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【22話】ギャルなヤンキー


 休み時間にボーっと自席に座っている俺のところへ、剣崎がやってきた。

 なにか良いことでもあったのか、見るからに浮かれている。


「聞いてくれよ村瀬! 今度俺、先輩とデートすることになったんだ!」

「おぉ、やったじゃん。おめでとう!」


 剣崎はいいやつだ。

 想い人とうまくいっているのなら素直に嬉しい。心からの祝福を贈る。

 

「これもお前のおかげだぜ!」

「……毎回言ってるけど、それはお前が頑張ったからだろ」


 剣崎は先輩とうまくいくと、その都度俺のおかげと言ってくる。

 俺は毎回訂正しているのだが、まったく聞いてくれない。


 どうして人の話を聞いてくれないんだ……。


 いつもみたく苦笑していると、突き刺さるような視線が飛んできた。

 

 うっ……またか。

 

 近頃、鋭い視線が飛んでくるという事案が頻発していた。

 

 それをしてくるのは同一人物で、既に犯人は分かっている。

 同じクラスのカーストトップ女子、鷹城夏凛(たかしろかりん)だ。

 

 背中まで伸びた金色の髪に、緑色の瞳をしている。

 整った顔立ちには、バッチリとメイクが施されている。

 全体的に派手な見た目をしていて、ギャルっぽい印象だ。

 

 しかし口調は威圧感たっぷりの、ヤンキー風。

 目が合っただけで、シメてきそうな雰囲気を出している。

 

 そんな彼女のことがおっかなくて、俺は最初から苦手だった。

 ガンを飛ばされているというこの状況は、恐怖以外の何物でもない。

 

 でもどうして、目をつけられたんだ?

 

 鷹城さんとはこれまで、一度だって喋ったことがない。

 まったくもって無関係だ。理由が分からない。

 

 かといって、本人に聞く勇気はなかった。

 

『あぁん!? クソ陰キャが私に話しかけてんじゃねぇよ! コンクリートで固めてから海に沈めてやろうか!!』

 とか言われて、ボコボコにされるビジョンが目に浮かぶ。


 そうなると、俺にできることはただひとつ。

 気づかないフリをして、事態が収束するのをやり過ごす。これだけだ。

 

 一刻も早く今の状況が終わるのを、ひたすらに願う。




 放課後。

 昇降口で外履きに履き替えた俺は、外に出ていこうとする。

 

 しかしそうなる前に、後ろからガッと肩を掴まれた。


 誰だ!?


 驚きつつ振り返ってみた俺は、大きく顔を引きつらせる。

 思いつく限り最悪の相手だった。

 

 そう、鷹城さんだ。

 眉間に深いしわを寄せ、バチバチの敵意を放っている。


「よぉ、村瀬。これから時間あるか?」

「…………ありません」


 この後の予定なんてなにもない。

 でも、鷹城さんと過ごすのだけはごめんだ。絶対に嫌だ。

 

「なに、時間はとらせねえからよ。すぐ終わる」


 鷹城さんの眉間に刻まれた皺が、さらに深みを増した。

 それに合わせて、瞳の角度もおもいっきり吊り上がる。

 

 これは、人殺しの目だ。

 俺には分かる。

 

 断ったらきっと、コンクリートで固められて海にドボンだ。

 明日には魚のエサとなっているだろう。

 

「……わ、分かりました。お付き合いします」

 

 まだ俺は死ねない!

『転生したら最弱魔法使いでした』の映画を見るまでは、どうしてもまだ死ぬわけにはいかないんだ!


 嫌で仕方ないけど、生き残ってやらなければならないことが俺にはある。

 そのためには、鷹城さんに従うしかなかった。

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