20話 ハプニングは突然に
「……ところで」
ごはんを食べて、食器を洗って。
後片付けが済んだところで、俺は、天城さんにとある提案をする。
「これ、俺が言うようなことじゃないと思うんだけど、でも、どうしても見過ごすことはできなくて……」
「はい、なんでしょう?」
「……少しは部屋を片付けた方がいいんじゃないかな?」
前回と同じく、あちらこちらに物が散乱してて。
足の踏み場に困るくらい。
天城さんは、とても気まずそうな顔に。
「うぅ……も、申しわけありません。私も、このままではいけないと思っているんですが、どうにもこうにも、うまくいかず……」
「俺も手伝うよ。一緒にがんばろう?」
「高槻君……はい、ありがとうございます。高槻君が一緒なら、私、がんばれる気がします!」
というわけで、部屋の掃除と整理整頓を行うことに。
まずはゴミ袋を用意して、明らかなゴミはテキパキと捨てていく。
ペットボトルにコンビニ弁当の空箱。
もう使わないであろう日用品などなど。
捨てるものを捨てたら、ある程度余裕が出てきたので、そのまま部屋は天城さんに任せることに。
その間、俺は、キッチンの掃除をした。
「……これは酷い」
具体的にどう酷いか、詳細な説明は差し控えよう。
いくらなんでもこれは、天城さんの名誉に関わる。
「だいぶ酷いけど……うん。でも、これはこれでやりがいがあるな」
料理だけじゃなくて掃除も好きだ。
汚れているところが綺麗になっていくところはたまらない。
鼻歌を歌いつつ、一時間ほどで完璧に仕上げてみせた。
「これでよし。天城さんの方はどうかな?」
天城さんは部屋の掃除と、いらない衣服などの選別をしているはずだ。
今は春なのに、冬服とかがまだ置かれていたからな。
片付けられることなく、そのまま。
さすがにそれはダメなので、選別をお願いしていた。
「天城さん、進捗はどんな感じで……」
「うーん……これは、でも、これも……」
様子を見に行くと、天城さんは両手に下着を手にしていた。
真剣な表情でじーっと見つめている。
「こちらはお気に入りの……でもでも、こっちは履き心地が……あっ」
目が合う。
「……」
「……」
互いに沈黙。
そして……
「ひぁ!?」
「ご、ごめん!」
慌てて部屋を出た。
「びっくりした……」
あちらこちらに物があふれているけど、さすがに下着はないと思っていたのだけど……
普通にあったな、下着。
天城さんは、思っていた以上に……いや、この先はやめておこう。
「……失礼しました」
ややあって、赤い顔をした天城さんが部屋から出てきた。
見なかったことに……は、さすがにできないか。
「えっと……俺が言うのもなんだけど、もう少し、散らかす時は考えた方がいいよ。いや、散らかす時に考えるっていうのは、なんかおかしな言葉だけど」
「いえ……はい。本当に……」
「まあ、気にしていないから」
「本当ですか?」
「うん」
「……私があのような下着を履いていたとしても?」
「え」
あのようなって、どのような?
「少し派手かな、と思うものを手にしていたと思うのですが……」
「そう……だったかな?」
衝撃的な光景だったため、詳細は覚えていないんだよな。
「えっと、その……言い訳になりますが、私は、普段、あのような下着を履いているわけではありません。先程のあれは、ちょっとした好奇心というか、友達に勧められたというか……そ、それだけです!」
「あ、うん」
「むぅ……あまり信じていませんね?」
そういうわけじゃない。
ただ、下着の話が続いて、どう反応していいかわからないだけだ。
「本当に違いますからね? あれ、一着だけですからね? 今、ああいうものを履いているわけじゃありませんからね?」
「し、信じているよ。だから、そんなに強調しなくても」
「だって、高槻君、ちょっと反応が……」
俺、疑われるような反応をしているのだろうか?
「むぅ……どうしたら信じてもらえますか?」
「信じているんだけど……」
「……見ますか?」
「え」
「その、ですから……今、私が履いているものを見れば、納得していただけるかと」
「えぇ!?」
天城さんは顔を赤くしつつ、スカートに手を伸ばした。
いやいやいや。
待って?
ちょっと本気で待って?
「お、落ち着いて、天城さん。今、天城さんは、我を失っているというか正気じゃないというか、とんでもないことをしようとしているから」
「でも、こうするしか高槻君に信じてもらうしか……」
「そんなことをしなくても、っていうか、そんなことをする方が恥ずかしいのでは!?」
「……そ、それもそうですね」
よかった、我に返ってくれたみたいだ。
「あ、あの……今のは忘れていただけると」
「了解」
「よかった。高槻君に変に思われたら、私は……私は?」
「天城さん?」
「……あ、いえ。なんでもありません」
ちょっと様子のおかしい天城さんだった。




