと耳に入ってきた。


「とうちゃーく!」


 真後ろで俺の背中を押していた雨宮さんは、俺のすぐ隣へ。

 二人は元の横並びになって、公園へ入っていく。

 

 園内のいたるところには、屋台が出店している。

 射的や金魚すくいといったゲーム系のものから、焼きそばやかき氷といった食品を扱っているものまで様々だ。

 

 また、店だけでなく人も多い。

 

 園内には、多くの人だかりができている。

 平常時とは比べ物にならないくらいの人間が訪れ、祭りを楽しんでいた。

 

「今年も人がいっぱいだね! 大盛り上がりだ!」

「雨宮さんは毎年お祭りに来てるの?」

「うん、そうだよ。村瀬くんは?」

「俺は小学生の時以来かな。いつも陽菜と舞の三人で――」


 あ……やべぇ、やっちまった!

 口に出した後で、とんでもないミスに気付く。

 

 雨宮さんの前で陽菜の話をしてはならない。

 その絶対的なルールを分かっていたはずなのに、ついポロっと口からこぼれてしまった。

 

 最悪だ!

 これは絶対、面倒なことになるぞ……。

 

 怒るか、それとも不機嫌になるか。

 予想されうるアクションに俺は身構えるが、

 

「ふふふーん」

 

 聞こえてきたのは、鼻歌。

 予想とは違って、雨宮さんは上機嫌だった。

 

「いつも三人だったってことはさ、結城さんと二人だけで来たことはないんだよね?」

「…………えっと、うん。たぶんなかったと思うけど」

「それじゃあ二人きりで来るのは、今日が初めてってことだ」

 

 ニヤリと笑った雨宮さんは、俺の耳元に口を近づけてくる。


「村瀬くんの初めて、私がもらっちゃった」

「――!?」

 

 ななな、なんだよその言い方は!

 妙に意味深な言い回しに、俺の耳たぶは真っ赤になってしまう。

 

 きっとまた、からかわれているだけ。

 それは分かっているのだけど、動揺せずにはいられない。

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