66 海旅行は波乱万丈!?⑨
六十六話 海旅行は波乱万丈!?⑨
『お前……ハ……』
どれだけあの大学生の男に執着があったというんだ。
ようやくオレに気づいた女の霊……死霊はボロボロの白いロングワンピースをなびかせながらゆっくりオレに視線を向けた。
「ーー……っ!」
死霊の顔を目にした瞬間、オレの背筋が一気に凍る。
なんというおぞましい顔。
皮膚はドロドロにただれ、頬からは砕けた骨が露出。 眼球はなく、底の知れない漆黒の闇がジッとオレを見据える。
『お前……ハ……邪魔を……した』
死霊がゆっくりとオレへと手を伸ばす。
このままでは……今度はオレが先ほどの大学生の二の舞になりかねない。
オレは先ほどの呪詛返しの影響……心臓の違和感を抱えながらも力を振り絞って立ち上がり、何かいい案を思いつくまでひたすら逃げることに。
重い砂浜に足を取られながらも必死に走り出したのだが、ここでまたしても想定外の事態が起こった。
「加藤くん、大丈夫!?」
「ーー……!」
オレが帰ってこないことを心配した石井さんが、オレの無事を確認しに砂浜まで戻ってきてしまったのだ。
「男の人たちの姿が見えないけど……もしかして、さっきの幽霊倒したの!?」
「ちょっ、石井さ……っ!!」
そうだ、石井さんは今オレに触れていない……アイツの姿が視えていないんだ。
石井さんの声が耳に入った死霊は進行方向を石井さんの方へと変更する。
『あの人の……場所、知ってる……ノカ。 教えろ……』
ーー……くそっ!!!
先ほどよりも歩行速度が上がっていたため、オレは全速力で石井さんのもとへ駆ける。
その後石井さんを守るように死霊の前に立つと、強制除霊を撃つか撃たないかは別として、牽制の意味も込めて右手をかざした。
「か、加藤くん?」
「石井さん……実はまだあの霊、いるんだよね」
「えっ、じゃああの大学生たちは?」
「あれはオレがなんとか頑張って逃げてもらったんだけど……いや、そんなこと今はどうでもいいか」
今オレが一番優先するべきは石井さんの安全だ。
石井さんはオレと違って霊が視えない。 ということはオレ以上に対処のしようがない……ということなのだ。
どうして、こうも上手く事が進まないのだろうか。
「はぁ、これがさっきの大学生たちだったら、次こそ自己責任……因果応報ってことにして絶対に逃げてたのになぁ」
「加藤……くん?」
「まったく、愛ちゃんにしろマリアにしろ、石井さんにしろ、可愛いってのはズルいよね。 自分の危険を分かってながらも助けたいって思うんだから」
「え、それってどういう……」
可愛いは正義……本当にその通りだ。
そのためならもう一発くらい強制除霊を撃ち込んで、再びオレにヘイトを向けさせてもいいとすら思ってしまう。
よし、やるか。
最悪それで死んでしまったとしたら、そういや龍神が生まれ変わり……輪廻転生の番人的なポジションにいたって言ってたような気がするし、その時にはもう一度この体に魂を戻してくれって頼んでみるというのはどうだろう。
その時は……そうだな。 アイツも結構なロリコンっぽいし、女子小学生が履いているパンツ……愛ちゃんかマリアの着用済みパンツを交渉材料にすれば交渉成功の確率は上がるかもしれない。
「ーー……いや、そんな都合のいい神様がいるわけねぇか」
オレは自身の甘い考えにツッコミを入れ、小さく息を吐いた。
「加藤くん? さっきから何を独り言を言って……」
「石井さん。 石井さんはオレが合図をしたらすぐにここから離れて……そうだな、出来ることなら愛ちゃんやマリアを起こして、一緒に家に帰っててくれない?」
「え、何をいきなり……。 それに、加藤くんは……?」
石井さんが尋ねてこようとするも、それよりも死霊が早く行動に出る。
死霊はオレではなく石井さんに向けて手を伸ばしたのだが……残念だったな。 オレをどうにかしない限りは、お前の邪魔をし続けるぞ。
「石井さん!! 逃げて!!」
オレは合図を送ると同時に強制除霊を死霊へ向けて撃ち込んだ。
◆◇
『ーー……』
強制除霊の甲斐あってか死霊の動きは一瞬止まり、再び奴は狙いをオレへと変更。
そして避けては通れない新たな呪詛返しの影響がオレを襲った。
「ーー……うおっ」
今度は頭痛……目を開けていることすら困難な、今まで経験してきた頭痛の中で間違いなく一番の激痛だ。
オレはこんなに命を賭けて攻撃しているのに、この死霊は……悪魔の時と違って、ダメージまったく無しかよ。
あまりの激痛に意識が飛びそうになるも、オレはなんとか踏ん張りながら石井さんの足音が消えるのを待つ。
しかし足音が消える前に全身の力が抜けてしまい、そんなオレに向けて死霊はニタリと笑ってゆっくりと手を伸ばしてきた。
『お前が死ねば……次は、アノ女だ』
あぁ、これは終わったわ。
こんなことになるなら愛ちゃんやマリアのパンツを嗅いだり……石井さんのあの豊満ボディをもっと強引にでも堪能しておけばよかったぜ。
少しも動けなくなっていたオレは多くのことを後悔しながら目を閉じる。
しかし何故だろう、とっくに足を掴まれて引きづられていてもおかしくない時間が経っているはずなのに、あれから死霊がオレに触れてきていないことに違和感を覚えた。
ん……どういうことだ?
気になったオレは重たい瞼を必死に開けて状況を確認することに。
すると……なんという展開、なんという奇跡。
「!!!」
オレの視界に映っていたのは醜悪な死霊の姿ではなく、最近かなり見慣れたフサフサした狐の尻尾。
「え……、もしかして」
『まったく、早く妾に助けを求めればいいものを。 何を一人で格好つけておるのじゃ』
絶望的な状況だった心に一筋の光が差し込める。
視線を上げると、狐耳の生えた金髪のボブヘアーの少女が呆れた顔でこちらを振り返っていた。
「ま、まさか御白……御白なのか」
『おいおい何を寝ぼけておる。 こんな愛くるしい姿、妾以外におるわけがなかろうて』
おいおい、マジでこれ、救世主じゃねぇか。
オレを守るように死霊の前に立ちはだかっていたのは、何を隠そう御白神社の神・御白。
御白の奥を覗き込むと、大量の彼女の眷属が死霊の周囲を完全に包囲していた。
『さて、良樹よ』
「え」
『さっさと終わらせるぞ。 よく見ておけ』
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