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29話 対決・その4

「さあ、次はキミのターンだ」


 如月先輩は、余裕の表情でボールを俺に渡してきた。


 逆転した。

 そして、審判と組んでいる以上、俺の攻撃が通ることはない。

 ここからは点差が開いていくだけ。


 そう考えているのだろうけど……


 それは、読みが甘い。

 甘すぎる。


「一つ、いいですか?」

「なんだい? 降参かな? まあ、素直に謝罪をして、僕の言うことに従うというのなら、これ以上、恥をかかせることはしないが」

「いえ、違います」

「なに? それじゃあ、なにを……」

「ちょっと、周りを見てもらえますか?」

「周りだって?」


 如月先輩は怪訝そうにしつつ、周囲をぐるっと見回した。


 そこで見たものは……


「おい……さっきからのあれ、どう見てもファールだよな? バスケ素人の俺でもわかるぞ……」

「でも、ファールは取られていないから……いや。これ、もしかして……そういうことなのか?」

「えー……ここまでされると、さすがに冷めるんだけど。やりすぎでしょ」

「それは……私も擁護できないかも。いくらなんでも……ねぇ」


 如月先輩は、ようやく野次馬達の様子がおかしいことに気づいた。


 先ほどまでは、自分を応援して、讃える声であふれていた。

 しかし、今はどうだろう?

 冷たい目で見られ、けっこうな勢いで引かれている。


 当たり前だ。


 ここまでラフプレイを連発して、誰も気づかないなんてこと、あるわけがない。

 素人でも、あれはおかしいとわかる。


 そんな中、如月先輩はファールをとられない。

 さらにラフプレイを連発して……


 あぁ、裏でなにかしているんだな。

 そんな答えに行き着くことは簡単だ。


 結果、如月先輩の味方は消えた。

 代わりに、俺に対する同情が集まり、場の空気が変わっていく。


「おい、如月! 負けそうになっているからって、恥ずかしい真似しているんじゃねーよ!」

「お前、バスケ部の名前を汚すつもりか!?」


 ついには、三年らしき人達からも怒声が飛んできた。


「なっ、あ……こ、これは、その……」


 如月先輩はどうにかこうにか言い訳を考えているみたいだけど、ここから状況を覆すなんて無理だ。

 顔を青くして、ひたすらに慌てるだけ。


 うん……計画通り。


 あのまま、普通に試合が続くのならよし。

 そうではなくて、イカサマを仕込んできたとしても、こうして周囲を味方につけてしまえばいい。

 たとえ人気者だとしても、堂々と不正を働いて、それを得意そうにすれば反感を買うものだ。


 こるなることは簡単に予想できた。

 如月先輩は、あまり周りが見えていないというか……自分以外の人をバカにしすぎだ。

 その傲慢さが敗北に繋がる。


「言っておきますけど」

「な、なに……?」

「試合はまだ続いていますよ」


 ボールを奪い、俺のターン。

 速攻をしかけた。


 如月先輩は反射的に防ごうとするけれど、心の動揺は強く、精彩な動きを欠いていた。


 抜いて。

 ファウルをつけられようのない完璧な動きでゴールを決めて。


 ……それを繰り返して、試合終了の五秒前。

 俺のシュートがゴールポストを揺らして、逆転に成功。

 そこで試合が終わる。


「よしっ」

「ば、ばかな……この僕が、地を這いつくばるしかないネズミに……負けた? 負けたというのか……こ、この僕が……」


 如月先輩は膝から崩れ落ちた。


 俺に敗北したショック。

 それと、周囲から向けられた冷たい視線。

 それらが心のダメージとなり、立ち上がれない様子。


 同情は欠片も湧いてこない。

 自業自得。

 好き勝手していたのだから、その結果も受け止めないと。


「高槻君!」

「えっ」


 満面の笑みの天城さんが抱きついてきた。


「やった、やった! やりましたね!」

「え、えっと……天城さん?」


 すごい喜び方だ。

 俺の手を掴んで、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「私、絶対に高槻君が勝つと信じていました。でも、不安もあって……申しわけありません」

「いや、そんな、謝ることじゃないよ」

「でもでも、勝ってくれました! さすが高槻君ですね」

「だねえ……創は、やる時はやる子って、あたしは信じていたよ」


 凛もやってきた。

 俺と天城さんを見て、ニヤニヤと笑っている。


 くっ。

 絶対に妙なことを考えているな?


「お、おい……あの一年、聖女様と……」

「もしかして、あれが、最近、聖女様と仲がいいっていう……?」

「こうして一緒にいるところを見ると……まあ、アリっちゃアリ?」

「少なくとも、そこのださい先輩よりは万倍マシっしょ」


 俺のことを認めてくれるような台詞。

 これは想定外なのだけど……うん。


 この調子なら、今後、天城さんとの交友関係に口を出されることはなさそうだ。

 思わぬ成果だな。


「高槻君、おめでとうございます! それと、ここまでがんばってくれて、ありがとうございます!」

「まあ……俺も、まだ天城さんと友達でいたいから、がんばったよ」

「はい! ありがとうございます!」


 ありがとうは、こちらの台詞だ。


 天城さん。

 色々なこと、全部……ありがとう。

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てっきり部員全員買収というか負けるのは認められないかと 詰めが甘いというか阿保というか
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