24話 宣戦布告
「あのさ」
いつものように凛と一緒に登校していると、ふと、疑問を呈された。
「最近、思うんだけど……あたし、一緒にいていいの?」
「どういうこと?」
「あたしと一緒にいたら、天城さん、怒らない?」
「なんで、天城さんが出てくるのさ?」
「……それ、本気で言ってる?」
「???」
「ダメだ、こりゃ……」
なぜか、凛は呆れた様子だった。
意味がわからない。
もしかしたら、凛は、天城さんが嫉妬するって言いたいのだろうか?
まさか。
そんなことはありえない。
天城さんとは友達だけど、そういう関係じゃない。
それなのに、彼女が嫉妬するとかありえない。
……そう言うと、凛はさらにため息を深くした。
「創って、わりとなんでもできるけど、根本的なところはダメダメだよね」
「唐突にディスらないでくれるか? っていうか、根本的なところってなんだよ」
「教えてあげない。自分で考えなさい」
どういう意味だ?
考えるけど、答えは見つからなくて、そのまま首を傾げつつ登校することに。
――――――――――
「待っていたよ」
校門を抜けたところで声をかけられた。
如月先輩だ。
周囲を見るけど、天城さんはいない。
「もしかして、俺ですか?」
「そう、キミだ。キミを待っていたんだよ、僕は」
なんで?
突然の展開についていけず、ついつい呆けてしまう。
凛も同じ様子で、怪訝そうにしつつも、成り行きを見守っている。
「再三に渡る忠告も、キミは全て無視してくれたみたいだね」
「忠告……ですか?」
「とぼけるな。あれから、天城さんと何度も何度も話をしているそうじゃないか」
「はぁ……」
友達だから、そりゃ話くらいする。
「僕は、きちんと言ったはずだ。キミでは、天城さんと釣り合いがとれていない。分不相応な関係は止めるべきだ……と」
言われたものの、それは天城さん自身が否定した。
そして、如月先輩を口で叩き伏せたのだけど……
そのことを忘れているのだろうか?
「僕は寛大な方だけど、しかし、これ以上は我慢の限界だ。キミの愚かな行動を正さなければならない」
「……ケンカ、っていうわけですか?」
「いや、暴力に訴えるつもりはない。ただ、なにもせずに見逃すつもりもない……勝負をしないか?」
「勝負……ですか?」
「キミがどの程度のものなのか。天城さんにふさわしくない、ちっぽけな存在であることを、勝負を通じて教えてあげようじゃないか。そして、僕の主張が正しいことも、同時に証明しよう」
「いきなり、そんなことを言われても……」
そもそも勝負を受けるメリットがない。
天城さんは、俺のことを友達と、しっかりと言ってくれた。
そんな彼女の優しさと想いを感じた。
だから、如月先輩の言うことは全て的外れなものだ。
彼の言うことなんて無視してもいい。
ただ……
「……また、あなたですか」
ふと、地の底から響くような声が聞こえてきた。
「あ、天城さん……?」
いつの間にか、天城さんがいた。
校門の近くで騒いでいれば、気づいて当たり前か。
「以前、あれほど言ったというのに、また高槻君に絡んで……いったい、なにがしたいのですか? 私にケンカを売っているんですか?
「い、いや……僕はただ、キミのためを思い……」
「私のことを考えてくれているというのなら、放っておいていただけませんか? あなたの身勝手で、周りがまったく見えていない主張は、迷惑でしかありません。百害あって一利なし、です」
「うぐっ」
相変わらず天城さんは容赦がない。
苛烈な口撃に、如月先輩は早くもノックアウト寸前だ。
……とはいえ。
この場を天城さんに任せても、如月先輩は、なにもなかったかのように、また絡んでくるような気がした。
天城さんに任せてばかりではダメだ。
俺がしっかりと対応しないと。
「天城さん、落ち着いて」
「高槻君……?」
「ここは俺に任せてくれないかな?」
「それは……」
「お願い」
「……わかりました」
天城さんは完全に納得してくれたわけじゃないけど、ひとまず下がってくれた。
後は、俺が話をまとめるだけ。
「えっと……如月先輩?」
「な、なんだ……?」
「さっきの勝負の話、受けてもいいですよ」
「……なに?」
「ただ、如月先輩の一方的な要求を飲むのはちょっと困るので、こちらからも条件を出していいですか?」
「条件というのは?」
「俺が勝負に勝った場合、もう二度と、よくわからない話を持ってこないでください」
「は……はははっ、いいだろう! キミの条件を受けようじゃないか。まあ、僕が勝負に負けることなんて、万が一にもないけどね」
よほど自信があるらしく、如月先輩は言いきっていた。
これで負けたりしたら、後で酷い恥をかくことになるのだけど……
うーん、そこまではたぶん、考えていないんだろうな。
「勝負だけど、バスケはどうだろう?」
「ええ、それで構いません」
「よし、決まりだ。細かいルールや日程が決まったら、また伝えよう。では、今日はこれで」
如月先輩は勝利を確信しているらしい。
とてもごきげんな様子で立ち去っていった。




