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【31話】気づいた本心


 鷹城さんの話を聞いているうちに、いつの間にか空が暗くなっていた。


「そろそろ帰るわ。こんな時間まで話聞いてくれてありがとうな。おかげでスッキリしたぜ」

「それならよかったよ」


 鷹城さんの顔は晴れ晴れとしている。

 来たときとは、まるで別人だ。もうすっかり元通りとなっていた。


「元気のない鷹城さんを見てるのは、ものすごく辛かったからね」

「――!?」


 鷹城さんはバッと顔を背けた。

 その横顔が急速に真っ赤に染まっていく。

 

「じゃ、じゃあな!」

「……あ、うん」


 逃げ去るようにして部屋から出ていった鷹城さんの背中を、俺は呆然と見送る。


 急にどうしたんだろう?

 

 そういえば、少し前にも似たようなことがあった。

 約三年ぶりに、陽菜がこの部屋に来たときだ。

 

 あのとき俺は、なんらかの地雷を踏んでしまった。

 それで陽菜は怒って、急に帰ってしまったのだ。

 

 もしかして、今回もそのパターンのだったのだろうか。

 

 それとは違う気がするけど……。

 

 急に帰ったという部分は同じだが、地雷を踏まれて怒った、という風ではなかった。

 たぶん別の理由だと思う。

 

「……そうだとしても、だけど」

 

 理由は違う気がするが、それがなんなのかは俺には分からない。

 最終的な結論は、あのときと同じだった。

 

******


 帰り道を歩いていく夏凛の心臓は、今にも破裂しそうなくらいにバクバクしていた。

 

 正樹の家を出てからもう十分以上経つというのに、頬にはまだ熱が集まっている。

 火傷しそうなくらいに体が熱い。

 

「どうしちゃったんだよ、私……!」


 帰り際に言われた正樹の言葉に、そうさせられてしまった。

 心の奥底から熱い気持ちが湧いてくる。

 

 正樹は優しくて、いつでも親身になって話を聞いてくれた。

 それに、話をしたり一緒に漫画を読んだりするのが楽しかった。

 

 彼と一緒にいるのが、最高に心地よかったのだ。

 

 だからデートプランが完成した――してしまったあのとき、夏凛が感じたのは喜びでもなければ達成感でもない。

 それらとはまったく別物の、そう、寂しさだった。

 

 これでもう放課後に、正樹の家に行けない。

 くだらない話をして笑い合ったり、漫画を読んだりできなくなる。楽しい日々が終わってしまう。

 

 それがたまらなく寂しかった。嫌だった。

 

 あのときもそうだ。

 

 斗真をデートに誘ってオッケーを貰えたあのとき、夏凛の心はモヤッとしていた。

 喜ぶべき場面なのに、自分でも驚くくらいに舞い上がらなかった。

 

 それは、正樹のことが頭にあったからだ。

 

 斗真とうまくいったら、正樹との関係が終わってしまう。

 そんなことを考えたせいで心が沈んでしまって、うまく喜べなかった。

 

 たぶん、かなり最初の頃から惹かれていたんだと思う。

 でも斗真への気持ちも本物だったから、ずっと気づけなかった。無意識にフタをして閉じ込めていた。

 

 けれど、やっと分かった。

 火傷しそうなくらいに熱い気持ちを、正樹へ抱いていることに。

 

「……そうか。私、マサのことが好きだったんだ」

 

 本心を口にすると、自然と顔がほころんだ。

 抑圧していた気持ちが一気に解放されたことで、スッキリしていい気分だ。

 

 でもやっぱりちょっと、恥ずかしかったりもする。

 

 きっと今夏凛は、ものすごく締まりのない顔をしていることだろう。

 ここに正樹がいなくてよかったと、心から思う。こんな顔を見られたくない。

 

「でも、このまま告白してもダメっぽいよな……」

 

 正樹にはきっと、友達としか思われていない。

 今の関係性のまま告白したところで、成功率は低いだろう。

 

 それに別の男に振られてすぐ告白なんてしたら、軽い女と思われてしまうかもしれない。

 

 だからまずは、恋人として意識してもらうところから始めるべきだ。

 

 恋愛事にはこういった準備とか慎重さが大切となる。

 全て正樹から教わったことだ。

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