28話 対決・その3
「ぐっ……ぐぐぐ!」
格下だと思われていた相手に、圧倒的な点差をつけられて。
さらに、口撃を受けて。
如月先輩は怒りに顔を赤くして、拳を震わせていた。
さすがに、こんなところで殴りかかってくるほどばかではないと思うけど……
少し警戒した方がいいかな?
「……調子に乗るなよ、ガキが」
俺にだけ聞こえる低い声で言う。
「もう甘い顔をするのはやめだ。ここで、完膚なきまでに叩き潰してやる」
「叩き潰されそうなのは、先輩の方では?」
「貴様っ……!!!」
射殺すような目で睨みつけられた。
やや挑発しすぎたかもしれない。
でも、これはこれでいい。
頭に血が登った人ほど、先の行動は読みやすい。
……だから、如月先輩の次の行動も読むことができた。
「……」
如月先輩は、ちらりと審判を見て、小さく頷いた。
審判も頷き返す。
「これ以上、のさばらせるものか!」
突撃するような勢いで、如月先輩が鋭いドリブルで切り込んできた。
その行く手を塞いで、ボールを奪うために……
「どけ!」
「っ……!?」
肩からぶつけられて、吹き飛ばされてしまう。
その間に、如月先輩はシュートを決める。
「審判、今のは……」
「……」
明らかな反則なのだけど、審判は反応しない。
……なるほど、そういうことか。
たぶん、如月先輩と審判は裏で通じている。
露骨な判定は控えていたものの……
もうなりふり構っていられないのだろう。
でも。
まったく問題ない。
むしろ、この展開を待っていた。
「おいおい、どうしたんだい? こんなにも簡単にゴールを許すなんて」
「……よく言いますね。こんなことをしておいて」
「なんのことかな? 己の実力不足が問題なのに、よくわからないことを言わないでほしいな」
「一応、忠告しておきますけど……」
「なに?」
「こういうことは、やめておいた方がいいですよ」
「……うるさいな」
如月先輩は険しい表情をして、俺だけに聞こえる声で小さくつぶやいた。
「お前のような生意気なヤツは、徹底的に叩き潰してやるよ。調子に乗るな」
「それが答え、と受け取っておきますね」
「その余裕、いつまで保つか見ものだな」
――――――――――
……その後の試合は一方的な展開だ。
如月先輩は、現役のバスケ部なのでしっかりとした技術を持つ。
体格もいい。
そんな人がラフプレイ上等で突撃してきて。
一方で、俺にラフプレイは許されず、それどころか、ありえない場所でのファールを取られてしまう。
試合になるわけながい。
十点以上の差は、あっという間に追いつかれてしまい、同点に。
「ここからが本番だな」
さらに如月先輩がシュートを決めて、ついに逆転した。
如月先輩は笑みを浮かべている。
同時に、俺に対する侮蔑の視線も向けてくる。
調子に乗るからだ。
最初から素直に言うことを聞いておけばいい。
俺に勝てるわけがない。
言葉にすると、こんなところだろうか?
如月先輩は、圧倒的な余裕を見せていた。
それもそうだろう。
審判を手を組んでいる以上、俺に勝つ術はない。
如月先輩が自滅でもしない限り、勝利はない。
ここから、なにもなしで勝つことができるとすれば、それはもう全国大会優勝の経験者くらいだろう。
あるいは、それに匹敵するだけの練習量を持つ人。
俺は、そこまでの域に達していない。
どうすることもできない。
ただ……
「創、がんばりなさいよ!」
凛の応援。
そして……
「高槻君、がんばってください! 負けないでください!」
天城さんの応援。
うん。
やっぱり、俺は、負けるわけにはいかないな。




