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71 スマホが引き起こす不運と幸運


 七十一話  スマホが引き起こす不運と幸運



 先週の土日はガチで怒涛どとうだったな。


 ヤンキー女子たちのいざこざに巻き込まれ、その後すぐに難易度・地獄アビス級の死霊との遭遇。

 思い出すだけで若干の動悸どうきが未だにするが、これくらいで抑えられたのはやはり愛ちゃんマリア、石井さんの魅力に溢れた水着姿や、最終的には女の子だらけの部屋で……女の子の香りで癒されながら眠れたというのもあるのだろう。 

 


「でへ……でへへへ」



 一泊二日の海旅行を楽しんだ翌日の朝、オレは一人ニヤつきながら愛ちゃんとマリア、そして一旦居候することになった二人の担任・高槻さんを含めた四人分の朝食を作っていた。

 後ろからは一夜明けても興奮が冷め止まない愛ちゃんの、高槻さんに海旅行での思い出話を楽しそうに語る声が聞こえてくる。



「それでね、お兄ちゃん、ヤンキーを倒したんだって!! 金髪のおねーちゃんたちが、お兄ちゃんのこと褒めてたんだよ!!」


「すごいねー。 でも愛ちゃん、それ昨日も聞いたよ?」


「だって、お兄ちゃんが褒められてるの、嬉しかったんだもんー!!」



 実際は殴られて吹っ飛ばされて、それでスッキリされただけなんだけどな。

 でも、そこまで絶賛してくれるとなんか照れ臭いぜ。



 朝食を作り終えて皿に盛り付けていると、マリアが珍しくお手伝いにやってくる。



「お、珍しいなマリア」


「うん。 マリア今、良いことをして、とくを積んでる」


「徳……そうだな。 何かいいことがあるかもな」


「うん」



 ーー……なんだ、マリアのやつ妙にソワソワしてるというか、なんというか。



 チラチラとオレを見てきていたため、オレは何かがあると判断。

 一応周りには配慮して小声で「どうしたんだ」と聞いてみると、マリアは静かにオレの目の前へ……そのまま上目遣いで見上げてきた。



「ん、なんだマリア」


「今度の土曜か日曜、どっちか空けといてほしい」



 マリアがオレの指先を、その小さな手でちょこんと握る。



「うん? いいけどなんだ? どこか行きたいところでもあるのか?」


「ある。 マリア、スマホ欲しくなった」



 スマホ?



 マリアが愛ちゃんの持っているスマホを羨ましそうに見つめる。



「スマホな。 いいけどどうしたんだ? つい最近まではオレが勧めてもマリア、断ってたのに」


「ーー……心境の変化」


「なんだそれ。 まぁ、うん。 じゃあせっかくだし、土日まで待たなくても今日の夕方買いに行くか」


「いいの?」


「あぁ。 欲しいんだろ?」


「うん……うん、マリア、欲しい」



 おそらくは海で楽しそうに写真や動画を撮っている愛ちゃんや石井さんを見て、考えが変わったんだろうな。




「良樹、ありがとう」


「オレからしても、すぐにマリアと連絡を取れるようになるのはありがたいしな」



 こうしてオレは放課後、愛ちゃんマリアとともにマリアのスマートフォンを契約しに行くことに。

 とはいえ一旦家に帰ってからまた出るのは疲れるからな。 オレが学校を終わり次第愛ちゃんに連絡をして、携帯ショップのある駅前で待ち合わせることにした。



「良樹、学校終わるの、何時?」


「んー。 今日は四時には終わるはずだから……四時半くらいに駅前着くかなー」


「わかった! マリア、それまでに宿題終わらせて、夜はスマホを慣れるのに使う!」



 マリア……基本的に無表情の子がこうして喜んでるところを見ると、ギャップで余計に可愛く思ってしまうよな。

 オレはホームルームが終わり次第ダッシュで向かうことを決意。 学校にいる間、ずっと小学生に人気のスマートフォン機種を調べていたのだった。



「加藤くん、朝からずっとスマホでなに見てるの?」



 昼休みも変わらず機種について調べていると、石井さんが横から顔を覗かせてくる。



「あーうん。 実は今日マリアのスマホ買いに行くんだけど……どんなのがいいのかなって」


「え、そうなんだ! その時はさ、私の連絡先もマリアちゃんに教えてもらえるかな! 愛ちゃんとはたまにやりとりしてるんだけど、マリアちゃんとももっとお話ししたいて思ってたんだー」



 嬉しそうに小さく跳ねる石井さんを見ながらも、オレの視線は顔より少し下。



 制服を着てても結構大きめなのに、この下には更なるエロスが隠れているんだよな。

 大きさもさることながら、その柔らかさも……



 でへへ。



 オレが鼻の下を伸ばしていると、オレのスマートフォンに誰からかのメールを受信。

 それはヤンキー女子の一人・最近退院した黒沢さんからで、何気なく開いたオレだったのだが……オレはこの場で開いてしまったことを後悔することになる。



【受信・黒沢さん】一昨日のお礼も兼ねて。 ヌキヌキしなー。



 ーー……ぬきぬき? なにを言ってるんだあのヤンキー女は。



 心の中で突っ込んでいると、そのメールに画像が添付されていることに気づく。

 どうせホラー画像とかでオレを驚かそうとしてるつもりなのだろうが……残念だったな。 オレは実物を見てる分、耐性がその辺の奴よりも遥かにあるんだよ。


 

 さてさて、どんなホラー画像かな? 目の大きく映った系か? それともグロい系?



 オレはどんなリアクションをしてやろうかなと考えながら添付ファイルをタップ。

 するとどうだろう、そこには一昨日見たばかりの水着に身を包んだ、ヤンキー女子三人の海での写真が画面全体に映し出される。



 おお、おおおおお!!! 胸部が強調されていて……って、危ない危ない。 目の前に石井さんがいるんだった。



 オレはすぐさまスマートフォンの電源を切って石井さんとの話に戻る。

 しかし……そう、画像を隠し通すことには成功したオレだったのだが、あんな水着姿を見て性欲が上がらないわけがない。 オレの体の一部の興奮はもちろん隠し通すことができず。

 それに気づいた石井さんは顔を赤らめ目を逸らし、小さな声でオレに囁いた。



「えっち。 マリアちゃんのスマホは信じるけど、加藤くん……実はえっちな画像とか見てたんでしょ」


「なっ……違うよ!」


「そうなの? でも今スマホで何か見てからそうなったよね。 えっちな画像じゃなかったら、なに見てたの?」


「そ、それはその……水着の写真を」


「も、もしかして愛ちゃんたちの水着姿で!?」



 石井さんが少し引き気味にオレから一歩距離をとる。



「そんなわけないでしょ!! 確かに愛ちゃんやマリアとお風呂に入った時は、不覚にもって場面はあったけど……でもそれくらいで、別に小学生の水着姿くらいでオレは……!!」


「じゃ、じゃあ私の写真でってこと!?」


「えええええええええええええ!?!?!?」



 石井さんが胸部を両腕で必死に隠そうとしながら、恥ずかしそうに体をよじる。

 別に石井さんがそのような仕草をしてたとて、オレは結構小さめに話しているため周りから見たら『なんのこっちゃ』状態なのだが、大体のことが理解できるヤンキー女子たちは違う。 陽キャの佐々木さんと退院した黒沢さんは、少し遠くからオレを見ながら大爆笑しているではないか。



「だっはははは!! 見てよ奈々、見た瞬間にバッキーンじゃん!!」

「あははははは!! どんだけ溜まってんのって!!」



 くっそおおおおお!!! このヤンキー女子どもがああああああああ!!!

 海の一件で距離がもっと縮まったと思ったのに、結局はオレをイジるのかよ!!!



 これ以上笑い者にされたくないオレは下半身を誰にも見られないよう体の向きを若干窓側へ。

 その後メールで石井さんに、誤解である旨を必死に熱弁していたのであった。



【送信・石井さん】ほんとに、断じて違うから!! 実際オレが持ってる石井さんの写真って、帰りの電車で石井さんがくれた……あの夜の砂浜でのツーショット写真だけだし!!


【受信・石井さん】え、そうなの? 水着写真ないんだ。


【送信・石井さん】ないよ!! 証拠として、画像フォルダ見てくれてもいいくらいだよ!!


【受信・石井さん】そうなんだ。 それはちょっと寂しいかも。 何枚か愛ちゃんに撮ってもらったのとかあるんだけど、いる?


【送信・石井さん】ください。


【受信・石井さん】えっち。



 うわああああああ!!!! もっと興奮してきた……次の授業までに治めろオレええええええええ!!!!!



お読みいただきましてありがとうございます!!

創作の励みになりますので、感想や評価・ブクマ・レビュー・いいね等、お待ちしておりますー!!

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