82 特別編・進藤ゆりかの苦難①
八十二話 特別編・進藤ゆりかの苦難①
とある平日の夕方。
「はぁ、楓も奈々も、本当ウザい。 それに帰りのあれはなんだったわけ? 気持ち悪すぎる」
その日、進藤ゆりかは自分でもよく分からないイライラを体内に溜め込んだまま帰宅。 玄関で靴を脱いでいると、ちょうどお手洗いから出てきた母親と出会した。
母親は部屋着ではなく外出用の服を着ている……買い物から帰ってきたのだろうか。
「あらゆりかちゃん、おかえり。 声聞こえなかったからママ、気づかなかった」
母親がパタパタとスリッパの音を立てながらゆりかのもとへ駆け寄ってくる。
「ーー……」
『ただいま』の挨拶をしないなんて、いつものこと。
ゆりかは分かりやすく大きくため息をつくと、面倒臭そうな視線を母親へ。 その後、これもほぼ毎日のやりとり……本日父親が何時頃に帰ってくるのかを尋ねた。
「あ、うん。 パパは今日少し残業してくるらしいから、帰ってくるの八時半くらいって言ってたよ」
そう、ゆりかは数年前からあることをきっかけに父親とは上手くいっておらず、顔を合わせてしまった日には基本的に怒鳴り合いの口喧嘩。 これに見かねた母親が、気を遣って出来るだけ二人を合わせないようにしてくれているのだ。
「ふーん、分かった。 じゃあそれまでにお風呂も全部終わらす」
「そうね。 夕食は七時には出来るから……また出来たら呼ぶね」
「うん」
小さく頷いたゆりかはそのまま自室の方へと体を向ける。
夕食まで何をしていよう。 現在友達の佐々木楓や黒沢奈々とは険悪ムードのためメールも出来ない。
「ーー……」
少し考えすぎたのか一瞬立ち止まり考えていると、そこはやはり母親だからなのだろうか。 ゆりかの小さな異変に察したであろう母親が「ゆりかちゃん、どうかした?」と心配そうな顔で尋ねてきた。
「ううん何も。 ちょっと疲れただけ」
「そ、そう? ならいいのだけれど」
「てか何その服装。 どこか出かけてたの? 買い物?」
「あ、ううん。 買い物じゃなくて、今からママ行くところがあって」
「行くところ……」
今から外出ということは、その予定が長引いてしまった場合、最悪夕食の時間が遅れて会いたくもない父親と鉢合わせてしまうかもしれない。
不安になったゆりかはどこへ行くのか母親に問いかける。 すると母親は一瞬驚いた顔でゆりか見た後、優しく微笑みながらゆっくりと口を開いた。
「一応昨日言ったんだけど、ゆりかちゃんスマホいじってて聞こえてなかったのかも、ごめんね。 田舎のおじいちゃんが検査入院することになったのは知ってる?」
「うん。 だからママの妹がおばあちゃんのお世話しに行くんでしょ」
「そう。 それでその期間に美雪の……ママの妹の旦那さんも出張になっちゃってて、だから美咲ちゃんをその間だけ預かることになったの。 ほら、美咲ちゃんってまだ小学二年生でしょ? 流石に一人にさせるわけにもいかないから」
「あー、そういうこと。 それで今から迎えに行く感じ?」
「そうそう。 別に寄り道とかはしないし真っ直ぐ帰ってくるから、夕食の時間は間に合うから安心してね」
「ーー……分かった」
母親は続けて、親戚の子供・美咲を預かってる間、小学校も流石に歩ける距離ではないため車で送迎することになるということを付け加える。
「そうなんだ」
「うん。 行きはパパが送ってくれるんだけど、小学校ちょっと遠いからその分朝早くなっちゃうの。 だから、もしパパと朝あまり時間被りたくなかったら、ゆりかちゃんの方で調整してほしいのね」
「そういうこと。 分かった。 詳しい時間はまた帰ってから教えて」
「ありがとうゆりかちゃん。 じゃあママ、今から美咲ちゃん迎えに行ってくるね」
「はーい」
正直毎朝のルーティーンがズレるのは面倒なのだが、父親と被らないためなら仕方ない。
それに母親の妹は進藤家の実情……父と娘の関係が良くないことを少しだけなら知ってくれている。 だからこそ、父と娘を二人きりにさせないためにも自分が田舎の祖母の世話役を買って出てくれたのだろう。
「ったく、どんだけ迷惑を振り撒けば気が済むんだろーね、私は」
母親が出て行った後、ゆりかは大きく息を吐く。
「多分私の頑固さはあの人譲り。 流石にこれ以上お母さんの負担を増やしたくないし、美咲の面倒くらいは……あの人がいない間だけでも私が見てあげるか」
もとより宿題なんてする気のないゆりかは、部屋着に着替えると同時にベッドへダイブ。
今の小学生は何をしているときが楽しいのか、母親が帰ってくるまでの間スマートフォンで情報を得ることにした。
「ーー……なるほど。 今の女の子はラブカツっていうアイドルアニメが流行ってんのか。 だったらネット配信のやつを一緒に観たら喜んでくれるかな」
◆◇
約一時間後、母親とともになんとも活発な小学生の従姉妹・星美咲が家へとやってくる。
ゆりかは玄関まで出迎え、母親の負担を減らすべく美咲を自室へと案内した。
「うわああああああ!!! これがゆりかちゃんの部屋ぁー!?!? うわあああ、おっとなーー!!」
「ちょ、美咲。 その鏡高いから触んな? ていうか落ち着け、化粧品落ちるから」
ゆりかは目を輝かせながら部屋中を走り回る美咲を一旦捕獲。
このまま放置してると部屋中が散らかってしまうと予感し、早速ネットで得た情報を美咲にチラつかせることにした……のだが。
「そんなメイク道具よりも、美咲はこっちがいいだろ」
「ん、なに? スマホ?」
正面で抱きしめるように押さえつけている美咲が無邪気な顔でこちらを振り向く。
「そ。 これでラブカツ観れんだぞ。 美咲知ってる?」
「あーうん知ってる!! 四月から始まったやつでしょ!!」
これは勝った。
勝利を確信したゆりかはホッと胸を撫で下ろして動画を再生。 しかしまだオープニング曲が始まったばかりだというのに、美咲の口からとんでもない言葉が発せられる。
「ねーゆりかちゃん」
「ん、なに?」
「みしゃ、ギャルごっこしたいー」
「ーー……は?」
「あ、そーだ!! みしゃも、ゆりかちゃんみたいに髪の毛金色にするー!!」
「いやダメだろ」
ネットの情報は当てにならない。
というよりもそうだった、この子……美咲は私に憧れてギャルを目指すとか言ってたの忘れてた。
「ねーねーゆりかちゃん、タバコってどんな味するのー?」
「吸ってないから分かんない。 てかそんなのに興味持つ前に、宿題したのか宿題」
「うわー!!! そーだった!! みしゃ、ゆりかちゃん家でのお泊まりが楽しみすぎて、やるの忘れてたぁー!! ゆりかちゃんは宿題やったの!?」
「私? 私はやらなくていいんだよ」
「うおおおお!!! ギャルかっこいーーー!!!! じゃあみしゃも、やらなーい!!」
「いや、やれ」
結局ゆりかは母親が夕食を作り終えるまでの間、美咲の宿題を見てあげる羽目に。
自分も小学生の時はこんな無邪気だったなと懐かしみながら、美咲と一緒に問題を解いていたのだった。
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