86 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり②
八十六話 金髪クール系ヤンキー女子・進藤ゆりかとの関わり②
「うわー!! どうしてゆりかちゃんいるの!?」
「マリア、いきなり綺麗な金髪出てきてビックリ……霊かと思った」
夕方。 オレは玄関から聞こえてきた愛ちゃんたちの声で目を覚ます。
「ん……、寝てたのか」
薬のおかげか、お腹の調子こそ良くはないが、痛み的には昨夜から今朝にかけての比ではない。
オレはゆっくり体を起こして玄関の方へ。 そこでは愛ちゃんやマリアに甘えられている進藤さんの姿があった。
「ちょ、加藤、このチビたち私に懐きすぎ。 動けるなら離して」
愛ちゃんに手を握られ、マリアに抱きつかれている進藤さんが若干顔を赤らめながらもクールにオレに視線を向けてくる。
「いや、そこまでの力は、まだ今のオレにはないかな」
「じゃあ言葉でやめさせることもできるでしょ。 言って、私の言うこと聞かないから」
「んーー。 いや、あんまり二人とも同性の年上に甘えること出来てないから、出来れば相手してもらっていいかな」
「は?」
「お願い事聞いてくれるんでしょ?」
「ーー……」
数時間前の自身の発言を思い出したのか、進藤さんは二人を引き連れリビングへ。 大きなため息をつきながら、オレのお願いどおり、愛ちゃんたちの遊び相手をし始めた。
『良樹お主、あの派手な小娘相手に言うようになったのう』
再びソファーの上で横になったオレの隣で、御白が微笑みながら進藤さんへと視線を向ける。
「そうか?」
『うむ。 あの小娘と帰ってきた時は怯えておったが、今ではその怯えが感じられんぞ』
怯え……か。
「まぁあいつ……進藤さんが根っからのヤンキーだったら、オレは今も怖くて言えてないと思う。 でもまだ数時間しかお世話されてないとはいえ結構面倒見が良くて……心の底から腐ってない感じがしたんだよな」
『そうか』
納得したのか御白は『フフッ』と笑いながらその姿を消す。
オレはそれから陽が落ちるまでの間、石井さんとは違った愛ちゃんたちへの構い方をする進藤さんを見て癒されることに。 しかしそれは陽が落ちて外が薄暗くなってきたタイミング……オレはまたまた進藤さん関連で惑わされることとなる。
◆◇
「あ、もう六時半か。 帰りたくないけど、そろそろ帰るかな」
時間を見た進藤さんが、ゆっくりと立ち上がり大きく伸びをする。
「え、もう帰っちゃうのゆりかちゃん」
「ゆりか、愛に構いすぎ。 まだマリア、ちゃんと構ってもらってない」
愛ちゃんやマリアが子猫のような上目遣いで見つめるも、クールヤンキーには効果なし。
「いや、私にも私の用があるから」と二人に背を向けた……その時だった。
「ゆりか、さっき言ってたけど、家に帰りたくない?」
このマリアの問いに進藤さんは振り返らずに頷いて答える。
「そう。 だったらゆりか、無理は心の傷を広げる。 今日は、泊まったらいい」
「「え」」
これにはオレと進藤さんが同時に反応。
二人揃ってマリアへと視線を向けるも、マリアは一切怯えずに言葉を続けた。
「アメリカでも日本でも、子供の多くの悩みは家の環境。 我慢してそこに居続けた結果、我慢の限界を越えて精神を壊したり……悪い道に進んだ人間を、マリアはいっぱい見たり聞いてきた。 だからゆりかは無理するべきではない」
先ほどまでの甘えモードとは打って変わって、かなり真面目な表情。
マリアが言うと説得力があるよな。
これには進藤さんも心を掴まれたようで、「そうなの?」と尋ねる。
「そう」
それにマリアが頷き返すと、進藤さんは「そっか」と小さく息を吐き、なぜか視線をオレに向けてきた。
「進藤さん?」
「てことだから加藤」
「はい」
「今日いい?」
「え」
「泊めて」
「え?」
「泊めて」
「えええええええええええ!!!!!」
おいおいおい、これは困ったことになってしまった。
オレの勝手な憶測だが、ヤンキーの親は基本的にどこか常識の欠如したヤンキー気質な感じがする。 突然『うちの娘をなんで家に連れ込んどんじゃ』と怒鳴り込まれるのとか、ガチで勘弁だぞ。
どうにかして阻止できないものか。
石井さんの時と同じく親が許可するかどうかを聞いてみるも、進藤さんの答えは「あ、それは余裕。 母さんに『泊まる』ってメール打てばそれでいいから」とのこと。
たまに夜遅くまで遊んでいることもあるらしく、泊まりの報告をしていればあまり親は心配しないらしい。
「そ、そうなんだ。 でもオレ、後で進藤さんのお父さんとかに怒られるのとかごめんだからね」
そうやってオレが保険を打ってみるとどうだろう。 進藤さんは軽く舌打ちしながら、「大丈夫。 あの人、娘のこと興味ないから。 てかあいつの話、不快だから次から出さないで」と拳を強く握りしめた。
「あ、はい」
突然現れたヤンキーオーラにオレは一瞬でノックダウン。 泊まることをあっさりと承諾する。
代わりに夕食などの家事もしてくれるとのことだったので、オレはその旨を高槻さんにメールを送った。
【送信・高槻さん】今日進藤さんっていう金髪の同級生が泊まることになったんですけど、夕食作ってくれるみたいなのでお惣菜とか大丈夫そうです。
【受信・高槻さん】あ、進藤さんね覚えてるよー。 じゃあお菓子だけ買って帰ろうかな。 今夜は女子会の予感がするし。
ん、覚えてる?
「ーー……あ」
高槻さんからのメールを見て、オレは重大なことを思い出す。
そうだ、愛ちゃんたちとの交流会の時……進藤さんたちはそれを拒否して、勝手に帰ったんだったああああああ!!!
『今夜は女子会の予感がする』って仕返し……とかじゃないよな?
オレは今夜修羅場にならないことを祈りながら、時の流れに身を委ねることにした……のだが。
この約三十分後、第一の事件が起きる。
インターホンが鳴ったためオレが出ようとソファーから身を起こすと、進藤さんが「私出るから病人とチビたちはジッとしてな」と言い残して玄関へと向かう。
「舞せんせーかな」
「多分そう」
いや、愛ちゃんたちはそう言っているが、高槻さんにしては帰ってくるのが若干早い。
配達なのかなと思ったオレは耳を澄ませることに。
しかし玄関から聞こえてきた声は配達員さんでも高槻さんでもない……もっと若い女の子の声だった。
「えっ、あれ? なんで進藤さんが……か、加藤くん家に?」
「ーー……石井?」
なああああにいいいいいいいいいい!?!?!?!?
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