69 特別編・愛とマリアの苦難②(マリアVER)
六十九話 特別編・愛とマリアの苦難②(マリアVER)
突然話しかけてきて、かつ小学生には到底理解できないような戦争の話を勝手に語り出した老婆。
これ以上その場にいることで脳が爆発してしまうと感じたマリアはなんとかそこからの避難に成功。 面倒見のいい愛に老婆を任せ、食堂を出た先の売店近くでホッと胸を撫で下ろしていた。
「むぅ……。 教会の時もいたけど、マリア、お年寄りの長い話、苦手。 あの人たち、全部こっちが分かってると思って話してくる」
しばらく壁にもたれかかって脳を冷却させていたマリアであったが、ここでとある事に気づく。
いつ、愛は話を切り上げてくるのだろう。
「ーー……そういえば愛に、『途中で話を終わらせてもいい』ってアドバイスしたけど、タイミングを伝えるの、忘れてた」
スマートフォン等があるなら今すぐにでも愛にその件について送りたいところなのだが、未だマリアは自分用のスマートフォンを持ってはおらず。
ただでさえ居候させてもらっている身で、スマートフォンまで用意してもらうのは流石に申し訳ない。 そう言った経緯もあり、良樹からの『スマホ持とうよ』を断っていたのだが……
「良樹はあぁ言ってくれてたけど、言葉に甘えたほうがよかった?」
今、後悔したとて、すぐにスマートフォンが手に入るわけでもない。
ーー……夏休みになったら良樹にお願いしてみよう。
マリアは近々良樹にスマートフォンをねだる事を決意。
その後、愛のことが心配になったマリアは再び食堂へ。 愛の様子を観察しに向かった。
◆◇
「あれは……ダメなやつ。 愛の頭の上、お星様が、クルクルしてる」
愛や老婆に気づかれないようそっと物陰から覗き込むと、愛はすでに混乱状態。 老婆の弾丸トークを真正面で浴びながら、体が左右に大きく揺れている。
これは流石に教会で対応の……少しだけ慣れた自分が助けに入った方がいいだろう。
そう感じたマリアは愛たちの方へと一歩足を踏み出したのだが……一体いつ移動していたのだろうか。
「!!」
背後に気配を感じたマリアが振り返ると、そこにいたのは朝食中気になっていた緑色の厚着をしている男の霊。
マリアは即座に除霊の体勢に入るも、男はマリアの動きに素早く反応。 背中に背負っていたらしき銃を取り出し、その先……銃口をマリアの額に突きつけた。
「ーー……ガン?」
マリアは自身に突きつけられた銃越しに、男の顔を静かに見据える。
普通なら恐怖に慄き腰を抜かすところなのだろうが……所詮は霊が所持している武器。 当たることはない。
男が何かを話そうと口を開きかけるもマリアはそれを一切無視。
足下に白く光る円を出現させて、まずはその範囲内にいる男の動きを制限させる。
『なっ……!! なんだ、動けん……、それにこの感覚は!!』
「マリアの力。 マリア、あなたは悪い霊ではないと思ってたのに……まだまだ修行が足りない」
マリアは首を左右に振りながら、そのまま捕縛モードから除霊モードへと移行。
力をぐっと込めて男を見上げたのだが、これまたおかしな霊だ。 男は動けないながらも銃を離し、『申し訳ありませんでした降伏します……なので命だけは助けてください!!』と高らかに叫んだ。
「無理。 あなたはマリアを襲おうとした。 信じられない」
『誤認であります!! 私は貴殿に話しかけようとしただけで、全くもって敵意はございません!!』
「ーー……でもガン、突きつけた」
「あれは条件反射……訓練で学んだものがつい出てしまっただけであります!」
「ほんと?」
「誠でございます!!」
若干の疑いを残しながらも捕縛モードを解いてみると、男は背筋を伸ばしてマリアに敬礼。 自身の所属していた団体なのかよく分からない名前を長々と話し始める。
『感謝致しますマリア殿!! 私は海上特別攻撃……』
「マリア、長い日本語分からない。 名前だけでいい」
『承知いたしました!! 私はマサルと申します!!』
「そう。 それでなんでマリアの方に来た? マリア、忙しいのに」
『はっ! 失礼いたしました!! 先ほどまで私の妹と楽しげに話していた為、どのようなことを話されていたのかと気になってしまいまして!!』
「ーー……妹?」
聞き返してみると、男は視線を老婆の方へ。
その視線たるやかなりの慈愛に満ち溢れており、それを見たマリアはすぐに彼があの老婆の兄だということを理解。 少し前に聞いた老婆の話を思い出し、確認のため、一応聞いてみる事にした。
「お兄さん、戦争の人?」
『そうであります! 私は海上特別攻撃……』
「それはもういい。 マリア、長い言葉苦手。 どうせ言われたところでチンプンカンプン」
『し、失礼いたしました!』
「あと、その敬語もいい。 マリアの方が年下。 敬語を使うべきはマリアだけど、マリア、敬語苦手」
『あ、あああああ!!! 重ね重ね申し訳ございません!! 私、マリア殿のような幼子と話すのは、久方ぶりのため……』
男が焦りながら謝罪をしてくる中、マリアの脳内で一つの答えが浮かび上がる。
もしかしてこの人、霊の視えるマリアに、助けてほしいことが……ある?
愛も視て話せるけど、あのおばあちゃんと話してるから……わざわざマリアに頼みにきた?
マリアの頭には、少し前に男が話していた『妹と話していたため、内容が気になっただけ』という内容はすでにそこに在らず。
男が自分を頼ってきたと勘違いしたマリアは無表情のまま彼を見上げ……任せろと言わんばかりに親指を立てたのであった。
『な、なん……何かな、マリアさん』
「任せて。 マリアが救ってあげる」
『ーー……え?』
お読みいただきましてありがとうございます!!!
励みになりますので、感想や評価・ブクマ・レビュー、いいね等、お待ちしております!!!




