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【13話】じと目な雨宮さん


「ねぇ、村瀬くん。たまたま見ちゃったんだけど……昨日斗真とファミレスにいたよね?」


 昼食のパンを食べる手を止めた雨宮さんは、横にいる俺にそんなことを聞いてきた。

 

 目つきはじとーっとしていて、懐疑的。

 なにかを疑っているかのように思えた。

 

「なに話してたの?」

「恋愛――」


 そこまで言って、俺は慌てて口を閉じる。


 想いを簡単に断ち切ることは難しい。

 振られたとはいえ、雨宮さんが今でも剣崎のことを好きでいる可能性は、まだ十分にある。

 

 剣崎が別の女子に恋をしているなんて聞いたら、きっと傷つくはずだ。

 真実を伝えるのはやめておこう。

 

「どうしたの? もしかして言えないようなこと?」

「いや……そういう訳じゃないけど。な、なんでもないよ」


 あはは、とわざとらしく苦笑。

 ごまかして、この場を切り抜けようとする。

 

 しかし雨宮さんの目つきは、さらに懐疑的に。

 めっちゃ怪しい、と言わんばかりに、まったく信用してくれていない。


 どうしようか……。

 

 さらなる言い訳を重ねるか、それともこのまま沈黙しておくか。

 どっちも正解だし、どっちも違うような気もする。

 

 俺が次の行動を決めかねていると、


「まさか……恋愛って!」


 大きな声を上げた雨宮さんが、カッと瞳を見開いた。

 

「村瀬くんって斗真が好きなの!?」


 ……は?

 いきなりなに言ってんだ?


 いったいどういうロジックで、その答えにたどり着いたのか。

 雨宮さんはこっちが驚かされるような発言をときどきしてくるが、今日のは過去一で意味不明だ。

 

「なに勘違いしてるか知らないけど、俺はノーマルだよ! 恋愛対象は普通に女の子だから!」

「じゃあ斗真が村瀬くんを、ってこと!? ぬかった……!」


 握り拳を作った雨宮さんは、奥歯をギリギリと噛みしめた。

 またもや盛大な勘違いをしている。暴走状態だ。

 

 なんだか疲れてしまった俺にはもう、それを正そうとする気力は残っていない。

 青い空をポカンと空を見上げて、ため息を吐いた。

 

******

 

「聞いてくれよ村瀬!」


 登校早々、俺のところへやってきたのは剣崎だ。

 声色は喜びに満ちていて、ものすごいハイテンションでいる。


「お前のおかげでうまくいったよ!」

「それはつまり、陽菜への告白が成功したってことか?」

「いや、それはダメだった。告白して一秒後には振られたよ」

「……え?」

「シュークリームも持っていたんだけどさ、見向きもしてくれなかったよ。いやー、完敗だった」


 てっきり告白に成功したと思っていたのだが、違ったらしい。

 じゃあこのハイテンションはいったい……。

 

「でも、その場面を一つ上の先輩がたまたま見ていてよ。こっぴどく振られた俺を慰めてくれたんだ。めっちゃ優しくて、なんかこう……包容力がすごくてさ。だから俺、その場で好きになっちまったよ。運命の出会いってやつだな!」

「お、おぅ」

「その後は一緒にシュークリームを食って、連絡先を交換して帰ったんだ。これもお前のおかげだぜ!」


 剣崎は満面の笑みを浮かべて、俺の肩をバシバシ叩いてくる。

 

 え……俺のおかげ要素どこ?

 

 先輩と仲良くなれたのは、単純に剣崎のコミュ力が高いからだ。

 話を最後まで聞いていたけど、なにひとつとして俺は関係ない。


「今度またファミレスでおごらせてくれ! それとこれからは、先輩とのことで色々相談させてくれよな! 頼りにしてるぜ、恋愛強者!」


 最後に俺と肩を組んで、剣崎は自席に戻っていった。

 

 剣崎のやつ、いつになったら俺が恋愛強者じゃないって気付くんだ?

 先輩との恋路を相談されても、アドバイスのしようとかないんだけど……。

 

 彼女いない歴=年齢の俺にできるアドバイスなんてたかが知れてる。

 たぶんそういう関係なら、剣崎の方が百倍詳しいだろう。

 

 しかし剣崎は俺のことを、恋愛強者だと思い込んでいる。

 それはもう、盲目的に。

 

 いくら否定しても、「またまたー」とかはぐらかされて終わるのが目に見えている。

 

 つまり俺はこれからも、恋愛強者であり続けるしかないのか……。

 

 先が思いやられる。胃が痛い。

 

「村瀬くんおはよぉ!」


 しかめっ面で腹部をさする俺に軽快な挨拶をしてきたのは、雨宮さんだ。

 機嫌良さそうにニコニコしている。

 

 剣崎との仲を勘違いしてからというもの、ずっと尖った雰囲気を出していたが、ようやく元に戻ったみたいだ。

 

「今の話聞こえちゃったんだけど、斗真とは本当になんにもなかったんだね!」

「あるわけないでしょ」

「そうだよね~」

 

 雨宮さんはそう言うと、所属している女子グループのところへスキップでらんらん向かっていく。

 ものすごく楽しそうだ。

 

 よく分からないけど……うん、良かった。

 

 元の雰囲気に戻ったことに俺は安堵する。

 理由を考えてもとても分かりそうにないので、最初から挑戦をするのをやめておいた。

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