72 悪魔を狩る者①
七十二話 悪魔を狩る者①
学校が終わり、全速力で待ち合わせ場所でもある駅前へ行くと、すでに愛ちゃんとマリアは到着済み。
オレに気づいた二人が小走りで駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、きたー!!」
「良樹、おかえり」
家に着いたわけじゃないから『おかえり』ではないと思うのだが……まぁ今のオレにとって、二人が心のホームみたいなところもあるし、あながち間違いではないか。
オレは抱きついてきた愛ちゃんの頭を撫でながら、マリアに「ただいま」と返し、早速携帯ショップへと向かうことにした。
「さっきまでね、マリアちゃんと、どんなスマホにするか選んでたんだよ!」
手を繋いでいた愛ちゃんが楽しそうに話を振ってくる。
「え、そうなの?」
「うん! えっとね……これ!」
愛ちゃん……なんて気が利くんだ。
というよりも、こうして選んでくれてたんだったらオレが悩む必要なかったな。
愛ちゃんがスマートフォンの画面に、マリアの決めたそれを表示させてオレに見せてくる。
「んー、どれどれ……って、え?」
見てみると、それは最新ではなく一個手前の型落ち機種。
もしかして遠慮しているのか?
「な、なぁマリア」
「うん?」
オレはマリアにどうして最新機種にしないのか聞いてみることに。
しかし返ってきた答えは実にマリアらしい……オレも納得するものとなっていた。
「そっちの方が、カメラの画質が上って書いてた。 新しいのは電池が長持ちらしいけど、マリア、そこまで長くスマホいじらない」
「あー、なるほどな」
確かにマリアの性格から見ても、ヤンキー女子たちみたいに四六時中スマートフォンを弄っているとは思えない。
店に入ると流石は型落ち機種なだけあって、在庫はたくさんあるとのこと。
「よかったなマリア」
「うん」
オレは早速マリアと共にスマートフォンの色等を選び、契約を進めていった。
「ありがとう良樹、マリア嬉しい」
契約完了後、マリアは初めてのマイスマートフォンを両手で大事そうに握りしめる。
「よかったよかった」
アドレスの登録も終わったし、もうここで出来ることは何もない。
でもどうせここまで来たんだ。 せっかくだし買い物もして帰ろう。
オレは「じゃあ買い物行こっか」と近くのスーパーを指差す。
するとどうしたのだろう。 愛ちゃんは「うん!」とご機嫌で手を握ってついてきたのだが、マリアが隣に来ない。
「ん?」
気になり振り返ってみると、マリアがこちらにスマートフォンのカメラを向けていることに気づいた。
「どうしたマリア」
「マリア、良樹と愛の、写真撮る」
「え」
「なんで?」
突然のマリアの発言に困惑するオレと愛ちゃん。
互いに顔を合わせて首を傾げていると、そんなオレたちを見たマリアがスマートフォン越しに顔を可愛く覗かせてきた。
「マリア?」
「マリアちゃん?」
「愛と良樹の写真撮って、それ、待ち受け画面にする」
おそらく今の発言は、マリアの心からの言葉。
その証拠にマリアは恥ずかしそうに顔を赤らめ、「じゃあ撮る」と再度オレたちにカメラを向けた。
か、可愛すぎるーーーー!!!!!
◆◇
マリアがスマートフォンを買う前に言っていた発言……『マリア、そこまで長くスマホ弄らない』は本当にその通りで、買い物をしている間、マリアはあれから一切スマートフォンを触っておらず。
いつも通りのテンションで「良樹、もう家にみぃの好きなコーラ、無くなってた」などと、オレの買い物の手伝いをしてくれていた。
「あ、確かにそうだったな。 コーラがないと御白のやつ、本当ブチギレるからな」
愛ちゃんもオレが「あ、ドレッシング忘れてた」と漏らすと走って取りに行ってくれるし、今のオレはなんて幸せな時間を過ごしているんだ。
オレは天にも昇るような幸福感に包まれながら、二人の妹とともに買い物を続ける。 しかしそれはお菓子売り場に入ったと同時……オレたち三人は目の前に広がっていた光景に思わず足を止めた。
「え」
「お、お兄ちゃん」
「ーー……」
オレたちよりも先にそこにいたのは、中年のおばさんと、その娘らしき小学校低学年くらいの女の子。
おばさんは何があったかは分からないが娘に対して激昂しており、まぁその程度なら関わらないように、静かにその場を去ればいいだけの話なのだが、問題はそのおばさんの背中。
そこには大体1.5リットルペットボトルほどの大きさの黒い何かが浮いていて、背中からは蝙蝠のような翼を生やしていた。
あまり似てはないけど、既視感バリバリのその姿。
オレはできれば勘違いであってくれと祈りながら、マリアに尋ねてみることにする。
「な、なぁマリア、あれって……」
「悪魔」
マリアは視線を悪魔から離さず、小さく頷く。
「ーー……マジか」
「マジ。 でもあの程度ならマリアの霊力で十分。 今から悪魔祓い、する」
「ここでか」
「大丈夫。 他の人たちには気づかれないようにやる」
そう言うとマリアは中年おばさんを中心に白い光の円を展開。 それは瞬く間に眩く輝きだし、おばさんに憑いていた悪魔は苦しみの雄叫びをあげながら消えていった。
「おい、一瞬かよ」
悪魔があんなに簡単に。
でもこれを見てからだと、あの教会での巨大な悪魔がいかに強敵だったかってことが改めて分かるよな。
オレがマリアの力に感心していると、マリアが「良樹」とオレの腕を引っ張ってくる。
「ん、どうした?」
「ちょっと周りが心配になった。 クルッと一周、見てきていい?」
「いいけど……仮に悪魔がいたら、悪魔祓いするんだよな」
「する」
マリアのシスター精神が刺激されたのか、マリアは真剣な表情でコクリと頷く。
「そうか……でもあまり無茶するなよ。 やばいってなったらすぐに逃げること。 いいか」
「分かった。 約束する」
「よし! じゃあ頑張ってこい! オレは……そうだな、お会計済ませて出口近くの椅子に座って待ってるから」
「お兄ちゃん、私も行きたい! 私は悪魔に何もできないけど、見つけるのだけは手伝えると思うから!」
「いいよ。 愛ちゃんも無理しないでね」
「うん!」
まぁ最悪何かあったとしても、前の教会の時みたいにオレの霊力をマリアに注ぎ込んだら大体の悪魔は一発だろ。
マリアは愛ちゃんと顔を見合わせ頷くと、早速悪魔の捜索へ。 オレはそんな二人を見送った後、なんだかんだで心配だったため早めに会計を終わらせるべくレジへと向かった。
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