【20話】険悪な空気を変えるために
「私これから正樹と二人きりで遊ぶのよ。あなた邪魔だから、とっとと帰ってちょうだい」
「後から来ておいて、ずいぶんと勝手なこと言うんだね。私の方が先だったじゃん。先手必勝だよ!」
部屋のドアを開けたとたん俺の耳に飛び込んできたのは、そんな声だ。
思った通り、雨宮さんと陽菜は激しい言い争いをしていた。
部屋の空気は、緊張感でパンパンに張りつめている。
原因は言わずもがな。険悪に睨み合っている、雨宮さんと陽菜だ。
昨日の朝より険悪度が増しているせいで、重苦しくて息が詰まりそうだ。
今日一日この空気というのは、とても耐えられそうにない。このままだと窒息死してしまう。
陽菜が来る前に変化を望んでいたのは確かだけど、こういうことじゃない。
もう一度だ!
この状況を変える、なにかしらのきっかけをくれ!
そう願ったタイミングで、ガチャリとドアが開く。
舞が部屋に入ってきた。
「失礼します。お飲み物を持ってきました」
いいぞ! ナイスタイミング!
舞がいれば二人も自重して、少しは喧嘩が収まるかもしれない。
さすがは我が妹。
最高の仕事をするじゃないか。
と、思ったのだが。
舞が持ってきたコップは、三つのみ。
人数分ピッタリとなっている。
つまり今回は、居座る気が無いらしい。
こいつ、飲み物だけ置いて逃げるつもりだな!
険悪ムード漂うこの空間にとどまるのは気まずいと判断したのだろう。
いつもに比べて少し顔が強張っているところから、そう推測できる。
さすがは我が妹。
素晴らしい判断力だ。
だが、そうはいくか!
「ではごゆっくり」
舞はテーブルの上にコップを置くなり、そそくさと帰ろうとする。
しかし、させない。
舞の背後に移動した俺は、両肩をガッチリと掴んだ。
身動きを封じる。
「お兄ちゃん、あの、なにを……」
困惑しながら振り向く舞に、俺は意味深な笑みを浮かべる。
せっかく状況を変えるチャンスが来たのだ。
それをみすみす逃すような俺ではない。
「舞もいることだし、みんなでゲームでもしないか?」
「普通に嫌よ」
しかし俺の提案は、一秒と経たずに陽菜に却下されてしまう。
「雨宮さんと一緒に遊ぶなんてごめんだわ」
「私は別にいいけどね。勝負に負けるのが怖いどこかの臆病者さんとは違うから」
腕を組んだ雨宮さんは胸を張り、フンと鼻を鳴らした。
得意気な顔で陽菜を見やる。
あからさまな挑発だ。
「…………ねぇ、それってもしかして、私のことを言ってるのかしら?」
「どうだろうね。でも、自覚はあるんだ」
ピキリ。
陽菜の額に青筋が走る。
みえみえの挑発ではあるものの、煽り耐性ゼロの陽菜には効果バツグンだった。
「いいわよ、やってるわ! 私に勝負を挑んだことを、必ず後悔させてやるんだから!」
空気は相変わらず険悪。
しかしなんとか、状況を変えることができた。




