【31話】気づいた本心
鷹城さんの話を聞いているうちに、いつの間にか空が暗くなっていた。
「そろそろ帰るわ。こんな時間まで話聞いてくれてありがとうな。おかげでスッキリしたぜ」
「それならよかったよ」
鷹城さんの顔は晴れ晴れとしている。
来たときとは、まるで別人だ。もうすっかり元通りとなっていた。
「元気のない鷹城さんを見てるのは、ものすごく辛かったからね」
「――!?」
鷹城さんはバッと顔を背けた。
その横顔が急速に真っ赤に染まっていく。
「じゃ、じゃあな!」
「……あ、うん」
逃げ去るようにして部屋から出ていった鷹城さんの背中を、俺は呆然と見送る。
急にどうしたんだろう?
そういえば、少し前にも似たようなことがあった。
約三年ぶりに、陽菜がこの部屋に来たときだ。
あのとき俺は、なんらかの地雷を踏んでしまった。
それで陽菜は怒って、急に帰ってしまったのだ。
もしかして、今回もそのパターンのだったのだろうか。
それとは違う気がするけど……。
急に帰ったという部分は同じだが、地雷を踏まれて怒った、という風ではなかった。
たぶん別の理由だと思う。
「……そうだとしても、だけど」
理由は違う気がするが、それがなんなのかは俺には分からない。
最終的な結論は、あのときと同じだった。
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帰り道を歩いていく夏凛の心臓は、今にも破裂しそうなくらいにバクバクしていた。
正樹の家を出てからもう十分以上経つというのに、頬にはまだ熱が集まっている。
火傷しそうなくらいに体が熱い。
「どうしちゃったんだよ、私……!」
帰り際に言われた正樹の言葉に、そうさせられてしまった。
心の奥底から熱い気持ちが湧いてくる。
正樹は優しくて、いつでも親身になって話を聞いてくれた。
それに、話をしたり一緒に漫画を読んだりするのが楽しかった。
彼と一緒にいるのが、最高に心地よかったのだ。
だからデートプランが完成した――してしまったあのとき、夏凛が感じたのは喜びでもなければ達成感でもない。
それらとはまったく別物の、そう、寂しさだった。
これでもう放課後に、正樹の家に行けない。
くだらない話をして笑い合ったり、漫画を読んだりできなくなる。楽しい日々が終わってしまう。
それがたまらなく寂しかった。嫌だった。
あのときもそうだ。
斗真をデートに誘ってオッケーを貰えたあのとき、夏凛の心はモヤッとしていた。
喜ぶべき場面なのに、自分でも驚くくらいに舞い上がらなかった。
それは、正樹のことが頭にあったからだ。
斗真とうまくいったら、正樹との関係が終わってしまう。
そんなことを考えたせいで心が沈んでしまって、うまく喜べなかった。
たぶん、かなり最初の頃から惹かれていたんだと思う。
でも斗真への気持ちも本物だったから、ずっと気づけなかった。無意識にフタをして閉じ込めていた。
けれど、やっと分かった。
火傷しそうなくらいに熱い気持ちを、正樹へ抱いていることに。
「……そうか。私、マサのことが好きだったんだ」
本心を口にすると、自然と顔がほころんだ。
抑圧していた気持ちが一気に解放されたことで、スッキリしていい気分だ。
でもやっぱりちょっと、恥ずかしかったりもする。
きっと今夏凛は、ものすごく締まりのない顔をしていることだろう。
ここに正樹がいなくてよかったと、心から思う。こんな顔を見られたくない。
「でも、このまま告白してもダメっぽいよな……」
正樹にはきっと、友達としか思われていない。
今の関係性のまま告白したところで、成功率は低いだろう。
それに別の男に振られてすぐ告白なんてしたら、軽い女と思われてしまうかもしれない。
だからまずは、恋人として意識してもらうところから始めるべきだ。
恋愛事にはこういった準備とか慎重さが大切となる。
全て正樹から教わったことだ。




