87 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり③
八十七話 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり③
夕方家に訪ねてきたのは、まさかの石井さん。
オレが慌ててリビングから飛び出すと、石井さんは目を大きく見開いたまま固まっており、オレに気づくなり目線だけをオレの方へと向けてくる。
「か、加藤……くん? なんで進藤さんが」
「いや、というよりも、なんで石井さんが!?」
お互いに思ってもいない状況だったせいもあり、オレと石井さんは動揺モードに。 次に発する進藤さんの言葉が出るまで、ただただ「いやっ……」やら「え、じゃなくて……」を繰り返していた。
「ん、なに? やっぱ加藤と石井って付き合ってんの?」
「えええ、進藤さんなんでそんな……!」
「違うよ付き合ってないよ!!」
ーー……。
「ん? 加藤、顔色悪くない?」
「わわわ、ほんとだ!! 加藤くん調子悪いんだもんね!! ごめんね動かせちゃって!!」
「てかなんで加藤出てきてんの。 病人はジッとしてろ言ったけど」
「そ、そうだよ加藤くん! 早く横になって!!」
違うんです。 少しも迷わずに……照れもせずに交際を否定されたことが、二回目だけどショックだっただけです。
告白してもいないのにフラれた気持ちになるこの感覚、慣れないな。
◆◇
後ほどリビングで話を聞いたところ、石井さんはオレのお見舞いついでに、愛ちゃんたちの夕食を作りに来てくれたとのこと。 効率を考えてのことなのか、その手には野菜やお肉など、料理に使うのであろう食材の入ったビニール袋をぶら下げていた。
「え、石井って料理出来んの?」
石井さんの話を聞いた進藤さんが意外そうな目で袋の中を覗き込む。
「あ、うん。 そんな大層なものは作れないけど、一般的なものなら」
「そっか。 なら石井に任せよっかな」
「なら私にって……え? もしかして進藤さんが作る予定だったの!?」
「そうだけど」
「ど、どどどどういうこと加藤くんっ!!」
あーー。 体調悪いのに、なんでオレがこうも頭を使わないといけないんだよ。
オレは事の経緯を、若干のフェイクを入れながら石井さんに教えることに。
病院帰りに進藤さんと偶然会い、オレの足元があまりにもおぼつかなかったためわざわざ家まで付き添ってもらって、かつ家事もしてもらっていたと伝える。
「なぁ加藤、ちょっとそれ……」
進藤さんが何か言いそうだったのでオレはそれをすぐに阻止。「ね、そうだよね進藤さん。 それで今日は学校休んで貰っちゃったんだよね……!」とアイコンタクトをしながら伝えると、思いが伝わったのか進藤さんは歯切れは悪かったものの「え、あーー、うん」と話を合わせた。
「そ、そうだったんだ。 ごめんなさい進藤さん、私、変に疑っちゃって」
こういう風に、素直に物事を受け取ってくれるのが石井さんの魅力だよな。
話を聞いた石井さんはすぐに進藤さんに謝罪。「私、ほんとバカだなー」と苦笑いで自身の頬を軽く叩く。
「疑う?」
「うん。 てっきり私、進藤さんが加藤くんを狙ってるのかと思っちゃった」
「んなわけないでしょ。 狙うならニューシーの小柴くんみたいなイケメン狙うわ」
「小柴くん……あ、背の高いシュッとした子? ていうか進藤さん、サニーズ知ってるんだね」
「まぁうん。 ちょっとだけだけど」
んんん? 二人ともなんの話をしているんだ?
オレの知り得ない話題で盛り上がり始めた二人は、いつの間にか意気投合。
二人仲良くキッチンへと向かい、夕食を作り始める。
「じゃあ石井、あれ観た? 四人になった時の初ライブ」
「あーうん、観たよ。 脱退した元センターの山上くんのパートを歌うことになるのがプレッシャーだったって告白してくれた場面、泣けたよね」
これには愛ちゃんやマリアも意味が分からなかったようで、二人揃って視線をオレへ。「お兄ちゃん、ゆづきちゃんたち何の話で盛り上がってるの?」と尋ねてくる。
「いや、実はオレもなんのことだかサッパリ……話してる内容的に、男のアイドルの話だとは思うんだけど」
「あ、そうだね、サニーズって言ってたもんね。 じゃあキスユアかな」
「キスユア?」
「うん、今クラスのみんなが好きなサニーズのグループなんだけど」
「ーー……ちょっと待って、調べてみる」
オレはスマートフォンを取り出して、早速検索を開始。
どうやら大方の予想は当たっていて、二人が話しているのはどうやら男性アイドルやそのグループが数多く所属している会社、サニーズ事務所のこと。 その中で石井さんたちが盛り上がっていたのはその事務所に所属しているグループの一つ・【ニューシー】の話だった。
「なんか他にもいっぱいグループあるんだな。 あまりにも自分とは対照的すぎて全く知らなかった」
「私も調べたけど、ニューシーかっこいいね。 後でゆづきちゃんたちに色々教えてもらおっかな」
「だったらマリアも教えてほしい。 日本の音楽も、マリア興味ある」
イケメンを見すぎて二人の目が肥えませんように。
オレは二人がイケメンではないオレを見捨てないことを切に願う。 そしてこの数分後、第二の事件が幕を開けた。
「ええええ!?!? 進藤さん……今夜加藤くん家に泊まるの!?」
ニューシーの動画をスマートフォンで視聴していると、突然キッチンから石井さんの驚く声が響いてくる。
耳を澄ますとどうやら進藤さんが今夜ウチに泊まる話をしていたようで、それを聞いた石井さんの手はプルプルと震えていた。
「うん。 別に良くない? エロいことしないし」
「エロ……って、何言ってるの進藤さん! そんなことを聞いてるんじゃないよ!」
「じゃあ何?」
「なんで泊まるの!?」
「黙秘」
「えっ!?」
「あー、めんどくせ。 そんなに心配なんだったら石井も泊まればいいじゃん」
ーー……は?
一体どうしたらそういう提案に至るのだろうか。
とはいえ石井さんも根は真面目。 明日も学校はあるし、石井さんは制服もなければスクールバッグもない。 だから進藤さんのそんな変な挑発に乗るなんてことは……
「わ、わかった。 じゃあある程度作り終わったら、一旦制服とか取りに帰る」
え。
なんということだろう。
石井さんは頬を膨らませ、唇を尖らせながら小さく呟く。
「え、石井マジ? だったらさ、ついでに私に貸す用の服とかもお願いしていい? 私この制服しかないから」
「いいよ。 進藤さんの分も持ってくる」
はあああああああ!?!?!?
今日は一体どうしたというんだ。
その日の夜は、オレ以外はまさにパーティタイム。 ソファーでゼリー飲料とお粥を虚しく食べているオレの近くでは、愛ちゃん、マリア、高槻さん、石井さん、進藤さんが話に花を咲かせていた。
「ぷはーーっ! 高校生だと大人の話もある程度は出来るんですね! お酒がいつも以上に美味しいですー!」
年齢の近い同性二人と話せるのが楽しいのか、高槻さんのお酒のスピードがグングン上がっていく。
「いやでもビックリしましたよ。 まさかあの時の先生が加藤くん家にいるなんて」
「まぁ色々ありましてね。 お世話してもらってます♪」
最初こそ不安に思っていたけど、高槻さん、進藤さんとバトルする雰囲気はなさそうだな。
オレはホッと胸を撫で下ろしながらお粥を一口。
「ーー……美味しい」
なんだかんだで作ってもらえるありがたみを感じながら味わっていたのだが、そんな幸せも束の間。 少し前にオレが不安視していたことが、現実になってしまったのだ。
「ていうか進藤さんも、部屋着とか貸すので言ってくださいね。 あ、でも下着は……サイズが合わないのでそれ以外で〜」
完全に酔ってしまっているのか、高槻さんは既にお花畑モード。
しかしその発言を耳にした途端、進藤さんを中心に和やかに流れていた空気が一気に凍りつく。
「なに貧乳には人権ないって言いたいわけ?」
「いえいえ、決してそういった意味では〜。 大丈夫、まだ成長しますよー」
「は? なんで上からなわけ?」
まるで太陽に喧嘩をふっかけている北風。
離れているところで聞いていたオレだったのだが、先の見えない展開にオレの背筋は完全に凍ってしまっていた。
うわああああああ!!! なんか一気に空気がピリついて……怖いよおおおおお!!!!
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