【26話】思いついた場所
「遠慮せず入ってよ」
「お、おう。……お邪魔します」
鷹城さんを連れて俺がやって来たのは、俺の部屋だ。
金をかけずゆっくり話せる場所と聞いて思い浮かんだのが、ここしかなかった。
鷹城さんは見るからに緊張している。
こんな彼女を見るのは、初めてかもしれない。新鮮だ。
「な、なに見てんだよ」
「ごめん。その……緊張しているな、と思って」
「……仕方ねぇだろ。男子の部屋に入るのなんて、これが初めてなんだから」
「…………あー、うん」
やっぱりか、という感想しかでてこない。
恋愛下手だと思っていたから、それを聞いても動じることはなかった。
「なんだよその訳知り顔は……! なにか言いたいことがあるみてえだな!」
口調が荒くなるが、俺はまったく動じない。
今の鷹城さんは乙女モード。
いくら口調を変えたところで、少しだって怖くなかった。
「こんにちは!」
快活な声とともに、バタンとドアが開く。
舞が部屋に入ってきた。
「……なにしに来たんだお前?」
「ご挨拶をしにきたんです!」
弾んだ声色で答えた舞は、鷹城さんの方へ体を向ける。
「はじめまして! 村瀬舞です! お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」
「へぇ、礼儀正しいじゃねぇか。私は鷹城夏凛だ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします! ……それにしてもお兄ちゃん」
視線だけを俺へ向けた舞が、ニヤリと笑う。
「三股とはやりますね! クズ度更新です! いったいどこまでいってしまうのか……。恐ろしいですけど、舞は最後までお付き合いしますよ!」
「……舞、今日はちょっと出ていこうか?」
舞を強引に部屋の外へつまみ出す。
せっかく二股疑惑が晴れたのに、そのことをまた蒸し返されるのは面倒だ。
「三股ってなんのことだよ?」
「……さぁ。舞は時々変なこと言うんだよ。気にしないでくれると嬉しい」
部屋に戻って早々疑問をぶつけられるが、苦笑いでごまかす。
「そうか。ま、あんくらいの歳なら色々あるわな。安心しろ。私はそういうのには理解があるんだ」
舞を、思春期特有の痛い時期――中二病と認識したことで、鷹城さんはすんなりと納得してくれた。
うまくごまかせたようで安心だ。
「それにしても、すげぇ量の漫画だな」
感心したように言った鷹城さんが顔を向けるのは、部屋の隅。
そこにあるのは、大量の漫画が収納されている本棚だ。
「けど、うーん……知らねぇやつばっかりだ。おすすめはあるか?」
「……それじゃ、これとか」
本棚に並んでいる数多くの漫画の中から俺が手に取ったのは、『転生したら最弱魔法使いでした』の一巻。
俺と雨宮さんが大好きなアニメの原作だ。
内容はかなり王道なので、初めて見る人でも楽しめるようなストーリーとなっている。
漫画を渡すと、鷹城さんはさっそくページをめくりはじめた。
俺も読んでみるか。
他人が読んでいるのを見たら、なんだか久しぶりに読みたくなってきた。
最新刊を手に取った俺は、ページをめくっていく。
「へぇ! 結構面白れぇじゃねぇか!」
一巻を読み終えた鷹城さんは、好反応。
二巻も見ていいか、と言ってきた。
ファンの俺からすれば、こういう反応をしてくれるのがたまらなく嬉しい。
大喜びで二巻を渡そうとするが、
「いやいや!」
ブンブンと首を振って否定する。
「ここに来たのは漫画を読むためじゃないよね!?」
「あ、そうだった! 作戦会議しねぇとだよな!」
鷹城さんも気付いたらしい。
さすがは、『転生したら最弱魔法使いでした』だ。
目的を忘れさせてしまうほどの面白さを持っている。
まったく恐ろしい。
その魅力というものを、改めて思い知らされた。




