【28話】見守るだけという辛さ
デートプランが完成してから、数日後。
放課後の体育館裏では今、鷹城さんと剣崎が向き合っていた。
俺はその様子を、物陰に身を隠しながら見守っている。
頑張れ鷹城さん!
胸に抱いているのは、そんな励ましの言葉だ。
鷹城さんがやろうとしているのは、デートのお誘いだ。
二人で練ったデートプランを実行に移すにはまず、これを成功させないと始まらない。
一人だと自信がないから、見守っていてほしい。
帰りのホームルームが始まる前に鷹城さんからそう言われて、俺はここへついてきた。
剣崎が絡むととたんに臆病になる彼女からすれば、今からやろうとしていることはかなり勇気がいるだろう。
できることなら変わってあげたいくらだが、それはできない。
これは鷹城さんがやらないといけないことだ。
怖いだろうけど、なんとか頑張って欲しい。
しかしじっと見守るだけというのは、結構辛い。
他にできることはないと分かっているのに、体が納得してくれない。
俺にもできることがあるはず、なんて考えてうずうずしてくる。
そんな風に落ち着かないでいたら、
「ふむふむ。夏凛ちゃんは、斗真が好きだったんだね」
ふいに背後から声が聞こえてきた。
振り向いてみれば、そこには雨宮さんが立っていた。
「やぁ! 村瀬くん」
「……どうしてここに?」
「帰りのホームルームが始まる前くらいからかな。村瀬くん、なんかソワソワしてるな~、って思ったんだよね。それで気になってついてきちゃった。状況からして、夏凛ちゃんの恋の応援団ってとこかな?」
「……正解。よく分かったね」
舞もそうだけど、女の子って勘が鋭いところがあるよな。
鋭すぎて、ときどき怖くなる。
「でも良かったよ。最近の夏凛ちゃん、村瀬くんと仲良さげだったからちょっと心配だったんだよね」
「……それどういう意味?」
俺みたいな陰キャとつるんでいたら、鷹城さんの価値が落ちてしまう。
そう言いたいんだろうか。
『お前みたいな底辺が側にいるとな、それだけで結城の評判まで落ちるんだよ。……いちいち言わせるなよ。普通それくらい分かんだろ』
中学校の頃に言われたことがフラッシュバック。
チクリと刺すような痛みが胸に走る。
もしそうだったら、地味に傷つくぞ……。
それはきっと正しいのかもしれないけれど、雨宮さん――友達にそう思われているというのは悲しい。
頼むから否定して欲しかった。
「教えてあげない」
けれども雨宮さんは、回答を拒否。
それを告げた口元は、楽しそうに笑っている。
いやいや、それはひどくないか?
今回ばかりは答えを聞いておきたい。
だから追求したかったのだが、
「それじゃあね~」
雨宮さんは俺に背を向け、スキップで去っていってしまった。
結局、迷宮入り。
胸に残ったのは、モヤモヤだけだった。
今度もう一度聞いてみるか?
でも今の感じだと、答えてくれそうにないよな……。
そんなことを考えていたら、
「け、剣じゃきっ!」
鷹城さんの声が聞こえてきた。
緊張しているのか、おもいっきり噛んだ上に裏返ってしまっている。
おいおいおい、大丈夫かよ!?
俺は頭を切り替えて、向き合っている二人に注目した。
今はこっちの方が大事だ。
雨宮さんの言葉の意味を考えている場合じゃない。
「明日なんだけどさ……その、暇か?」
「あぁ。一日空いてるぜ」
「……ま、街で買い物したいんだけど、一緒に来てくれにゃいか?」
「いいよ」
よっしゃあああああ!!
大事なところで噛んでしまったものの、見事に成功。
心の中で絶叫した俺は、その場で渾身のガッツポーズをする。
鷹城さんもきっと大喜びしているはず! ――と思ったのだが。
あれ?
彼女はぎこちなく笑うだけだ。
あまり嬉しそうではなかった。
なんでだよ……デートのお誘いに成功したんだぞ。
普通そこは、もっと喜ぶべき場面だろ。
でも俺は、すぐにその理由に気付いた。
緊張しているんだな、きっと。
今は剣崎の前だから恥ずかしくて、態度に出せていないだけだ。
本心は俺と同じで、大喜びしているに違いない。




