78 悪魔を狩る者⑥
七十八話 悪魔を狩る者⑥
昨日マリアのスマートフォンを契約し、そのついでの買い物中で遭遇した変態サキュバス娘・メリッサ。
どうやら彼女はどエロい報酬を条件に【雇われ死神】として働いており、それをオレたちにも手伝うようお願いをしてきたのだが……。
◆◇
「あのさ、マリアがお前に協力する意思があるのは知ってるぞ。 でもな……」
朝。 一人通学路を歩きながら、オレは視線を斜め上へと向けた。
「なんで……なんでお前はマリアじゃなくて、オレについてきてんだよおおおおおおお!!!」
オレの視線の先にいるのは、冒頭にも軽く紹介した変態サキュバス娘・青の長髪を靡かせたメリッサ。 ていうかサキュバスって霊的な存在のくせに眠たいとかあるんだな。 宙に浮き、大きくあくびをしながら面倒臭そうにオレを見下ろしてきた。
『そんなの決まってんじゃーん。 悪魔って、どちらかって言うと精神的に不安定な人に寄生しやすいのね。 だったら無邪気な子供よりも、ヨッシーくらいの思春期真っ盛りの方が悪魔、見つけ出しやすそうじゃない?』
「ーー……え、そうなのか? 思春期に?」
『そうだよー。 精神的に不安定な思春期、後は闇を抱えた大人に多いかなー。 ていうかそれ、昨日マリアに教えたんだけどー』
「オレ聞いてねぇよ!!!!」
なるほどな。
だから今朝家を出る時、マリアはこいつがオレに着いていくのをみながらも何も言わなかったのか。
納得したオレは、いつの間にか途中で止めていた足を再び動かし歩き出す。
一番気になってたところは聞けたんだ。 他にも聞きたいこと……というか言いたいことはあるのだが、それは歩きながらでも充分だろ。
『うんうん! 分かってもらえて嬉しいよ!!』
「あ、あとまだあるんだけどいいか」
『なにー?』
「ヨッシーはやめろ」
『え?』
「あと、その巨乳を思わせぶりに揺らすな。 オレの友達の……浮遊霊たちの目がハートになってんだろ」
周囲を見渡すと、オレとメリッサを取り囲むように浮遊霊たちが密集。 皆メリッサの胸やお尻に釘付けでヒューヒュー盛り上がっている。
『オアアアアア!!! 最高……最高だああああ!!! めっちゃ揺れてるぞーー!!!!』
『サキュバスって都市伝説じゃなかったんだな!! 握手して……いや、触らせてくださーい!!』
浮遊霊たちのラブコールを受けたメリッサは、満更でもないのか、はたまたおちょくっているだけなのか。
『あはーーんっ! ありがと、でもまだ朝だから……そのムラムラは、夜まで我慢しててねー!!』
『『『ヒュウウウウウウウ!!!』』』
ーー……うるせぇ。
これもサキュバスの効果なのだろうか。
浮遊霊たちは、いつもなら校門前で解散しているところなのだが、今回に限っては教室にまでついてきていたのだ。
「おい、緊急事以外は教室まで来ないって約束だろ」
皆に聞こえない程度に小さく声をかけると、浮遊霊の一人が血走った目で勢いよくオレに顔を近づけてくる。
『いいじゃねぇか今日くらい!! 俺たち霊にだってな、ムラムラする時あるんだよ!!!』
「いや、だからって教室にまでは……」
その後はもはや数の暴力。
オレが友達には手を出さないことを知っているからなのか、多くの浮遊霊がオレのもとへ押し寄せてきた。
『良樹……、お前はムラムラしないのか!? あんな露出された胸を見て、お前は何も思わないのか!?』
『霊同士なんて不可能なのに、なんでだろう……あの子となら出来る気がするんだよ!!』
『頼むよ!! ボインは男の夢だろ!?』
「あーいや、話を聞け。 オレたちは入学と同時に約束しなかったか? 学校にまでは入ってこないって」
『だーかーら!! それでも許して欲しいんだよ!! このムラムラ、止められねぇ!!』
『おい良樹に何を言っても無駄だ。 こいつは愛ちゃんやマリアちゃんみたいな小さな女の子が好きなロリコンなんだから』
『あっ、察し』
「ーー……」
あ、否定できない。
確かにグラマラスな高槻さんや、同い年にしては色気の権化でもある石井さんも捨て難いが、未発達……いや、発展途上の愛ちゃんやマリアには、言葉では表せないほどの魅力が詰まっている。
二次元に関しては完全にロリコンだって認識はあったけど、もしかして現実……三次元に関しても、オレはロリコンなのか?
結局言い返せなかったオレは今日だけ特別に浮遊霊たちの教室侵入を許すことに。
そして予想していた通り、授業が始まってすぐにオレは今日、授業に集中できないことを悟った。
『あら、なんか普段見ない顔がいるわねー!!』
廊下で鬼ごっこをして遊んでいた日本人形が浮遊霊たちを発見。 物珍しそうな顔で浮遊霊たちに近づいてくる。
『お、キミは?』
『ワタチは日本人形。 この学校のマドンナよ!』
日本人形がその綺麗に整えられた髪を靡かせながら浮遊霊たちに挨拶。
しかし彼らの日本人形に対する反応は、それは悲しいものとなっていた。
『あっ……、そうなんだ。 うん、よろしく』
浮遊霊たちはあいさつ程度の会釈をすると、すぐに視線を日本人形とは反対側にいるメリッサへ。
窓の外を眺めているメリッサのお尻を満面の笑みで見つめ始める。
『ちょ、ちょっと!! なんなのよその反応は!! てゆーか、誰よ、しょこの女!!』
『あー日本人形さんだっけ? ちょっと黙っててくれるか? 俺たちは目の前のセクシーに集中してるんだよ』
『セクシー? だったらワタチを見なちゃいよ!! ワタチの方がセクシーでちょ!?』
『『『ーー……』』』
『むきいいい!!!! もう怒ったんだから!! アンタたち、やっておちまい!!』
日本人形はちょうど廊下を通りかかった霊魂のみの金次郎像や人体模型を見つけ、浮遊霊たちをボコボコにするよう命令を下す。
しかし彼らもまた男。
彼らの視線はすぐに日本人形からメリッサのお尻へと向けられ、日本人形がただただ一人で暴れることになってしまったのだった。
『んーーもう!! 許ちゃないわ!! みんなの大事なところ、ワタチがぜーんぶ切り落としちゃうんだからーー!!!』
オレの目の前では日本人形を鬼とした、捕まったら大事な部分を切られるというまさにデスゲームと呼べるほどのおにごっこが急遽開催。
当事者じゃないと、ここまで面白いんだな。
オレは必死に追いかける日本人形と、なんだかんだで捕まりたくない浮遊霊たちの逃亡劇を楽しみながら眺める。
しかしそんな面白さがピークのところで、メリッサが小さく呟いた。
『あ、あの子、悪魔憑きだ』
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