【33話】問いに対する答え
目を見開いた鷹城さんは、慌てて俺から離れる。
ベッドから降りると、逃げるようにして部屋から出ていってしまった。
残ったのは、三人。
ベッドの上で顔を引きつらせている俺に、部屋の入り口に横並びで立っている雨宮さんと陽菜だ。
女子二人から、鋭い視線が飛んでくる。
いたたまれないので続けて俺もここから出て行きたくなるが、それはたぶん無理だ。
二人が許してくれるはずがない。
雰囲気で分かる。
とりあえず、なにか話さないとだよな。
「……お二人はどうしてここに?」
おそるおそる聞いてみる。
口から出ていく声はビビっている影響で、自動的に敬語に変換されてしまう。
しかも小さい上にかすれていて、自分でも情けなくなるくらいに弱々しかった。
「はい、はーい! お答えします!」
しかし答えたのは、二人のうちのどちらでもない。
廊下から聞こえてきた元気ハツラツなその声は、俺の妹――舞のものだった。
入り口の二人の隙間をくぐり抜けるようにして、舞が部屋に入ってくる。
ベッドまでやって来ると、俺の隣にちょこんと座った。
「乃亜さんとお茶をしていて、これから家に行こうという話になったんです。そうして帰っている途中で、陽菜お姉ちゃんにばったり会いまして。『一緒にどうですか?』と、舞がお誘いしたのですよ」
「なるほどな」
犬猿の仲である二人が一緒になって来るなんておかしいと思っていたが、そういうことなら納得だ。
さすがの陽菜も、舞の誘いとあれば断れなかったのだろう。
「あの……ごめんなさい、お兄ちゃん。夏凛さんとのせっかくいい雰囲気を、私がめちゃめちゃにしてしまいました……」
「……謝らなくてもいいし、お前は大きな勘違いをしているぞ。俺は別に、鷹城さんとはなにも――」
「ちょっと!!」
入り口の方から、陽菜の鋭く尖った声が飛んできた。
短い言葉の中には、これでもかというくらいに怒りがこめられている。
「私たちのことなんて、今どうだっていいでしょ! それより私の質問に答えなさいよ!!」
俺を睨みつける陽菜は、さながら獲物を捕食しようしている猛獣だ。
今すぐにでも嚙みついてきそうな勢いでいる。
迫力たっぷりなそれに、俺はもうビビりにビビりまくっていた。
やっぱりおっかないやつだと、改めて実感する。
雨宮さんはずっと無言でいるが、陽菜に同意しているような雰囲気を出している。
俺が答えるのを待っているようだ。
――よく分からない。
『これはどういうことか』という陽菜の質問に対する答えは、それだ。そうとしか言えない。
急にあんなことをされて、俺だって訳が分からない状態にいる。
半日くらい、じっくり落ち着いて考えたいくらいだ。
でもなぁ……。
納得してくれそうにないし……。
特に、陽菜だ。
事実をありのままに伝えても、そうだったのね、と言ってくれる未来なんて万に一つも想像できない。
むしろ、逆効果。
さらなる怒りを煽ってしまうだけのような気がする。
であればもう、道は一つだけだ。
「コ、コンタクトレンズが外れちゃってさ! それで鷹城さんにつけてもらっていたんだ!」
嘘をついてごまかし、この場をどうにかやり過ごす。
それが俺の選べる、唯一の道だ。
あまり気は乗らないが、手段は選んでいられない。




