25話 無謀無謀、でも希望も?
「おいおいおい……創ってば、正気?」
成り行きを見守っていた凛が、ちょっと困惑した様子で声をかけてきた。
それは天城さんも同じだ。
「本当ですよ! 正気ですか!?」
「えっと……二人の反応がよくわからないんだけど」
「「はぁ……」」
同時にため息をこぼされた!?
「前々から創はマイペースだと思っていたけどさー……まさか、ここまでなんて」
「高槻君の周りのことを気にしないところは良いところだと思いますが、同時にマイナス点でもありましたね……」
「えっと……?」
困惑する俺に、凛と天城さんが揃って丁寧に説明してくれる。
「バスケで勝負ってことだけど、如月先輩の部活を知っている? バスケ部さ。しかも、何度も大会に出場しているエース」
「あの人、性格はアレっぽいですが、バスケの実力は本物と聞いたことがあります。それなのに、バスケの勝負を受けてしまうなんて……」
「創って、たまにバカになるよねー。っていうか、元々、バカかな?」
「バカかもしれませんね。高槻君は、向こう見ずです」
言いたい放題だった。
いや、まあ。
そうなる原因は、俺にあるということも理解したけどさ。
如月先輩、バスケ部員だったか。
しかもレギュラー。
そんな話を以前、聞いたことがあったような気がするけど、まったく覚えていなかった。
どうでもいい情報は、すぐに忘れるんだよな。
「というか、あのような勝負を受ける必要なんてありません。相手の身勝手な要求で、高槻君が応じる必要なんて欠片もありません。今からでも、私が抗議をして……」
「ごめん、天城さん」
「高槻君?」
「今回は、俺のわがままを通させてくれないかな?」
「それは……」
「なぜ?」という感じで、天城さんは困惑そうにした。
「如月先輩の勝手っていうのはわかるんだけど……」
このまま放置したら、どんどんエスカレートしていきそうな気がした。
そういう危うさを感じる人だ。
なればこそ、天城さんに頼るのではなくて、俺が決着をつけるべきだ。
ついでに言うのなら……
「俺も、少しは男らしいところを見せたいな、って」
「……高槻君……」
「だから、がんばらせてくれると嬉しいかな」
「……わかりました」
天城さんは一つ頷くと、俺の手を取る。
「私は、高槻君を応援しています。がんばってください」
「うん、ありがとう」
手を通じて天城さんの想いが流れてくるかのようだ。
やる気と勇気が湧いてくる。
「あー……二人共、あたしのこと忘れてない? あと、ここが人目の多い校門ってところも忘れていない?」
「「っ……!?」」
慌てて手を離した。
顔が熱い。
「ところで……」
脱線した話を凛が元に戻す。
「如月先輩との勝負だけど、どうするわけ? 普通に考えたら、勝ち目なんてないけど」
「如月先輩の実力を知らないから、確かなことは言えないけど……それなりになんとかなると思う」
――――――――――
放課後。
凛と天城さんと一緒に、学校から少し離れたところにある公園へ。
小さいけれど、バスケットコートが設置されている貴重な公園だ。
幸いというか、利用者はいない。
これなら思う存分、特訓ができそうだ。
「と、いうわけで……」
「ちょっ!?」
凛を相手に、1on1。
ドリブルをしつつ、途中でターン。
そのまま凛を抜いて、ゴールポストにボールを入れた。
「よし、先制だ」
「ちょっと待った!」
凛が慌てた様子で言う。
「今のなに!? めっちゃ綺麗な動きっていうか、明らかに素人のそれじゃないんだけど!」
「驚きました……高槻君、もしかしてバスケをやっていたことがあるんですか?」
「部活に入っていたわけじゃないけど、実家にいた頃、父さんや母さんを相手に、何度も何度もやっていたから」
父さんと母さんは、運動神経に極振りしたかのような人で……
バスケでもサッカーでも、軽く練習しただけでプロの選手のような動きを可能にしていた。
そんな二人のような才能はなかったものの、それなりに鍛えられて……
俺も、そこそこ動けるようになっていた。
如月先輩がバスケ部のエースということは、さすがに覚えていた。
でも、それなりに対抗できるだろうと考えて……
無謀な戦いを受けた、というわけじゃない。
「す、すごいですね……」
「微妙にチートなところは感じていたけどさー……まさか、ここまでだったなんて」
感心と驚きが混じったような表情。
二人共、わりと気が合うのかもしれない。
「さすがに、最近は体を動かしていなかったから、けっこう鈍くなっているけど」
「これだけ動くことができて、鈍っているわけ……?」
「勘を取り戻すまで、付き合ってもらっていいかな?」
「はいはい、やりますよ。あーもう、あたしってばボランティア精神豊富なんだから」
「がんばってください、二人共。応援します、ふぁいとー! おー!」
特訓なのだけど、どこか楽しくて……
俺達は、笑顔の時間を過ごすのだった。




