76 悪魔を狩る者④
七十六話 悪魔を狩る者④
『ねね、これってめっちゃ眩しいし温かいんだけど、なに? 美白効果とかあるわけ?』
マリアのフルパワーの力を前に、悪魔っ子(仮)はまったくダメージが効いていない様子。
オレたちが信じられないようなものを見る目で質問に答えられないでいると、それで機嫌を損ねたのか悪魔っ子(仮)は持っていた大鎌を横薙ぎに大きく振るう。
「えっ」
「はああ!?!?」
光って、切れるんだっけ?
大鎌の刃が通った箇所だけがパックリと割れ、そこから悪魔っ子(仮)が頬を膨らませながら……傷ひとつない状態で出てきたのだ。
「な、なぁマリア、さっき結論が出たとはいえもう一度確認するけどさ、あれって……悪魔だよなどう見ても。 なんで全然聞いてないんだ!?」
「わかんない。 でもあの羽、そうとしか思えない」
『ねーえ!! 今の言葉、聞こえたよー!? 心外なんだけどー!!』
悪魔っ子(仮)が大鎌を持ったままオレたちの前へ。
ここから悪魔っ子(仮)のターンだと感じたあオレは、マリアと愛ちゃんを守るべく一歩前に進み時間を稼ごうとしたのだが、そこで悪魔っ子(仮)は発したのは意外な言葉。 それを聞いたオレは我が耳を疑った。
『あー! 今気づいたんだけど、お兄さんたち、私を消そうとしてた感じー!? さいてー、私、悪霊でも悪魔でもないんですけどー!!!』
「え」
『それに私、お兄さんたちに危害加えてなくない!? 私はただ、悪魔狩りのお手伝いをしてもらえる人を探してただけなのにー!!!』
ーー……え?
「「「えええええええええええ!?!?!?」」」
◆◇
『なるほどのう。 それで良樹たちは、この派手な娘が言っておることが誠なのか、妾に確かめてほしかったと』
自宅玄関前。 オレたちの話を聞いた御白が目を細めながら悪魔っ子(仮)を見上げる。
「そういや御白、なんでこいつと遭遇した時に助けに来てくれなかったんだよ。 死霊の時みたいに期待しちゃったじゃねーか」
『すまんな。 少し……うむ、話し込んでしまっておったわ』
「なるほど。 龍神か?」
『内緒じゃ』
内緒で、かつ話し込んでいたと言うことは、他の神たちとの神様会議みたいなものでもやっていたのだろう。
「神様ってのも色々と大変そうだな」
『まぁな』
オレはそれ以上深く追求することはせず、その話題はそこで中断。
御白は再び目の前の悪魔っ子(仮)の正体を調べるべく視線を戻したのだが、ここからまさかの大波乱が起こるなんて。
『あはは、ちっちゃなネコちゃんだ、可愛いね!! ニャンニャンって鳴いてみて!!』
『ーー……あ?』
悪魔っ子(仮)の無邪気な一言で、御白のこめかみに怒りマークが一つ浮かび上がる。
『ねーえ、ニャンニャンは?』
『ーー……ああ?』
『違うでしょー!! 「ああ?」じゃなくて、ニャンニャン!』
『あああ!?!?』
度重なる悪魔っ子(仮)の言葉で御白の怒りはとうとう頂点へ。
頭部を全て怒りマークで埋め尽くした御白は、周囲にいる霊を破壊するかの如く全身から莫大な量の霊力を放出させた。
『この身の程知らずがああああああ!!! 魂ごと消滅させてやろうか小娘えええええええ!!!!』
戯れ合いが始まると思ったのだが……悪魔っ子(仮)の煽りともとれる発言に、御白は尻尾の毛をまるで怒れる猫のように逆撫でて激昂。
地面から死霊の時とは比べ物にならない数の眷属を呼び出し、一斉に飛びかからせる。
『えええええ!?!? ちょ、ちょっとやめてよネコちゃん!! なんでネコちゃんが狐を呼び出してるのー!?』
『まだ言うか貴様ーーー!!』
『待って、待ってって!! 服に噛み付かないでよ、破れちゃうじゃないー!!!』
『知るかーー!! お主が何者か調べるついでに、その胸も本物かどうか確かめてやるわあああああ!!!』
悪魔っ子(仮)は大鎌で振り払おうとするも、眷属一匹に傷ひとつつけることも叶わず。
そのうち身ぐるみを全て剥ぎ取られ、とうとう生まれたての姿になってしまった。
ーー……ごくり。
オレは目の前の光景を凝視しつつも、この悪魔っ子(仮)の正体が一体何者なのか、脳内をピンク色に染めながら考える。
見た目的には完全に悪魔だ。
なのに悪魔祓いは効かないし、もちろんオレの強制除霊も反応なし。 それだけでも謎なのに、こいつは霊だけでなく、人に触れることも出来る……そんな存在、今まで会ったことも聞いたこともないぞ。
「んーーーーーーーー」
ピンク色の状態で脳を酷使しすぎたせいか、鼻の奥から熱いものが垂れ落ちる。
ちなみにオレはその鼻の違和感よりも、その瞳に映るエロスに集中していたことによりあまり気にならなかったのだが、愛ちゃんの
「お、お兄ちゃん!?」でようやく我に返った。
「え」
後ろを振り返ると、愛ちゃんとマリアが目を大きく見開きながらオレを見上げている。
「どうしたの愛ちゃん。 マリアまで」
「お、お兄ちゃん……鼻血出てるよ!!」
「鼻血?」
条件反射で鼻下を手で拭ってみると、結構な量が出ていたのかオレの手の甲が赤く染まっている。
「ーー……マジだ」
「良樹、エッチなもの、見たから?」
「ちげぇよ!! 頭を使いすぎたからだよ!!」
必死に言い訳をしつつも、このまま鼻血を垂れ流したままだと後々の洗濯がかなり面倒なことになる。
目の前の悪魔っ子(仮)の裸体を見られなくなるのは少し……いや、かなり残念だけど、オレは洗濯の効率を優先するぜ!!!
オレは鼻の中に詰め込むティッシュを求めて家の中へ。
するとちょうどそのタイミング、御白と全裸の悪魔っ子(仮)の会話が後ろから聞こえてきた。
『というよりもお主は……珍しいの。 こうして日本で出会ったのは初めてじゃ』
『念の為もう一回言っとくけど、悪魔じゃないからね!!』
『分かっておる。 お主、サキュバスじゃな』
『えっ、正解!! なんで分かったの!?』
ーー……なに?
悪魔っ子……いや、サキュバス娘が目を輝かせながら御白に『うんうん!』と頷いている。
「さきゅばす? マリアちゃん、それってなに?」
「サキュバス……マリアは、女の悪魔って聞いたことあるけど」
愛ちゃんとマリアの会話を聞いたサキュバス娘は、頬を膨らませながら二人の前へ。
『ぶっぶー!! あんな極悪な奴らと一緒にしないでよ!! 私たちサキュバスは、見た目こそちょっと似てる部分はあるんだど、あいつらと違って不幸なんてばら撒かない……むしろ幸せを与える存在なんだよ!? 男の人限定だけど!!』と自身が悪魔ではないことを必死に熱弁する。
「そうなの?」
『そうなの!』
「なんで、男の人だけが幸せなの?」
『そんなの決まってるでしょ!! 男の人はサワサワ、キュッキュして、チューしたらピューってなって……その時が一番幸せなんだよ!』
「さわさわ……キュッキュ? ちょっと私には何言ってるか全然……」
『もー、仕方ないなー。 じゃあそこにちょうどいい男の人いるし、お兄さんで実演してあげるから、ちょっと見ててねー』
サキュバス娘は視線をオレへと移動。
目が合うや否やニヤリと口角をあげた。
ま、まさか……。
嫌な予感がしたオレが一歩下がって距離をとると、サキュバス娘は両手をワキワキさせながらその視線をオレの下半身へと移す。
「お、おい待てサキュバス。 オレは別に……」
『いいじゃん! ちょうどいい性教育だよ!! お兄さんも協力してー!!!』
「つーかお前、悪魔狩りの話はどこにいったーーー!!!!」
こんなところでオレの痴態を曝け出すわけにはいかない。
オレは禁断の方法・【守ってくれたら、その日コーラ飲み放題】をいう条件で御白を味方につけ、なんとかサキュバスからの魔の手から逃れることに成功したのだった。
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