【39話】休憩
勉強を始めてから、しばらく。
「そろそろ休憩にしようか」
区切りのいい場所まで進んだところで、俺はそんな提案をする。
いくら期末テストまでいくら時間がないとはいえ、焦り過ぎは禁物。
根をつめすぎても、かえってよくない。休息も必要だ。
「ただいま戻りました!」
ちょうど休憩に入ったタイミングで、玄関から元気な声が聞こえてきた。
舞が帰ってきたようだ。
「あ、乃亜さんの靴です!」
嬉しそうな声が上がったと思えば、すぐに意気揚々と階段を駆け上がる音が聞こえる。
その足音はだんだんとこっちに近づいてきて、
「乃亜さん、こんにちは!」
ドアがオープン。
舞が俺の部屋に入ってきた。
大きな笑みを口元に浮かべた舞は、雨宮さんの胸元めがけておもいっきりダイブ。
広げた両腕を背中に回して、ムギュっと抱きついた。
それを受け止めた雨宮さんは、優しく頭を撫でる。
口元に浮かぶ笑みは、舞とそっくりなものだった。
二人はまだ出会って一か月ほどだというのに、もうこんなにも仲が良い。
舞はもう、俺と同じくらいのレベルで雨宮さんに懐いている。
友達と妹が仲良しになる。
もちろんそれは喜ばしいことだ。
しかし、兄としては少し複雑な気分。
大事な妹を取られてしまったようなそんな気がして、ジェラシーを感じてしまう。
やっぱり俺はシスコンなんだろうか――いや、それはないはず。
妹を持つ兄なら誰でも持ち合わせているはずの、一般的な感情だ。うん、きっとそうに違いない。
一人で納得していると、舞が俺へ視線を向けてきた。
瞳を細め、にやにやとしている。
「乃亜さんと二人きりでなにをしていたのですか?」
「お前がなにを想像しているかはあえて聞かないでおこう。でも、たぶん違うぞ。俺たちはテスト勉強をしていたんだ」
「……うーん、そうですか」
視線を伏せた舞は、残念そうに呟いた。
思っていた通り、変な勘違いをしていたらしい。
「お前ももうすぐ期末テストだろ? しっかり勉強するんだぞ」
「はーい!」
こいつの場合は、いちいち言わなくたって大丈夫なんだろうけど。
しっかり者の舞のことだ。
俺に言われなくたって、とっくに勉強をしていることだろう。
「そういえば舞ちゃんって、志望校はもう決まってるの?」
「はい! 桜台高校です!」
「おぉ、私たちと同じ高校だね!」
「お兄ちゃん、乃亜さん、陽菜お姉ちゃん、夏凛さん。みなさんと同じ学校に行きたいんです!」
「うんうん! 私も舞ちゃんと一緒に通いたいな! そうだ、舞ちゃんもこれから一緒にお勉強しようよ!」
「ちょっと雨宮さん、なに勝手に――」
「よろしいのですか! わーい! お兄ちゃんと乃亜さんとお勉強! 嬉しいです!!」
人数が増えると、それだけ集中力も落ちる。
そんなイメージがあったので待ったをかけようとしたのだが、こうなるともう無理だ。
舞が大喜びしている。
喜ぶ妹の顔を曇らせるなんて、俺にはできなかった。
ぎゅうるるるるるうううん!!
突然に鳴ったのは、目が覚めるようなとつてつもない爆音。
発生場所は、俺の正面。
雨宮さんのお腹だ。
常識外れの食欲を持つ雨宮さん。
やはりというべきか、腹の音も尋常ではなかった。
「勉強の前にお夕飯にしましょう。腹が減ってはなんとやらです! 今日は舞が作るので、乃亜さんもぜひ食べていってください!」
「ありがとう! そうさせてもらうね!」
部屋を出た三人は、一緒になってリビングへ降りていく。




