67 海旅行は波乱万丈!?⑩【挿絵有】
六十七話 海旅行は波乱万丈!?⑩
オレが珍しく頑張ったのに……あれ、無駄だったじゃねーか。
圧倒的救世主のようなタイミングで現れた御白は、女の霊……死霊の周囲に眷属を多数配置して動きを封じる。
『良樹、さっさと終わらせるぞ。 よく見ておけ』
御白は振り返りながらオレにそう言うと、身動きの取れない死霊を瞬く間に除霊。 何事もなかったかのように『終わったのじゃー』と大きく背伸びをした。
ーー……え。
「えええええええ!?!? もう終わりかよおおおおおおお!!!」
やはり御白の方が死霊よりも圧倒的に格が上だったからなのか、御白のどこを見てみても呪詛返しされた形跡はない。
オレはあまりの呆気なさに自然と笑いが込み上げ、「ぷっ」と口から息が漏れた。
『なんじゃ良樹。 絶体絶命だった怖さからおかしくなったか?』
「いや、もう逆におかしくてな。 御白……お前どんだけ強いんだよ」
『そりゃあ当たり前じゃろうて。 なんたって妾は神……霊の中でも頂点に位置する者じゃぞ?』
「はは、そうだったな。 いやでも助かったよありがとう。 このままだったらオレ、ガチで死ぬところだった」
未だ脚の震えていたオレがすぐに立ち上がれないでいると、それを察した御白はオレの緊張を解すために目の前に座り込む。 そのまま雑談を開始した。
『では、しばし妾が話をしてやるかの』
「話?」
『うむ。 先ほどの死霊の件と……呪詛返しの件じゃ』
◆◇
最初に御白が語ったのは、オレは受けた呪詛返しの話。
実は御白、予め眷属の一匹をオレに仕込んでいて、その加護のおかげで死霊から跳ね返ってきた呪詛返しの影響も、心臓の違和感や頭痛で済んだとのこと。
もしこれが眷属無しの状態だったら、オレの心臓はあの一撃で止まっていたらしい。
「おいおい、マジかよ」
『そうじゃ。 感謝してくれよ?』
その後死霊の話に移ったのだが、あの死霊の正体はかなり昔に婚約者に別れを切り出され、絶望の果てに海に身投げをした女。 それが悪霊化し、裏切った彼を長い年月恨み続けた結果、とうとう死霊化してしまったとのこと。
オレが白いロングワンピースだと思っていた衣装も、元はウェディングドレスだったことが御白から知らされた。
「なんかそういう話を聞くと少しは同情するけど……なんかあいつ、一人の大学生にばかり執着してたんだよ」
『それは簡単じゃ。 その者に、彼女を裏切った男の血が流れておったからじゃ』
「え」
御白曰く、その女は裏切った男を恨みつつも、いずれ来るであろう子孫をずっと待ち続けていたとのこと。 ようやく現れた彼を見つけて恨みを晴らそうとしたのだが、不運にもオレに邪魔され……そりゃあ執着もするか。
色恋の恨みって怖えな。
オレが生まれて初めて恋愛してこなくてよかったなどと考えていると、ふと先ほどの御白の言葉に違和感というか……疑問点が浮かび上がる。
「ていうか、なんでそこまで分かるんだ? さっきは御白、一瞬で倒してたよな」
『それはあれじゃ。 簡単に言うと妾が神じゃからじゃ』
御白がフンッと鼻息を鳴らしながら無い胸を思い切り張る。
「えええ、それはさすがに簡単すぎるだろ」
『仕方ないじゃろう、言語で説明する事がほぼ不可能なのじゃからな! では仮にお主がその股間にぶら下げておるものを蹴られた時の痛みを、女子にどう説明する? 内面的なものは言葉で表す事が難しい……違った解釈を持たれても困るのじゃ!』
「んんん、なるほど?」
なんか強引に話題を終わらせられたような感じもするが。
もしかしてあれか? 人間には教えることのできない……禁則事項的なやつなのか?
話を濁された事で余計に興味を持ってしまったオレだったのだが、今回は御白のおかげで助かったからな。 オレはそれ以降一度も話をぶり返さないよう、注意を払いながら御白に何度も感謝の言葉を述べたのだった。
◆◇
『さて、もうお主の脚の震えも止まったかの』
ひとしきり話を終えた御白が旅館の方へ視線を向けながらゆっくりと立ち上がる。
「あぁ、おかげさまでな」
『ゆづきにはマリアから部屋でジッとしてるよう伝えておる。 今も心配して起きてるはずじゃから、さっさと戻って安心させてやれ』
「なんだ、マリア起きたのか」
オレが驚きながら聞き返すと、御白は手で口元を覆いながら『くくく』と笑い出す。
「な、なんだよ。 なんでそんなに笑って……」
『実はの、マリアのやつ……おねしょで目覚めたのじゃ』
「おねしょ……ええええええ!?!?!?」
どうやら既に布団など代えてくれたらしく、今は元通りの室内とのこと。
御白から、くれぐれもこの件は内密にしておくよう釘を打たれる。
『頼むぞ。 妾はマリアとは今後も良好な関係を築いていたいからな』
「わ、わかったよ」
なんかマリアのおかげで余計に先程までの恐怖心が消え去ったぜ。
『よし、では帰るぞ良樹』
「おう」
御白なりの配慮なのだろう。
御白はオレが旅館の敷地内に入るまでの間、優しく微笑みながら浜辺からオレの後ろ姿を見守ってくれていたのであった。
いつもはワガママで、たまにうるさいヤツだけど……やっぱり神様なんだな。
今回のことで改めて御白の偉大さに気付かされたぜ。
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