74 悪魔を狩る者②【挿絵有】
七十四話 悪魔を狩る者②
「うむむ……まだか?」
買い物中、偶然悪魔を見つけたマリアは、近くにまだいるかもしれない悪魔を祓うべく、愛ちゃんとともに捜索を開始。
オレはその間にレジで会計を済ませ、マリアたちに事前に伝えていた出口付近の休憩用ベンチに腰掛けて二人の帰りを待っていた。
正直なところ、オレも加わってマリアのサポートをしてあげたい。
しかし今どこにいるのか分からない以上、無闇に探し回るのは悪手。 お互いがお互いを見つけられなくなる可能性もあるからな。
「スマホで連絡したいところだけど……それで集中力を削いじゃうのも申し訳ない。 もうちょっと待ってみることにしよう」
特にやることのなかったオレは、暇つぶしに周囲を飛び交っている低級霊・中級霊を手当たり次第に強制除霊。 まだこの店内に潜んでいるかもしれない悪魔が霊を取り込んで厄介なことにならないよう、マリアたちの見えないところで貢献することにした。
◆◇
あれからどのくらい経っただろう。
目に届く範囲の低級霊たちを除霊し尽くし、オレに怯えて身を隠しているであろう霊たちを目を細めて探していると、隣で同じく休憩していたおじいさんが、「やるなー、少年」と話しかけてきた。
「え」
「途中から見てたけど、センスあるね。 どこかのお寺か神社の息子さんかな?」
おじいさんの見た目ははどこにでもいる白髪混じりの六十代。
オレは驚きながらも「視えるんですか?」と尋ねると、おじいさんはゆっくりと首を縦に振った。
「うん視えるぞ。 私は個人で除霊等を生業にしている霊媒師なんだけど……結構有名だと思うのだが知らないかな?」
「すみません。 初耳です」
「そうか」
どうやらおじいさんは奥さんと買い物に来たらしいのだが、店内に入ってすぐに霊たちが騒いでいるのを察知。 霊たちの視線の先を見てみるとオレがいて、その力を間近で見てみようと思い立ったらしい。
「それで同じ質問になるんだけど、少年はどこかのお寺の……」
「あー、いえ。 一般家庭育ちです。 神社やお寺関係の親戚もいません」
ーー……家に狐の神様は住んでるけどな。
オレの答えを聞いたおじいさんは少し悔しげな表情で俯く。
一体どうしたのかと尋ねてみると、その内容はとても興味深いものとなっていた。
「恥ずかしながら私には霊媒師の知り合いがあまりいなくてね。 最近悩んでることがあって……お寺や神社さんと関係のある人だったら何か助言をもらえるかもと思って聞いてみたんだ」
「悩んでること……ですか?」
「うん。 キミはその……悪魔を見たことがあるかな?」
「え」
なんだ? 新鮮すぎる話題じゃないか。
おじいさんの話では、最近になって家族の性格が変わったり、明らかに霊ではない何かに悩まされて相談に来る人の数が増加しているという。
霊視して調べてみると、そのようになってしまった人のほとんどに人形サイズの悪魔が憑依していたとのこと。 中には中学生男子ほどの大きさをした悪魔もいて、霊と同じ除霊方法を試してみるも、まったく効かなくて困っている……というものだった。
「あ、オレも経験あるんで少しは分かりますよ。 オレも基本的には悪霊までなら簡単に除霊出来るんですけど、悪魔相手には何一つ効いてる気配なかったです」
「やっぱりそうか。 で、キミはその悪魔をどのようにして退治したんだ?」
「オレの場合は、アメリカからシスターの修行に来ている子にやってもらいました。 エクソシスト的なものでないと、悪魔には通用しないっぽいですよ」
「エクソシスト……悪魔祓いか。 なるほどその考えはなかった。 ということは、近隣の教会を尋ねて協力してくれるかつ、力の持つ者を探さなければいけないのか」
おじいさんはブツブツと何かを考え出し、ポケットからスマートフォンを取り出して近隣の教会を検索し始める。
やはり依頼でメールや電話を頻繁に使うからなのだろう。 おじいさんにしては、かなり器用な指さばきだ。
「この近辺で教会はココとソコ……そしてアソコか。 うん、ありがとう、参考になったよ!!」
活路を見出したおじいさんが、にこやかな笑みを浮かべながらオレの肩に手を乗せる。
その後、機嫌をよくしたのか、「少年も既に知ってるかもしれないけど、お礼に私からも悪魔について分かった情報を教えるね!」と、口早にそれらについて話してくれたのだった。
「まず悪魔は必ずしも取り憑いている人の身体の外に出ているわけではないんだ。 彼らは力を持たない間、人の体内で大きくなって、ようやく外へと出てくる。 それから物事を悪い方向へと持っていって対象を不幸にし、その負のエネルギーを溜め込んでいき、更に大きくなっていくんだ」
「えええ、そうだったんですか!?」
これはかなり役立つ知識……あとでマリアにも教えてやらないと。
ちなみに悪魔が体内でも体外でも、憑いている人に表れやすい症状があるらしく、それが性格がかなりマイナスに落ち込むか、その逆の攻撃的になるというもの。
元からそういう性格の人だと判別はつかないが、普段が明るかったり誠実だった人が、急にそういう風に変わってしまうと、悪魔に取り憑かれている可能性が非常に高いらしい。
「よ、よくそこまで分かりましたね」
「恥ずかしながら私の孫が標的にされちゃってね。 ある日から急に性格が攻撃的になって……少し離れたところからずっと観察した結果だよ」
なるほど。 冷静に物事を進められているあたり、流石はプロ……生業にしてるだけのことはある。
ちなみにそのお孫さんは、今もなお悪魔が取り憑いているため幼稚園を休ませているとのこと。 おじいさんは後日、そのお孫さんを教会へ連れて行ってみることを付け加えた。
「まずはお孫さんですか。 一発目って何が起こるか分かりませんし、怖くないですか?」
「そうだね。 でも孫に憑いてる悪魔を視れない神父さんは信用出来ないからね」
「あー、なるほど。 というよりも、そのお孫さんが性格変わったのって、霊の仕業とかではないんですか? 悪霊とかも取り憑いたら性格変わっちゃうじゃないですか」
「そう。 だからまずは除霊を試してみて、反応がないことでようやく悪魔だって分かるのさ」
「そういうことですか」
おじいさんが知ってる悪魔の情報はそれで全部とのことで、おじいさんは早く買い物を終わらせて教会に向かいたいのか、「じゃあ妻の買い物を手伝ってくるよ」とその場を後へ。
するとほぼそれと入れ替わるように、オレの前に一人の少女がやってきた。
『ねぇねぇ、お兄さん』
「ん」
迷子か、新手の声かけかと思ったオレは不信感マックスの表情で顔を上げる。
しかし目の前の少女を見るなり、オレの体は驚きのあまり硬直した。
これは……いや、こいつは何者だ?
中学生くらいの身長で、青く長い髪。 背中には先ほどの悪魔のものと似ている蝙蝠の羽を生やしており、その手には少女には似つかわしくない……とてつもなく大きな鎌が握られている。
ていうか、肌の露出が多すぎないか? 言ってみれば、上はエロビキニで下はミニスカートって感じだ。
「え、お前は何……悪魔なのか?」
足が地面から離れていて、羽を動かしていることから人ではないことは明らかだ。
ーー……じゃないと、この格好で公共の場にいるとか、ただの痴女だもんな。
試しに強制除霊を撃ってみるも、『今、何かした?』といった顔で首を傾げている。
「ーー……マジかよ」
愛ちゃんやマリアの心配をしてる以前に、オレが一番危険じゃないか。
このまますぐに立ち上がり逃げることも出来るが、そうした場合、この女が愛ちゃんたちのもとへ行ってしまうことも考えられる。
どうにかして、唯一悪魔に対抗できるマリアが戻ってくるまで時間を稼がねば。
オレは効かないとは分かりながらも、目の前の女に向けて強制除霊を連発。
しかしやはり女はそんなオレの攻撃に怯む様子もなく、鎌を後ろに回して持ちながら、ゆっくりとオレに顔を近づけてきたのだった。
『ねね、お兄さんがこの辺の霊を始末したの? あと、数は少ないけど悪魔もいたと思うんだよね。 そいつらもお兄さんが?』
「え」
『あー、しらばっくれるの? じゃあ無理矢理にでも口を割らせちゃおっかなー』
え、なに?
オレ、報復されるの?
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