99 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑩
九十九話 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑩
号泣している進藤さんの傍らで、オレは闇・進藤さんにひっそりと話しかけていた。
「な、なぁ大丈夫なのか出てきちゃって。 感情の波が一気に押し寄せて危険……みたいなこと言ってなかったか?」
『うっさいな、仕方ないじゃん。 私だって冷静に話させてやろうって思ってたけど……その波に私ごと押し出されちゃったんだから』
もしもの際……衝動的に家を出そうになった時は力づくでも押さえつけろと助言をもらい、オレはいつでも対応できるよう膝立ちの体勢をとる。
しかしその『もしも』は起こることなく、次第に進藤さんの声も小さくなっていった。
「え、どういうことだ?」
『もしかしたらだけど、昨日から心の扉が開いていたおかげで最悪の結果を防げたのかも』
「ん? というと?」
『例えるなら風船と一緒。 パンパンに膨らんだ風船に針を刺したら勢いよく割れるけど、中の空気が抜けかけた風船に針刺してもそこまで激しくはならないでしょ。 そういうこと』
「ーー……な、なるほど。 別に例えるとあれか、限界に達する前に水抜きをするダムと一緒ってこと?」
『そう。 てか私より分かりやすい例えすんな。 潰すぞ』
オレと闇・進藤さんは二人の邪魔にならないよう一歩下がって静かに見守る。
その数分後、ようやく少し落ち着いた進藤さんが焦りながらあやしていた姉・すみれさんを改めて見上げた。
「ごめんっ……、つい昔を思い出しちゃって」
『う、ううん! お姉ちゃんは大丈夫。 ていうか……ゆりかちゃん、一旦心を落ち着かせるためにも、今日はもう寝る?』
「やだ、まだ話したい」
すみれさんの提案を進藤さんは首を横に振って拒否。
まだまだ話たいことがあるのだろう。「あとちょっとだけ……、お願い」と何故かオレにお願いしてくる。
「え、えっと……なんでオレに?」
「だってそうじゃん、今私はお姉ちゃんを加藤のおかげで視えてるんだから、ここにいる間に話したいの」
「あー、それは別に構わないけど」
「だからお願い。 もうちょっと起きてて」
進藤さんのやつ、感情が昂りすぎて、お札のおかげで視えてるってこと忘れてるな。
すでに進藤さんの手に握られているお札はぐちゃぐちゃで、別にそこまで眠くなかったオレは素直に「いいよ」と答えた。
◆◇
他にどんなことを相談するのだろう。
そう思っていたのだが、進藤さんが話題に出したのはすみれさんのこと。「死ぬとき……とか、やっぱ苦しかった?」と申し訳なさそうに尋ねる。
『うーん、あんまり意識なかったから全然だったよ。 気づいたら霊体になってて、魂の抜けた私の体を必死にお医者さんたちが延命させようと頑張ってくれてた』
「悲しかった?」
『そりゃあ悲しかったよ。 ゆりかちゃんは泣いてるし、それに私、一度も青春……人生を謳歌することなく終わっちゃったんだもん』
「青春……」
『そうだよ? お姉ちゃんはゆりかちゃんみたいにお化粧したこともなければ、男子に告白されたことも……もちろん告白したこともないんだもん。 あーあ、私の人生終わっちゃったなーってため息つきながら浮かんでたよ』
おお、やっと会話らしい会話になった気がするぜ。
闇・進藤さんが抜けた影響で、変な意地を張らなくなったのもあるのか?
そこからはもうほとんどが二人の思い出話。
「あそこ行ったの覚えてる?」やら『あの時ゆりかちゃん、ヘビの展示エリアで泣いてたね』やら。
もちろんオレはそれを静かに聞いていたんだが、やはり無言でジッとしているのも疲れるよな。 途中から眠気が襲い、大きくあくびをしたのをきっかけに、すみれさんが『あっ、ごめんなさい良樹くん、盛り上がっちゃって』とオレに頭を下げてきた。
「ごめん加藤。 あと少し、あと少しだけお願い」
「別にいいよ」
「ありがと。 じゃあ……最後に、お姉ちゃんにしか言えない相談があるの」
進藤さんがすみれさんへと視線を戻す。
『うん、なに?』
妹の真剣な表情に、すみれさんは冗談まじりに『恋愛以外でお願いね』と微笑みかける。
それを受けた進藤さんは大きく深呼吸。 再び目に涙を溜めながら、ゆっくり口を開いた。
「お姉ちゃんが……もういない」
その言葉に部屋の中は更に静まり返り、オレと闇・進藤さんは同時に顔を見合わせた。
「ーー……って、なんでお前まで泣いてんだよ」
『こいつの感情は、私とリンクしてるところもある。 だから仕方ないことなの、あんま触れんな』
「へいへい」
◆◇
進藤さんの最後の相談は、誰にも……神ですらも、どうしようもできない内容。
『ゆりかちゃん……』
目を大きく見開き固まるすみれさんを前に、進藤さんは更に言葉を続ける。
「お姉ちゃんがいなくなってから、ずっと心が苦しかった。 でも最初の頃は、きっと側で見守ってくれてるって信じて、頑張って弱音吐かなかった」
『えっと……うん、ごめんね。 ベッドでゆりかちゃんが布団に包まりながら泣いてたのも知ってる』
「そこも見てたんだ」
『もしかして、お姉ちゃんに見られないようにするため?』
「そう。 だけど見られてたなんて……悲しくさせちゃったよね」
『ううん、ゆりかちゃん強いなって思った』
すみれさんが両手を広げ、優しく進藤さんを包み込む。
「強い……? ゆりが?」
『うん。 人前では気丈に振る舞ってるゆりかちゃん……もちろん見てて辛かったけど、ほんと強いなって思ったよ』
「じゃあ……お姉ちゃんは、ゆりが今までみたいに強い方が安心する?」
『ううん、それは本来のゆりかちゃんじゃない……偽りの自分を続けるのも辛かったでしょ? お姉ちゃんは昔のままの……あの時のゆりかちゃんでいてほしいな』
「お姉ちゃん……っ!」
進藤さんは声を震わせながらも、嬉しそうに力強く頷く。
するとそれと同時……オレの隣にいた闇・進藤さんの気配が消えた。
「ーー……っ!?」
周囲を見渡すも、闇・進藤さんの姿が見当たらない。
オレが慌てて立ちあがろうとしたところで、いつの間に帰ってきたのだろうか。 御白がオレの耳元で静かに囁いた。
『消えたようじゃの』
「消えた?」
『うむ。 一体お主がどんな話術を使ったのか気になるところじゃが、あの娘・進藤は本来の自分を受け入れた……それにより、あの鬼の必要性、存在意義がなくなったのじゃ』
「え、じゃああの闇・進藤さんはどこへ……天界か?」
『いや、なんだかんだであやつも進藤そのもの。 進藤の心に戻り、奥深くで眠っておることじゃろう』
「そうか。 なら……これで問題解決か」
『じゃな』
進藤さんの一番の問題を解決したことで、オレの緊張が一気に解ける。
オレの目の前ではお互いに微笑み合っている進藤さんとすみれさん。 このままもう少し眺めていたいと思っていたのだが、後方から御白以外の……聞き覚えのある野太いオッサンの声が聞こえてきた。
『ううう、今来たけど感動するよお……!! やっぱり女の子同士って最高だよねぇ!』
「って、うわああああ!! 誰だお前……、って龍神さんじゃねえか!!!」
振り返るとそこにいたのはあのメタボリック体型の龍神。
御白の後ろで滝のような涙を流しながらうずくまっている。
「いや……え、なんで龍神さんがここに!?」
『あ、そうじゃ良樹。 見回りついでに龍神を連れてきたのじゃ』
オレが高速で瞬きをしている前で、御白が平然と答える。
「えええ、なんでだ!?」
『いやー、これを思いついたとき、妾は己の天才的思考に恐怖したわ』
「ンンン?」
『良樹。 その腹痛の病、龍神に治させるゆえ感謝せい!』
ーー……え?
「食中毒を?」
『うむ』
「龍神さんの力で?」
『そうじゃ!』
「ええええええええええええええ!?!?!?」
その日はまさに、幸せに満ち溢れた夜。
進藤さんはすみれさんと姉妹トークで盛り上がり。 龍神のおかげでお腹の違和感も完全に消え去ったオレは、ここ数日我慢していた空腹感を埋めるべく、思う存分ジャンクフードや夕飯の残り物を胃の中へぶち込んでいた。
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