【17話】胸騒ぎ
ガツガツガツ!
俺の隣で昼食を食べている雨宮さんは、それはもうものすごい勢いでコンビニパンを食らっていた。
豪快な食べっぷりにはいつもであれば感心するところだが、今日はそういう訳にもいかない。
雨宮さんが放つ雰囲気は、すこぶる不機嫌。
これまで見たことないくらいに、激しく苛立っている。
感心するような反応なんてしたら、噛みつかれてしまいそうだった。
「……あの、なんで怒ってるの?」
「怒ってないけど!」
ともかく機嫌を治してほしくて理由を聞いたのだが、早口でまくし立てられてしまった。
いや、明らかに怒ってるよね?
しかし本人が認めない以上、これ以上の追及をしても理由を答えてくれないだろう。
困ったぞ、なんて思っていたら、雨宮さんが口を開いた。
「朝のアレはなに?」
「陽菜と一緒に登校してきたこと?」
「……名前で呼んでるんだね」
雨宮さんの不機嫌度が一段階上昇してしまう。
名前呼びのいったいどこが気に障ったか分からないが、「幼馴染だから」とフォローを入れておく。
もしかして、二人って仲が悪いのか?
雨宮さんと陽菜は共にカーストトップだが、所属しているグループは別々だ。
それに二人が親し気に会話をしているところを、俺は見たことがない。
俺が知らないだけで、実は仲が悪かったのかもしれない。
嫌いな相手と登校してきたものだから俺に当たっている、と考えれば、一応筋は通る。
仮にそれが真実だとすれば、とんでもないとばっちりではあるのだが。
「で、なんで?」
「実は、俺にもよく分からないんだよ」
「……は?」
怪訝な顔をしている雨宮さんに、俺は陽菜との関係を話していく。
幼馴染で昔は仲が良かったけど、色々あって今は嫌われていること。
でもなぜか、今朝になって急に俺を起こしにきたこと。
流れでそのまま、学校に登校することになったこと。
知っていることを全て、ありのままに伝えた。
隠し事はしない。
これで俺の置かれている状況を知れば、同情して機嫌を治してくれるかもしれない。
なんて、期待したのだが、
「喧嘩を売ってきたか……!」
雨宮さんの機嫌は治らない。
むしろ鋭くなったし、物騒なことまで言い出す始末だ。
事態の好転を図ったのだが、失敗。
悪化してしまった。
雨宮さんは手に持っているパンに、おもいっきりかぶりついた。
肉食獣が仕留めた獲物を捕食するシーンが、パッと頭に思い浮かぶ。
「いいよ……買ってあげる! こうなったら徹底抗戦だよ!」
物騒な発言の意図はまったくもって不明だったが、胸騒ぎが止まらない。
一波乱起きそうな予感がした。
翌朝。
「なんであなたがここにいるのよ! 一人で登校すればいいでしょ!」
「そっちこそ一人で行けばいいじゃん」
俺の目を覚ましたのは、二人の女子が激しく言い争う声。
その声には両方とも、聞き覚えがある。
陽菜と雨宮さんだ。
いや、でもそれはありえないよな?
陽菜はまだしも、雨宮さんが朝からいるというのは謎すぎる。
きっと寝ぼけているに違いない。
そう決めつけて目を開く。
しかし、間違っていたのは俺の考えの方だった。
ベッドの傍らでは陽菜と雨宮さんが睨み合い、バチバチと激しい火花を飛び散らせている。
寝ぼけている訳ではなかった。
ありえない光景のそれは、実際に起こっている確かな現実だった。




