【18話】三人で登校
どっちから取りかかればいいんだ……。
まずは雨宮さんに、ここに来た理由を聞くべきか。
それとも火花を散らしている二人の仲裁に入るべきか。
いきなり難しい二択だ。
寝起きで脳が本調子じゃないのに、こういうことを迫るのはやめてほしい。
ちょいちょいちょい。
ドアの隙間から部屋の中へと伸びた片手が、おいでおいで、とゆらめいている。
それは、舞の手だ。
廊下にいる舞が、俺を手招きしている。
きっとなにか、大事なことを伝えようとしているに違いない。
行動を起こすのは、それを聞いてからの方が良さそうだ。
取るべき行動は、ここに決した。
ベッドから起き上がった俺は、雨宮さんと陽菜の脇をすり抜けて部屋を出ていく。
言い争いに夢中になっている二人は、俺の動きに気づいていなかった。
「まさか二股をかけるとは……お兄ちゃんも悪よのお!」
外で待っていた舞は、時代劇に出てくる悪役のオッサンみたいな口調で話しかけてきた。
それはもう楽しそうに、口元をニヤつかせている。
「なんだよそれ。二股どころか一股もしてねぇよ」
「ですがお兄ちゃんがどれだけクズになっても、舞だけは絶対に見捨てませんからね! 安心してくれていいですよ!」
「いや、話を聞いてくれよ……」
舞は昔から、思い込みが激しいところがある。
それさえなければ完璧だというのに、本当に惜しいと思う。
「というかお前、それを言うために俺を呼んだのか?」
「はい! 舞の立場を明確にしておきたかったので!」
大事な話があると思って来てみれば、これだ。
なんとも、しょうもない。
壁に手をついた俺は、ガックリとうなだれる。
でも、良かったことも一つだけあった。
舞の顔は、いつものように明るい。
雰囲気が変わった陽菜に慣れたのか、もう一昨日みたく怯えていなかった。良い変化だ。
しょうもない話題に付き合わされたマイナスは、それでチャラにしてやろう。
これでプラスマイナスゼロだ。
小さく頷く。
それとほとんど同じタイミングで、二人が俺の部屋から出てきた。
「なにグズグズしてるのよ正樹! 早く着替えなさい!」
「村瀬くん、学校行くよ!」
怖い顔をした二人が、グイグイ迫ってくる。
壁際に追いやられた俺は、壁と二人に挟まれてしまった。
逃げ出したいのに、身動きが取れない。
助けを求めようと舞を見ても、ニヤニヤするばかり。
完全にこの状況を楽しんでいる。助けてくれる望みは薄い。
ここで、「うん」以外の言葉を発したらどうなるか。
想像するだけでも恐ろしい。
冷たい汗を背中に流しながら、俺は頷くしかなかった。
******
「ちょっとあなた、どこまで付いてくる気なの?」
「そんなの学校までに決まってるじゃん」
通学路を歩く陽菜と雨宮さんは、家を出ても相変わらず口喧嘩を展開していた。
しかもそれは、俺を真ん中に挟んだ状態で繰り広げられている。
美少女二人に挟まれているという、男なら誰もが夢見るであろうこの状況。
しかし俺は今、まったく嬉しくない。
ただただ気まずいだけだった。
クソッ、このままじゃ昨日と同じだぞ。
気まずいまま、学校まで行かなきゃならない。
「二人とも、もう少し仲良くしたらどうかな……なんて」
勇気を出して発言してみる。
そうしたらどうだ。
左右が静まり返ったではないか。
フハハハハハ! うまくいったぜ!
歓喜するも、それは束の間。
一秒もしないうちに沈黙は終了し、二人は言い争いを再開し始めた。
俺の発言なんてまったく効果がないことが、はっきりと証明されてしまった。
早く学校についてくれ……。
頑張ったさ、これでも頑張ったんだ!
でも、ダメだったんだよ。
そんな俺には、祈るより他にもうできることはなかった。
その日の昼休み。
俺の隣でパンを食べている雨宮さんの雰囲気は、ピリピリしている。
朝のイライラが、まだ治まっていないようだ。
話しかけるのをためらいたくなるが、それでも俺には気になっていることがある。
臆する訳にはいかない。
「あの、雨宮さん。今朝はどうして俺の家に来たの?」
「特に理由はないよ。友達と登校したかっただけ――って、なんで驚いた顔してるの?」
「……あ、ごめん。雨宮さんみたいなかわいい女子に、友達と思われていたのが嬉しくて」
入学以来ずっとぼっち陰キャだった俺を、『友達』とそう言ってくれた。
しかも相手は、カーストトップの美少女。
嬉しくなってしまうのも無理はなかった。
感動のあまり、涙まで出てきそうになってしまう。
「もう一回言って」
「え?」
「だから今のを、もう一回言ってよ」
「……うん。えっと、今朝はどうして俺の家に――」
「そっちじゃない。その次のやつ」
「雨宮さんみたいなかわいい女子に、友達と思われていたのが嬉しくて。……これでいい?」
言う通りにしてみると、雨宮さんの顔が真っ赤になった。
それを見られたくないかのように、プイっとそっぽを向いてしまう。
怒らせちゃったか?
かと思えば、
「これあげる」
顔を背けたまま、メロンパンを差し出してきた。
ピリピリしていたはずの雰囲気は、すっかり落ち着いている。
機嫌悪くしたと思ったけど……そうじゃないみたいだ。
よかった。ようやくいつもの雨宮さんに戻ってくれた。
俺は安堵しながら、メロンパンを受け取った。
「……あのさ、村瀬くん。明日って暇?」
「うん」
明日は学校の週休日だが、これといった予定は入っていない。
雨宮さんが背けていた顔を戻す。
頬はまだほんのり赤く、少し気恥ずかしそうにしていた。
「それじゃあさ、村瀬くんの家にまた遊びに行ってもいい?」
「もちろん!」
雨宮さんが来れば、きっとまた舞は喜ぶ。
それに……俺もだ。
前回は本当に楽しかった。
またあんな体験ができると思うと、胸が躍ってしょうがない。
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