22話 買い物へ
今日も天城さんの部屋にお邪魔していた。
連日はどうだろう? と思ったのだけど……
本人の強い要望で、またご飯を作ることに。
「天城さん、今日はなにが食べたい?」
「えっと……ハンバーグとか嬉しいです」
「了解、ハンバーグね。えっと……」
冷蔵庫を見る。
最初、天城さん家の冷蔵庫は見るも無惨な姿だったのだけど、今はとても良い状態だ。
空っぽということもなくなり、それなりに食材が詰まっている。
ただ、肉が見当たらない。
「あ……すみません。昨夜、料理の練習がてら使ってしまい……」
「天城さんのものなんだから、謝ることじゃないよ。とはいえ、困ったな」
俺の方も、あいにく肉は切らしていた。
「買いに行くか」
「あ、それなら……」
――――――――――
「ふふ」
「天城さん、なんだかごきげんだね?」
「そうでしょうか? 高槻君と一緒だからかもしれませんね」
「えっと……ありがとう?」
どう反応していいかわからず、適当な言葉でごまかしておいた。
近所のスーパー。
天城さんと一緒に買物にやってきたのだけど、なぜか笑顔があふれている。
いや、本当になぜだろう?
「スーパーなんて、初めて来ました」
「え? 今までどうしていたの?」
「その……全てコンビニで」
俺の中の『聖女様』のイメージが、どんどん崩壊していく。
でも、まあ。
その度に、素の天城さんを知ることができて、むしろ嬉しいような気がした。
肉のコーナーに移動して、二人で見て回る。
「色々ありますね……」
「鶏肉を使ったチキンハンバーグとか、健康的な豆腐ハンバーグとかも作れるけど、どうする?」
「……やっぱり、オーソドックスなハンバーグが好きです。肉肉しくて、じゅわっと脂が出てきたら最高ですね! ふわふわの食感だと、さらに素敵です。それにソースが絡みついた時は、もう言葉に表せないほど幸せで……はっ!?」
我に返った天城さんは、恥ずかしそうに赤くなる。
「うぅ……申しわけありません。ついつい熱くなってしまい……」
「いいんじゃないかな? 好きなものを語る時は、誰でも熱くなるだろうし」
「そう言っていただけると……」
「オーソドックスっていうなら、牛と豚の合いびき肉かな?」
「はい、それで」
「んー……」
肉を見て回る。
「これ、買わないんですか?」
天城さんは、不思議そうに合いびき肉を指さした。
「ちょっと高いかな」
「むぅ……?」
「良い肉であることに越したことはないけど、でも、ある程度なら調理でごまかせるから。ほどほどの値段で良い材料を選ぶ。これも、料理には必要なスキルかな」
「なるほど……なるほど?」
うん。
これは、間違いなくわかっていないな。
天城さんは文武両道なのだけど、料理が絡むと、途端にぽんこつになるような気がした。
そんなところに親しみを覚えていると言ったら、天城さんは怒るかな?
……笑ってくれるような気がした。
「ねえねえ、あの子達、付き合っているのかしら?」
「仲良く買い物とか、初々しいな」
通りすがりの若い夫婦が、とても温かい目をこちらに向けてきた。
近所の噂好きか。
そんなツッコミを入れたくなるような反応だ。
「「……」」
気まずい空気。
天城さんの顔は赤く……
たぶん、俺も赤くなっていると思う。
「えっと……なんか、ごめん」
「い、いえ……謝るようなことでは」
「それに」と間を挟んで、天城さんは続ける。
「嫌というわけでは……その、ありませんでしたから」
「え」
それは、どういう意味……?
そう問いかけようとしたら、先に天城さんが動いた。
くるっと反転して、こちらに背を向けてしまう。
「さあ、買い物の続きをしましょう」
「え? あ……うん」
「行きましょう、高槻君」
天城さんは、いつもと変わりない様子だけど……
ただ、その表情が見えないため、なんとも言えない。
普通に考えるなら、いつもと変わらない普通の表情だろう。
でも、もしかしたら照れているとか……そんな期待をしてしまうのは、俺が男だからだろうか?
「……ま、いいか」
深く考えなくていい。
今は、天城さんに美味しいハンバーグを作ることだけを考えよう。




