30話 その後……
一週間後。
「はい、どうぞ」
「えっと……わぁ♪ 今日は唐揚げなんですね」
俺と天城さんは、昼休みをいつものように中庭で過ごしていた。
今日の弁当を差し出すと、天城さんは子供のような笑顔を見せてくれる。
これだけ喜んでくれるなら、作った甲斐があるよな。
ちなみに、今日は凛は一緒じゃない。
あれから凛も含めて、三人で昼を過ごすようになったのだけど……
今日は他の友達に誘われたらしく、俺と天城さんだけだ。
去り際、
「うまくやりなさいよ」
とか言われたけど……
うまく、というのはどういう意味だろう?
弁当のことか?
「いただきます」
天城さんはとても嬉しそうに唐揚げを頬張る。
「んんんーーーーー♪」
キラキラの笑顔。
感想は聞くまでもないかな?
「やっぱり、高槻君のお弁当は美味しいです」
「ありがとう」
「私、もう、高槻君なしではいられない体になってしまいました……」
「誤解を生むからやめて」
「ふふ、ごめんなさい」
ちょっとした冗談だったみたいだ。
わりとお茶目らしい。
そういう新しい一面を知ることができて、素直に嬉しいと思う。
「そういえば」
弁当を食べつつ、天城さんが思い出した様子で言う。
「あの、えっと……うーん、なんでしたっけ?」
「なんのこと?」
「ほら。あの自分勝手を極めたような、理解不能で近寄りがたく、視界に入れたくすらない先輩のことですよ」
「……もしかして、如月先輩のこと?」
「そうそう、ソレです」
『ソレ』扱い……しかも、あれだけ関わってきたのに、名前すら覚えてもらっていない。
さすがに同情してしまう。
「あの時の勝負で、ソレは審判とグルだったみたいですね?」
「だね」
「それがバレて、バスケ部の先輩が激怒したらしく……勝手なことをした挙げ句、卑怯な真似をしてバスケ部の顔に泥を塗り、そして負ける。どうしようもないと、なかなか大変な目に遭っているみたいですね」
「あー……」
まあ、そうなるよな。
こちらには同情する点はない。
好き勝手していた分、たっぷり絞られてほしい。
「そのような話を聞いたので、たぶん、もう絡んでくることはないと思います」
「そっか、よかった。さすがに、あれこれ言われるのはちょっと、って思っていたから」
「……どの辺りが嫌だったんですか?」
「え?」
「下に見られていたところですか? それとも、その……私と一緒にいない方がいい、というところですか?」
「それは……」
天城さんは、やけに真剣な様子で聞いてくる。
だから、こちらも素直な気持ちを口にする。
「後者かな」
「それは……」
「一緒にいられるように、というか……天城さんと友達でいたい、というか……そういうところで変なことをいわれたくないから、しっかりしておきたったんだ」
「……はい」
天城さんは嬉しそうに頷いた。
その笑顔は、まさしく『聖女様』で……
「……」
天城さんがそう呼ばれることを好んでいないことを知っているのだけど、それでも、ついつい見惚れてしまう。
それくらいに絵になるというか……人を惹きつけることができる、最高の笑顔だった。
「どうかしたんですか?」
「えっと……なんでもないよ」
笑ってごまかしておいた。
うーん……
なんか落ち着かないけど、これ、なんだろう?
まあ、いいか。
今は、そういう細かいことを考えていても仕方ない。
もっと前向きに。
色々なことを広げていきたい。
一人じゃなくて。
天城さんと一緒に。
「天城さん」
「はい?」
「明日は、なにが食べたい?」
「えっと……」
天城さんはとびきりの笑顔を浮かべて、言う。
「高槻君の美味しいお弁当なら、なんでも♪」
ここで完結となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
久しぶりに書いた現代恋愛もの。
やっぱり楽しいですね。
この楽しさを共有できたのなら嬉しいです。
ありがとうございました。
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