26話 対決・その1
数日後。
学校の体育館を一時的に借りて、如月先輩とバスケ対決をすることに。
一時的とはいえ体育館を借りられたのは、如月先輩がバスケ部のエースだからだ。
本来なら、この時間はバスケ部が体育館を使っているのだけど……
如月先輩が無理を言って借りたらしい。
「如月先輩、がんばってくださーーーい!」
「よくわからない一年なんか、瞬殺ですよ。瞬殺!」
「なあ、どっちが勝つか賭けようぜ? 俺、如月先輩な」
「それ、賭けにならないから」
野次馬がたくさんいた。
男子も女子も。
学年も問わず、たくさんの生徒がコートを囲むようにして見学をしている。
校門で対決の約束をしたから、人づてにどんどん話が広まっていったみたいだ。
それに、如月先輩も対決のことを話し回ったらしい。
たくさんの人の前で勝利を収めて、自身に対する尊敬の念を確保すると同時に、俺の評価を地に落とす。
考えているのはそんなところだろう。
その策は、ともすれば正しい。
集まった生徒達は、如月先輩の勝利を信じて疑っていない。
どれだけ派手に勝つか? なんてところを笑顔で話し合っている。
ただ……
「高槻君、がんばってください!」
「創、負けるんじゃないわよ!」
天城さんと凛は、周囲のことなんて気にした様子なく、俺のことを応援してくれていた。
その勢いは野次馬の生徒達にまったく負けていない。
うん。
勇気が湧いてきた。
この場にいることに、ちょっと違和感というか、気後れしていたんだけど……
二人のおかげで、やってやるぞ、という気持ちになることができた。
感謝だ。
「さて……逃げずに来たことは評価してあげようじゃないか」
対峙するのは、如月先輩だ。
普段の練習で使っているであろうユニフォームに着替えている。
一方の俺は、ただの体操着。
様にならないけど……まあ、その辺りはどうでもいいか。
かっこうつけるために来たわけじゃない。
妙な言いがかりをつけられないため、これからも天城さんと友達でいるため……
勝つためにやってきたんだ。
「キミの度胸は褒めてあげよう。しかし、勇気と蛮勇を履き違えてはいけない。どうだい? 今からでも自分の非を認めて謝罪するのなら、無用な恥をかくことはないけれど」
「安心してください。負けるつもりはないので」
「ほう……」
「先輩こそ、なかったことにするなら今のうちですよ?」
「……ガキが」
如月先輩は笑顔を保っているものの、隠しきれない怒りがこぼれていた。
挑発してみたら、簡単に誘われてくれた。
これでプレイが荒くなってくれたらいいんだけど……はてさて。
――――――――――
僕は、いわゆる勝ち組だ。
優れた容姿を持ち。
勉強も運動もできる。
芸人ほど話が上手、とまではうぬぼれていないけれど……
それでも、たくさんの人を笑顔にできる。
おまけに、バスケ部のエース。
ほら、勝ち組だろう?
学年、性別問わず、たくさんの生徒が僕のことを讃えてくれる。
さすが、と笑顔を向けてくれる。
時に好意を寄せて、告白もされる。
何度も。
そんな僕だからこそ、それにふさわしい相手がいる。
その辺りにいる女子なんて、絶対に付き合うことはない。
相応の格というものがある。
天城瑠衣。
僕にふさわしいのは、彼女だ。
『聖女様』なんて呼ばれているくらい素敵な女性で、彼女以外にふさわしい人はいない。
彼女もまた、僕と付き合うことが一番の選択だ。
他にはありえない。
……そう思っていたのだけど。
気がつけば、天城さんの周りにネズミがうろつくようになっていた。
なんの取り柄もなさそうな、小汚いネズミだ。
天城さんも困っているだろう。
なればこそ、将来のパートナーである僕が注意するべきなのだけど……
しかし、天城さんは優しい。
ネズミにさえ情けをかけて、かばってしまう。
なにを勘違いしたのか、ネズミは調子に乗り、天城さんから離れようとしない。
なんていう不届き者。
なんていう勘違い者。
今まで黙って見守っていたが、もはや我慢の限界だ。
ネズミはネズミらしく、目のつかないところを這いつくばっていればいい。
それがお似合いだ。
自分の価値というものを理解させてやる。
「さあ、おしおきの時間だ」




