【5話】雨宮さんとファミレスへ
「雨宮さん。遠慮せずに、好きなもの頼んでいいからね」
放課後。
俺と雨宮さんは、ファミレスのテーブル席に向かい合って座っていた。
昼休みの件で大きな罪悪感を感じている俺は、そのお詫びをしたくてこうして雨宮さんを誘った。
もちろんここのお代は、全部俺のおごりだ。
「本当にいいの?」
「もちろん」
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうね」
雨宮さんが呼び出しベルを押す。
少しして、店員がやってきた。
「カルボナーラ、ミックスグリル、うな重、えびグラタン、シーフードピザ、シーザーサラダ、チーズインハンバーグ、チョコレートパフェ」
雨宮さんは手元のメニュー表をめくりながら、ペラペラと呪文のように読み上げていく。
とんでもない量だ。
しかも、
「今言ったのを全部、二つずつください」
まさかの×2ときた。
めっちゃ食うな!
遠慮しなくてとはいいとは言ったが、これはさすがに予想外だ。
ちなみに雨宮さんは昼食で食べなかった大量の未開封のパンを、ここへ来るまでの道中に一つ残らず腹に収めている。
それなのに、これだけの料理を頼んでみせた。異次元の胃袋だ。
しかし、食った分はどこに消えているんだ?
出るべき部分はしっかりと出ていつつも、全体的にはスラッとしている。
こんなにも食べているというのに、まったく太っていない。
もしかしてこれが、人類の神秘ってやつか……!
人間の体には現代科学でも解き明かせていない機能が、いくつもあるという。
これもきっと、そのうちの一つだろう。
貴重なものを目の当たりにして謎の感動に包まれていると、「村瀬くんはどうするの?」という声が対面から飛んできた。
俺は慌てて、フライドポテトを注文する。
もちろん一つだ。
「今日はごめんね。村瀬くんに恥ずかしい思いをさせちゃった」
オーダーを受けた店員が下がってすぐ、雨宮さんは謝罪の言葉を口にした。
バツが悪そうな顔をしている。
「私ね、村瀬くんと話すのが好きなの。昼休みの時間が来るのを、毎日楽しみにしてたんだ。だから悲しくて、みんなの前なのにあんなこと言っちゃった。……ごめんね」
「いや、こっちこそごめん! 今さら遅いけど、一言声をかけるべきだった。……俺もさ、雨宮さんと話すのを楽しみにしてたんだ」
「そっか……うん。私だけじゃなかったんだ」
ホッと息を吐いた雨宮さん。
ずっと曇っていた表情が、少しだけ明るくなっていた。
「俺、今日一人で食べてて気づいたんだ。雨宮さんと話せない昼休みは、なんか味気なくて物足りないって。君と過ごす時間が、とっても大事だってことに」
「――!」
雨宮さんの顔が急に赤くなった。
視線がうろうろとさまよい、焦点が合わなくなる。
「どうしたの?」
「な、なんでもない! それよりも!」
大きな声を上げた雨宮さんはバッグからスマホを取り出すと、それを机の上に勢いよく叩きつけた。
飛んできた風圧が俺に直撃する。
「連絡先交換しようよ。そうすればもう、今日みたいなことは起こらないでしょ?」
「確かに」
雨宮さんとSNS――トインを交換。
それから俺たちは、今日の昼休みに話せなかった時間を埋めみたいにアニメの話をたくさんしていく。
満面の笑みを浮かべて喋る雨宮さんの声は、いつもより弾んでいるような気がした。
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