96 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑧
九十六話 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり⑧
進藤さんには朝から家事やら色々としてもらって助かってはいたが、なんだかんだでオレ、緊張していたんだな。
深度さんが一時帰宅した途端にオレの眠気は最高潮に。 気づけばお昼を跨いで完全に熟睡してしまい、愛ちゃんたちが帰宅して玄関を開けた音でようやく目を覚ました。
「んー……、あれ、結構オレ寝てたんだな……って、ん?」
起き上がり玄関へと視線を向けた途端、何かとてつもなく嫌な気配を全身で感じる。
「なんだ、この感じ……」
思わず小さく呟くと、近くにいた御白もオレと同様に、不穏な表情を浮かべながら玄関先へ視線を向けていた。
『良樹、お主も気づいたか』
「御白……、これは一体……」
『分からん。 とりあえずこの家の中全体は、妾の力が隅々まで効いておる故に大丈夫だと思うのじゃが……用心することに越したことはないな』
まったくよ。 食中毒から始まって、ヤンキー女子・進藤さんと関わり、愛ちゃんの心配も増えて、更には謎の気配か。 気が休まらねぇなぁ。
変に騒ぎ立てると愛ちゃんたちが不安を感じてしまう可能性があったため、オレたちは一旦何も知らない風を装うことに。
しばらくすると愛ちゃんとマリア、その後ろにメリッサがついてくるような形で三人がリビングへと入ってきた。
「お兄ちゃんただいまー! お腹の調子、大丈夫?」
「良樹ただいま。 あれ、ゆりかは?」
『ちょっとぶりのただいまー!! ていうか、あははは!! ヨッシー、何その髪型ー!! めっちゃくちゃ寝癖ついてるよーー!!』
愛ちゃんたちがオレに近づいてくる途中、御白はメリッサだけに目配せをして別室へ。
おそらくメリッサから情報を聞き出したいのだろうな。 オレは御白たちの話が終わるまでの間、愛ちゃんたちとの話をなるべく長引かせるよう心がけた。
「それでね、メリッサちゃんすごいんだよ! あんな大きな鎌で、ちっちゃな悪魔をちゃんと倒せてたの!!」
どうやらメリッサが学校で悪魔狩りを実演していたようで、愛ちゃんが若干興奮気味にその時の状況をオレに語る。
「そうなんだ。 やっぱりあいつ、見かけによらず優秀なんだね」
「むぅ、愛、さっきからメリッサの話ばかり。 マリアも頑張ったのに」
「もちろんマリアちゃんもすごかったよ!! あのねお兄ちゃん、マリアちゃんも今日運動場におっきな光を作って、悪い霊を倒したんだよ!!」
「ーー……マリアお前、愛ちゃんの話からするに中級霊だと思うけど、流石にやりすぎじゃないか? そんな無駄に力を使ってたら肝心な時にガス欠になるぞ」
「あれはエンターテイメント、問題ない。 それにかっこいいところ全部メリッサに持っていかれるのは、マリアいや」
「子供かよ」
「子供。 マリアはまだ、子供」
この二人とのやりとり、心から癒されるぜ。
さっき感じた変な気配ももうないみたいだし……あれは結局なんだったんだ?
オレは二人との絡みがあまりにも楽しかったため会話に集中していたのだが、途中でマリアが視線を窓の方へ。
そこで思い出したかのように「そういえば……」と声を漏らし、オレの耳に顔を近づけ小さく囁いた。
「ん、どうした?」
「多分もう大丈夫なこと。 でも一応良樹には言っておく」
「なんだ?」
「学校から帰ってる途中、マリア、誰かに跡をつけられてるような気配がしてた。 姿は見てない」
「ーー……まじ?」
「まじ。 一応、愛に言ったら怖がりそうだったから、このことは言ってない。 でもマリアは、ちょっと怖かった」
報告を終えたマリアは何事もなかったかのような表情でオレから顔を離す。
「マリアちゃん? どうしたの? 秘密の話?」
「そう。 今日、愛が授業中、おトイレを我慢してたのが可愛かったこと、良樹に教えてた」
「え、えええええ!?!?!? もおおお、マリアちゃんー!!!」
顔を真っ赤に染め上げた愛ちゃんがマリアの手を握りしめる。
オレはそんな二人の姿を見ながらも、これはちゃんと動いたほうが良さそうだなと感じていたのだった。
◆◇
ー 特別編・ゆりかと美咲 ー
良樹が自宅でマリアから報告を受けていた時間。 進藤家では、ゆりかがひと回り歳の離れた従姉妹・美咲から熱い視線を向けられていた。
「ゆりかちゃん、昨日どこ行ってたのー!? 夜帰ってこないとか、ギャルかっこいいねーー!!!」
どうやら母親からゆりかが元気だと教えられていたのか、美咲はまったくゆりかの心配はしていなかった様子。 それよりも夜に家に帰らないというゆりかの悪ぶれた行動が、より美咲のギャルへの憧れを加速させていた。
「あーあ、みしゃも早くギャルなりたいなぁー!! ゆりかちゃんみたいに、夜遅く帰ってくるんだー!!」
目を輝かせながら見上げてくる美咲に、ゆりかは「やめとけ」と一言。
良樹の家で幸せそうに暮らしていた愛やマリアを見て、思うところがあったのだろう。 ゆりかは美咲の顔の高さまで腰を落とすと、近くにいた母親には聞かれないくらいの声量で耳打ちをした。
「あんな、美咲は私みたいになっちゃダメだ」
「え、なんでー?」
「美咲はそのまんまが良いってこと。 私の真似なんかしてたら、美咲ん家が崩壊すんぞ?」
「んん? ほーかい?」
「あー……まぁいいや。 ともかく、私みたいなもんを目指したら碌なことになんないってこと。 そんだけ覚えとけ」
姉・すみれの夢を見たからなのだろう。 この日のゆりかは、いつもよりもほんの少しだけ優しい雰囲気……姉のような立ち振る舞いで美咲に接する。
それを近くで見ていた母親はその時のゆりかを、当時小さかったゆりかの面倒を見てくれていたすみれの面影を重ね合わせていた。
「ん、お母さん、何? さっきからじっと見て」
「え、あ……ううん。 今日はもうご飯とか、家で食べるの?」
「違う。 今夜まではまた友達ん家に泊まらせてもらう。 今日は荷物取りに来ただけ」
「そ、そうなんだ。 で、でもねゆりかちゃん……」
「分かってる。 ずっと泊まってたら向こうにも迷惑だってんしょ? 大丈夫、明日には帰ってくるから。 今日までは、アイツに会わないで心を落ち着かせたいだけ」
「わ、分かった。 ありがとう、ゆりかちゃん」
「ーー……? うん」
この時のゆりかの些細な変化を敏感に感じとっていたのは母親だけ。
まさか今までなら不機嫌な口調で口答えしてきていたあの子が、母親である自分の言葉を理解し、受け止めてくれるなんて。
それに基本的にメイクを済ませていないと人前に出なくなっていたあの子が、ノーメイクで家に帰ってきたなんて。
「あの子は……変わろうとしてる? それとも私みたいに、心が疲れて気力無くなってきてるのかしら」
手を差し伸べたとしても、十中八九、振り払われる。
母親である私は、あの子のために何が出来るのだろう。
美咲の相手をしているゆりかを眺めながら、母は静かにそのことを考えていた。
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