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08 愛ちゃんの夢と謎の転校生④


 八話  愛ちゃんの夢と謎の転校生④



 その日も学校が終わったと同時にオレはまっすぐ学校を出て今朝愛ちゃんと待ち合わせに決めていた場所へと向かう。

 ちなみに後ろの席の転校生・石井さんは今日も暗かったよ。 まぁでもイジメに発展していないあたりまだマシな方……そこは安心したぜ。



 学校から出たオレは早速周囲に集まりだした浮遊霊たちに「じゃあ……もしものときは、愛ちゃんのこと頼むな」声をかけた。



『あれだろ、昨日の悪霊が襲ってきたときは囮になって、愛ちゃんから気を逸らさせるってやつだよな? ま、ままま任せろよ!』



 数人の浮遊霊たちが声を震わせながら親指を立てる。



「そんな怯えんなって。 愛ちゃんの無事が確保でき次第そいつは強制除霊させるから」


『いやいやいや!! 簡単に言うけどよ!! こちとら捕まったら魂を喰われかねないんだ……絶対に守ってくれよな!!!』

『本当それな!! 成功したらまた日本酒お供え頼むぞ!! 俺たちは文字通り「魂」を賭けてるんだからな!!!』


「分かってる分かってるって」



 なんだかんだ言いながらも力を貸してくれる……浮遊霊たちは本当に最高の友人たちだ。 皆には感謝しかないぜ。


 

 浮遊霊たちと話に花を咲かせながら向かっていると、待ち合わせ場所に愛ちゃんの姿を発見。

 まぁ浮遊霊たちから『あの子ちゃんと言いつけ守って待ってるぞ』って聞いてたからな。 安心してここまでこれたぜ。



「愛ちゃーん」


「!!」



 愛ちゃんはオレの声にすぐに反応。

 こちらに視線を向けてくるなり「お兄ちゃーん!!」と愛くるしく手を振ってきたのだった。



「ちなみに愛ちゃんさ、思いついたいい方法ってどんなの?」


「んー? それは内緒ー」



 ーー……心配だ。



 ◆◇



 しばらく歩くと例の場所……橋が見えてくる。

 オレは静かに周囲を見渡して合図を送り、一部の浮遊霊たちは一斉に四散。 何かあったときはどこからでも飛び出して悪霊の注意を削げるよう、至る所に身を隠した。



「じゃあ……心の準備はいい? 愛ちゃん」


「うん!」



 愛ちゃんと手を繋ぎながら橋の前に立つ。

 するとそれを待っていたかのように昨日と同じように橋の下から黒い腕が出現。 ゆっくりと這い上がってきてオレたちの前に立った。



 さて、じゃあ愛ちゃんの考えた作戦がどんなものなのか気になるところではあるが、それよりも先に……



「なぁ、お前はオレたちに何か用でもあるのか?」



 愛ちゃんよりも先にオレが会話を試みる。

 もしこれで襲ってくるようなら対話は不可と判断してすぐに強制除霊へと踏み込む算段だったのだが、やはりコイツは昨日同様オレたちを襲う気はまったく無い様子……ゆっくりと川の方を指差しながら口を開いた。



『オ……ノ、テ……。 ワ……タイ』



 うん、昨日の今日でもしかしたら耳が慣れてるかもとも考えたけど、やはり何を言っているのかさっぱり分からない。

 オレは首を傾げながらも約束どおり愛ちゃんにバトンタッチ。

 一体何をするのだろう……かなりの不安を胸につのらせながらも愛ちゃんの行動をしっかりと見守ることにしていたのだが、オレは愛ちゃんの最初の行動に驚きの声をあげた。



「はい……これ、ハンカチ。 まずは涙拭いて?」


「え」



 なんということだろう。

 愛ちゃんはオレの前に出ると、ハンカチを差し出しながら一歩……また一歩と悪霊の方へと歩みを進めていく。



「あ、あああ愛ちゃん!? 何してんの!?」


「あのね、昨日見ててもしかしてって思ってたんだけど、やっぱりこの悪霊さん泣いてる……だったらまずは泣き止んでもらわないとって」


「ーー……!?」



 悪霊が泣く? そんなまさか。



 あり得ないと思いながらも視線を悪霊の方へと向けてみると、確かに目の当たりから涙のようなものが絶え間なく流れ落ちている。

 全身水浸しだからてっきり水滴が落ちているだけだと思っていたのだが……よく気づいたな。



 オレが感心している間にも愛ちゃんは悪霊との距離を縮めていき、隣で一緒に見守っていた浮遊霊が『お、おい良樹、大丈夫なのか!?』と耳元で叫んだことでオレはようやくハッと我に返った。



「だ、だよな。 いくら泣いてて攻撃の意思がなかったとしても、これ以上は危険だよな」


『分かってるならその手を早く引けよ!! 近すぎたら流石に俺たちが間に入るよりも早く愛ちゃんがやられるぞ!?』


「え、あ、ああ……そ、そうだよな」



 なんか色々と初めてのことが起こりすぎて脳が止まりかけていたぜ。



 オレは首を細かく左右に振って止まりかけていた脳をリセットする。 その後「愛ちゃん、それ以上は流石に危険だよ」と声をかけて引っ張ろうとしたのだが、愛ちゃんはそれを拒否。 「ほらこれ……使って。 使えないなら私が拭いてあげるから……」とゆっくりとハンカチを悪霊の目元へと伸ばしていった。

 


 そして……これまた初めての光景を目にしたんだ。



 もちろん悪霊は霊体のため、愛ちゃんのハンカチは涙を吸うことなく空を切る。

 しかしそんな愛ちゃんの気持ちが伝わったのか、やっと話を聞いてくれる人に巡り会えたのか。 悪霊はゆっくりと体の向きを橋の下……川下の方へ。 その先を眺めて改めて指差しながら、今までで一番聞き取りやすいのであろう声で、かなりスローモーションで話しだしたのだ。



『オカ……サン、ヘノ、テ……ガミ、ワタシ……タイ。 サガ……テ』


「お母さんへの手紙? 無くしちゃったの?」



 愛ちゃんが聞き返すと悪霊は小さく頷く。



「だ、だって! お兄ちゃん」



 愛ちゃんが大きく目を見開きながらオレの方へ振り返ってくる。

 しかしオレの反応は愛ちゃんとは真逆なもの。 あまりにも無理なお願いに大きくため息をついた。



「お、お兄ちゃん!?」


「愛ちゃん、それは無理だよ」


「なんで!?」


「だってそれがいつの話なのかも分からないし、もしそれを探すにしてもコイツの指差してる方向は川。 落としたんだったらもう水に濡れて破れたりして、もう形すらも残ってないと思うよ?」


「で、でも……!」


「まぁもしかしたら身長的に小学生っぽいし、当時通っていた学校に奇跡的に忘れてただけ……みたいな話ならまだ可能性はあるかもね。 でもそこまでのことをコイツから聞き出せるとはオレには到底思えないな」


「そう……なんだ」



 オレの言っている内容が少しは理解できたのか愛ちゃんが寂しそうに肩を落とす。


 さて、じゃあ次はどうやってここから離れるかについて考えないとだな。 完全な悪霊になっていない相手に強制除霊を使ったら愛ちゃんからの好感度が下がりかねないし……どうしたらいいんだ? 

 


 オレは「んー」と川下に視線を向けながら考える。



「んーー」


「ーー……」


『オカ……サン、ヘノ、テ……ガミ、ワタシ……タイ。 サガ……テ』



 しばらく続くオレと愛ちゃんの沈黙の時間。 

 しかしそれを切り裂いたのはまさかの浮遊霊の言葉だった。



『なんか見た感じ安全そうだけどさ、ぶっちゃけ良樹的にはどう思うんだ?』



 隣にいた浮遊霊がオレの顔の前に回り込みながら尋ねてくる。



「え? そりゃあこれだけ近づいても何もしてこないから安全だとは思うけど……なんで?」


『もしあれだったら俺が詳しく聞いてやろうか? 霊同士だし、脳に直接語りかけて貰えばある程度は理解できると思うしさ』


「えええ、いいのか?」


『あぁ。 このまま見捨てて帰るのも同じ霊として後味悪いしな。 それにあんなに悲しそうにしてる愛ちゃん見てたらこっちまで悲しくなっちまうじゃねーか』


「お、おっちゃん……」



 浮遊霊は『ちょっと待ってな』と言うと、悪霊の周囲を何度か旋回。 しばらくすると、『なるほどな、大変だったんだなぁお嬢ちゃん……!!!』と滝のような涙を流しながら悪霊のもとを離れ、オレたちに詳細を話し始めた。



『このお嬢ちゃんはこの辺で亡くなったんだとよ。 それも約半年前……最近だ』



「「え」」



 簡単にまとめると、なんでもその子はオレの記憶にもギリギリ残っていた……半年前の記録的な大雨の日、学校からの帰り道で川に流されてしまったらしい。

 当時その子のランドセルの中には学校で書いた母親宛の手紙が入っており、もうその手紙でしか母に気持ちを伝えることができないのでこうして必死に手紙を探していた……とのことだった。



「なるほど。 確かに半年前にそんなニュースあったな。 でもその子の学校ってこの辺じゃなかったはず……もうちょっと川的には上の方だったと思うけど」


『なんでも身体がこの橋付近で見つかったんだってよ。 だけど見つかった時にはランドセルは外れていた……だからこの辺に沈んでるんじゃないかって思って四六時中探していたらしいんだ』


「そ、そう……なのか」



 ちょっと待ってくれ。 思ってたよりもかなりダーク……断りづらい空気になってきたぞ。

 だって見てみろよ、愛ちゃんなんかその子に同情してなのか、あんなに肩を震わせて……



「じゃ、じゃあさ、探してあげようよ!」



 はい、やっぱりきました。

 天使ならそう言うと思ってました。



 オレは愛ちゃんが川の下へ向かおうとするのを必死に制止。 流石に悪霊並みに危険な行為なので愛ちゃんの目の高さまでしゃがみこみ、真剣に話すことにした。



「愛ちゃん」


「な、なに?」


「川は危険だからオレたちは上から探そう。 水中とか水辺はみんな……浮遊霊たちに任せればいいから」



 オレが視線を上げると浮遊霊たちが『じゃあお刺身追加なー!』と一斉に水辺へと飛び込んでいく。



「わかったよ」


『よっしゃお前らあああああ!!! このお嬢ちゃんとお刺身の為……頑張って探すぞおおおおおお!!!!!』

『『『『おおおおおおおおおお!!!!!!』』』』

『あ、俺のだけワサビ抜きでお願いします』

 


 こうして日が暮れるまでの期限付きではあるが、急遽ランドセルの大捜索が始まった。

 


お読みいただきましてありがとうございます!!

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