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97 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑨


 九十七話  金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑨



「し、進藤さん、何かあったの?」



 一旦家に帰り、従姉妹いとこの遊び相手を終えて荷物を持って戻ってきた進藤さんに、オレは大きく瞬きしながら尋ねた。



「ん、何が?」


「何がって言うか……めちゃくちゃスッキリした顔してるよ!?」


「そう? ちゃんとメイクしてきたからじゃない?」


「いやいやいや!! なんというかこう……暗さが消えてるんだって!!」



 帰ってきた進藤さんは、数時間前の進藤さんとは化粧をしたとしても、まるで別人。

 目は大きく開かれており、ヤンキー独特の眼光……威圧感が少なめになっている。



「良いことでもあった?」


「いや? 普通に美咲……従姉妹の相手をして、母親とちょっと喋っただけ」


「そ、そうなんだ」


「ていうか何? その言い草じゃ、ちょっと前の私はブスだったってこと?」


「ああああ、そんなことは全く持って……!」


「タマちゃん潰す?」


「ーー……すみません」



 おいおいどうしてだ?

 明るくなったって印象を口にしただけ……褒めただけなのに、なんでオレがここまで言われないといけないんだ?



 オレが若干イラつきながら謝っていると、後ろから進藤さんの姉・すみれさんが『ほんとごめんね良樹くんっ!』とオレより全力で謝罪してくる。

 


『ゆりかちゃん、多分褒められて照れてるだけだからその……許してあげて』


「!」



 照れてるだけ……だと??



 すみれさんの発言にオレは敏感に反応。

 褒められて照れて……それを隠すために不機嫌を演出するとか、ツンデレそのものじゃねえか。



 突然のツンデレ属性に萌えていると、おそらくは表情にも出ていたのだろうな。 進藤さんは目を細めながら「何その顔」と一言。

 オレに舐められていると感じたのか、即座に進藤さんの右足が勢いよく上げられオレの股の方へ。



「え」



 そのままダイレクトに直撃し、オレはお腹を抱えながらその場で倒れ込んだのだった。



「は、なんでお腹抱えてるわけ? 蹴ったのそこじゃないんだけど」


「いや、蹴られたら、ぐふっ……、お腹が痛くなるようになってるんだって……バタリ」



 ◆◇



 さて、薬と時間経過のおかげで、二つの意味での腹痛は現状あまりない。

 


 夜。 愛ちゃんやマリアが寝静まり、高槻さんも就寝のため部屋に戻ったのを確認したのを確認したオレは、早速本題に入ることにした。



「ん、どうした加藤。 私のことじっと見て。 夜だしムラついてきた?」


「進藤さん、これ持ってみてよ」



 オレは以前愛ちゃん用に量産していた、オレの霊力の籠ったお札を進藤さんに差し出す。



「ん、なにこの紙。 ラブレター……とかじゃないよね」


「うん」


「じゃあなに?」


「まぁまぁ。 持ってくれれば分かるから」



 オレらしくもない強引な行動に、進藤さんは少し不信がりながらも手を伸ばしてそのお札に触れる。

 すると、午前中のあの出来事が夢ではなかったことに気付いたのだろう。 進藤さんの視線は目の前にいるオレではなく、その奥……今は亡き姉・すみれさんの方へと向けられていた。



「え、ちょっ……待って加藤。 これなに」



 進藤さんが、すみれさんとお札を交互に見比べながらオレに尋ねてくる。



「実はオレ幽霊視えて……それでちょっと工夫したら、普段そういうの視えない人でも視えるようになるんだよね。 あ、このことみんなには内緒ね」

『そうだよゆりかちゃん。 ゆりかちゃんは約束、守れるよね』


「ーー……っ!?」



 妹に見られていることを確信したすみれさんが、ゆっくりと進藤さんの前へ。 顔を覗き込みながら、『久しぶりだね、ゆりかちゃん』と優しく微笑みかけた。



「まじ……? 確かに夢にしてはクリアに覚えてる感じがしたけど、ガチだったんだ」


『ふふ、そうだよ』


「でも、なんでわざわざ?」


『それは……良樹くんに聞いて』



 唐突にすみれさんがオレに話を振ってくる。



「いやオレかよ!!」



 あー、でもあれか。 普通に家族間のいざこざを良くしたいって言っても、反抗されると思ったんだろうな。

 仕方ない、ちょっとだけサポートしてやるか。 年齢的にもオレの方が上だということで、進藤さんが変に気を張らないよう、代わりにフェイクの説明をすることにした。



「ほら、昨日進藤さんお姉ちゃんがいたって話してたでしょ? だったら積もる話……というか、姉妹同士でしか話せないような愚痴とか溜まってるんじゃないのかなって思って。 だからこうしてその場を作ってあげようかなって考えたんだよね」


「なんで?」


「え、なんでって……」


「私と加藤、そこまで仲良くなくない?」


「そ、それはほらあれだよ。 食中毒のオレの世話をしてくれたお礼ってことで」


「ふーん。 そういうこと。 分かった」


「あ、うん」



 よし、なんとか納得させることに成功したようだぜ。

 あとはすみれさんの、姉としての包容力に期待することとしよう。



 オレは「じゃああとは姉妹でごゆっくり」と言い残して立ち上がり、姉妹二人きりになれるよう部屋から出ようと進藤さんに背を向ける。 しかしこれまた予想外の展開……進藤さんはすかさずオレの手首を掴み、このままオレも話を聞いているようお願いしてきたのだ。



「え、なんで……?」


「そんなの決まってんじゃん。 これ考えたの加藤っしょ」


「う、うん」


「だったらさ、別に不安……とかじゃないんだけど、考案者として、ちゃんと見届けるべきじゃない?」



 これは……オレに甘えてきてるのか?

 進藤さんはオレに視線を合わさず、顔を少し赤らめ俯いたまま掴んだ手首を引っ張ってくる。



 ていうか……ああああああ!!! なんでそうなるんだああああああ!!!

 こういう状況でも【言い出しっぺが責任を持て現象】が通用するのかよおおおおお!!!!!



 諦めたオレは、その場で再び腰を下ろす。

 



「素直じゃん」


「どうもです」



 夏虫の音が静かに響き渡る平日の夜。 お互いにもう叶わないと思っていたであろう、数年ぶりの姉妹の会話が始まった。


 

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