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79 悪魔を狩る者⑦


 七十九話  悪魔を狩る者⑦



『あ、あの人悪魔憑きだ』



 授業中、声が聞こえたため反射的に視線をメリッサの方へと向けると、それに気づいたメリッサが『ほら、あの子』と窓の向こう……遅刻して登校してきている女子を指差す。

 オレはその人を視界に入れるなり、思わず「えっ」と小さく声を漏らした。



 あれって……進藤さんだよな?



 目を凝らしてよく見てみると、やはりメリッサが指差していたのはヤンキー女子の一人で金髪クールな進藤さん。


 相変わらずのクールヤンキーだな。 遅刻しているのにも関わらず、進藤さんはスマートフォンを片手にのんびりと登校。 教室に入っても、授業中の教師に『生理で遅れましたー』と一言入れただけて何事もなかったかのように席に着いた。



 ◆◇



「ーー……で、どうやって進藤さんの中から悪魔を出すんだ?」



 実は、授業中にメリッサがすぐに進藤さんの体内に潜む悪魔を引っ張り出そうとしていたのだが、なんだか嫌な予感がしたオレはそれを一旦制止。 休み時間になるのを待ち、トイレ内の個室で悪魔を体外へと出す方法を聞いてみることにした……のだが。



『そんなの簡単だよ! 女の子はお腹の少し下……ここにキュッて霊力を込めた快感系の刺激を与えたら、ちょっとパンツを汚しちゃうことにはなるんだけど、快感のよだれと一緒に悪魔が飛び出してくるんだよー!』



 快感のよだれ……とは。



 オレには良からぬ考えしか思いつかないよ。

 これを聞いたらサキュバス相手でもセクハラになるのだろうか。 いや……そもそもサキュバスの存在自体がセクシャルなんだし、何も問題ないよな? 



 迷っているオレをよそに、メリッサはオレにピースサインを向けながら『すごいでしょー!』とドヤ顔を決めてくる。

 


「うん、まぁその……凄いな」


『でしょ!』


「ちなみにさ、さっき言ってた快感のよだれって……周りに影響とかないわけ?」


『うーーん、人によるかな。 私、あまり女の子を相手にしたことないから分からないんだけど、結局は男と一緒じゃないのー? 勢いある人は勢いあるじゃない?』


「ーー……あ、はい」 



 そうだな、意味の分からない純粋な人は、『勢いのある性格』みたいなものだと考えてくれていいぞ。

 ほら、何事にも我先にと周りのことなど気にしないで勢いよく突っ走るやつっているだろ? そ、そういうことだよ。



 さっきの会話で理解したオレはもう不純なのだろう。

 オレは恥ずかしさ半分、好奇心半分の感情でメリッサを見上げると、静かに親指を立てた。



「よし。 じゃあ誰もいないところでやってあげてくれ。 進藤さんが勢いのある子だった場合、クラスで孤立しそうだからな」



 続けてオレもその過程をこっそり見てみたいことをお願いしてみると、メリッサは快く承諾。

『分かった任せてよ!! サキュバスのテクニックを存分に楽しんでね!!』と満面の笑みを向けた。



 よっしゃああああああああ!!!!

 オレの見当違いだったらえるだけだけど、もし想像通りなら……オレは生まれて初めて快感のよだれを垂らす女の子の姿を見られるかもしれないぞーー!!!!



 ーー……ん、女の子の中から悪魔を取り出す時に快感のよだれが出る。 てことは、男の中に入った場合って。



 ゴクリ。



「なぁメリッサ、最後に一つ聞いていいか?」


『なにー?』



 オレはメリッサに、男の体内に入っている悪魔の取り出し方を聞いたのだが、オレの予想はまさかの大外れ。

 どうしてこうも男は理不尽なんだ。 メリッサからその方法を聞いたオレは、思わず内股になった。



『男の子の場合は簡単だよ! 生命力に満ち溢れた大切なボールがあるでしょ? そこを思いっきり下から蹴り上げるの! そしたら無条件で飛び出してくるよ!!』



 ひいいいいいいい!!!!!



 進藤さんから悪魔を取り出すのは放課後に決定。

 それまでオレは、本当に悪魔に取り憑かれた人が性格が変わってしまうのか、じっくり観察することにした。



 ーー……のだが。



【二時間目・休み時間】



「ね、ねぇゆりか、まだオコなの?」

「ウチと楓が悪かったって。 だから機嫌戻してよ」


「ーー……」



【三時間目・休み時間】



「ゆりか、あのさ」


「ーー……はぁ」


「あ、ちょっと待ってって!」

「めっちゃ話しかけるなオーラ出てたね」

「うわー、これ長引くよ多分」



 あの三人、喧嘩でもしてるのか?

 タイミングが悪いな。 全然検証にならないじゃないか。



 その後も金髪クールの進藤さんは、仲間でもある陽キャ佐々木さんや退院した黒沢さんの誘いや声かけを分かりやすくスルー。 昼休みになってもいつもなら三人仲良く教室から出ていくのだが、今日に限っては着いてくるなと言わんばかりの目つきで二人を睨みつけると、一人何処かへ消えてしまっていた。



「どんな喧嘩したらあんなに気まずくなるんだ?」



 オレが独り言のように小さく呟いていると、後ろの席から石井さんが「しょうがないよ」と同じく小声で声をかけてくる。



「え、石井さん? 何か知ってるの?」


「ううん。 でも女の子って結構繊細だから……何気ない一言で関係が壊れたりとか、たまにあるんだよね」


「そうなの?」


「だからなんていうか……加藤くんは優しいから何とかしてあげようって思ったとしても、何もしない方がいいよ。 男の子が思ってるよりも、女の子ってかなり複雑だから」



 石井さんはそれだけ伝え終えると、他の友達の席へお弁当を持って移動。

 ていうか石井さん、オレのこと買い被りすぎじゃないか? 別に何とかしてあげようとか、微塵も思っていなかったのだが。



 女って大変なんだな。



 オレは生憎あいにく一緒にご飯を食べる相手がいないため、スクールバッグからお弁当を取り出し、その場で一人静かに食べ始める。



「ーー……ん、あれ? なんか唐揚げの食感がちょっとおかしいような。 気のせいか?」



 いつもと違う感覚に一人首を傾げていると、隣にいたメリッサが『ねねヨッシー!!』とオレの肩を高速で叩いてくる。



「なんだ」


『今そこの廊下を歩いてる男子に、悪魔憑いて他の!! 狩ってきていい!?』



 んーー。



「いいんじゃないか? 男だし」


『ありがと! 行ってくる!!』



 メリッサはやる気満々で廊下へ飛んでいく。 そしてその数秒後、苦しさと痛みと絶望の混ざった二つの断末魔が、廊下中に響き渡った。



 ひいいいいい!!!!



お読みいただきましてありがとうございます!!

励みになりますので感想や評価・レビュー・ブクマ・いいね等、お待ちしております!!


●誤字報告、ありがとうございます!!助かります!!

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