65 海旅行は波乱万丈!?⑧
六十五話 海旅行は波乱万丈!?⑧
まったく……本当にどれだけオレの邪魔をすれば気が済むんだ、忌まわしき大学生グループたちよ。
オレが人生で初めての告白をしようとしたタイミングで聞こえてきたのは、恐怖の感情が入り混じった彼らの叫び声。
それを聞いた石井さんは「どうしたのかな」と声のした方へと目を凝らした。
「別に大したことじゃないと思うよ」
「そうなの?」
「うん。 多分だけど、近所に住む強面の漁師さんたちに怒られた……とか、そんな感じじゃないのかな」
オレがそう予想しながら笑っていると、逃げてきているのだろうか……こっちに向かって全力で走ってきている大学生一人の姿を発見する。
これ以上迷惑をかけられるのは、まっぴらゴメンだぜ。
オレはすぐさま石井さんの手を取るとその場を後に。 石で出来た階段を上がり、出来るだけ彼らに見つからないよう、アスファルトの道路の上を背を低くしながら旅館を目指した。
「ね、ねぇ加藤くん。 どうして私たち、隠れる必要があるの? もう殴られる心配ないんでしょ?」
オレの行動に疑問を抱いた石井さんが、オレの袖を引っ張りながら尋ねてくる。
「いや分からないよ。 漁師さんに怒られた腹いせってのもあり得るからね」
オレはどれだけヤンキーのような、見た目が派手な奴らを信じられないかを熱弁。
過去にオレがそういった連中にされてきたことなどを例にあげ、最後にあそこにいた大学生グループは男ばかりだったことから、石井さんにもしものことがあったら気が気ではないことを付け加えた。
そう説明するとどうだろう。
石井さんは「加藤くん……あ、ありがと」と照れくさそうに微笑みながら横にいたオレに体を寄り添ってくるではないか。
「い、石井さん!? ど、どどどどうしたの!」
「だってあまり加藤くんと距離を空けない方が見つからないでしょ? もっと、くっついていい?」
「え、ええええ!?」
なんで……どうしてこんな神がかったシチュエーションに発展してしまったんだ!?
石井さんはオレにピタリとくっつくと更に腕に手を回してきて、オレの腕が石井さんの夢の部分……極上の柔らかな感触をはっきりと捉える。
おお……おおおおおお!!!
柔らかい……柔らかすぎるぞおおおおおお!!!!
『ピンチはチャンス』という言葉があるが、本当にあったんだな。
オレは一歩進むたびに腕に伝わってくる極上の感触に心躍らせながら、もはや憎き大学生のことなど忘れて気づけば旅館付近へ。 もうすぐこのふわふわともお別れか……そんなことを考えていると、突然石井さんが「ひっ」と声を漏らした。
もしかしてオレの……どことは言わないが、一部が興奮状態なのがバレてしまったか?
恐る恐る石井さんの方へ視線を向けると、なぜか石井さんの視線は海……浜辺の方へ。
一体どうしたのだろうとオレもその先へ目を凝らしてみたのだが、そこでは凄い光景が広がっていた。
「は、早く引っ張れよ!!」
「引っ張ってる……ていうかお前もいつまでも酔っ払ってないで自力で立てよ!」
「助けて……誰かに引っ張られてるから立てないんだって!!!」
そこにはあの大学生グループ。
全員がなぜか海の方へと集まり何かを引っ張っていたので、その奥を覗き込んでみたところ、彼らが引っ張っていたのは仲間であろう男性一人。 男性は必死の形相で「助けてくれ!」と叫ぶ。
「か、加藤くん」
石井さんが全身を細かく震わせながら、オレの腕を強く抱きしめる。
見たところ彼らは今何が起こっているのかよく分かっていない様子……しかしオレや石井さんの目には、その一人の男性の脚を掴み、海の底へと引きづりこもうとしている女の霊の姿が映っていた。
「ね、ねぇあれ……大丈夫かな」
石井さんの質問にオレは無言で首を左右に振る。
それもそのはず……男性を引っ張っている霊は、その辺にいる低級・中級霊と似た存在にあらず。 悪霊以上……死霊と呼ばれる存在で、オレの力を持ってしても、対処のしようのない相手だったのだ。
少し前にオレはこう石井さんに説明したよな。
低級霊はイージーで中級がノーマル、そして悪霊がハードだと。
更にあれに付け加えると、死霊はハードの更に上……ベリーハードでもなくスペシャルハードでもない。 それよりももっと上……難易度・地獄という表現が相応しいか。
あんな奴に強制除霊を撃ち込んでみろ、一瞬で呪詛返しが飛んできて……オレが死ぬまでどこまでも執念深く追いかけてくるに違いないぞ。
「このままここにいたら、オレたちもアイツに目をつけられかねない……いや、もう既につけられているか?」
だとしたら厄介だな。
オレは石井さんを静かにしゃがみ込ませると、音を立てないよう静かに旅館へ戻ることを指示。 オレはあの死霊に目をつけられてしまったかどうかを確認するため、石井さんが戻った後の死霊の反応を確かめることにした。
◆◇
石井さんが旅館へと戻ったのを見届けたオレは、注意深く死霊の反応を観察する。
ーー……あれから一度もこっちを見ていない。 完全にあの大学生だけを狙ってるみたいだな。
「くそ、一体何にひっぱられて……!? 力強すぎるだろ!!」
「早く助けてあげたいけど……もう、力が……!!」
大学生たちはもはや皆、満身創痍。
仲間を助けられない苛立ちと、誰を相手にしているのかわからない恐怖……そして体力の減少。 次第に引っ張られている男性の体が海の中へと少しずつ沈んでいく。
「あああ……助けて、助けてくれええええええ!!!」
自身に待ち受ける未来を予想したのか、男性は今までよりも大きな声で発狂。
それに応えるかのように仲間たちも気合を入れ直し、再び雄叫びをあげながら対抗しているが……これは時間の問題だな。
「うん、これもオレを殴った罰……因果応報ってやつだ」
自ら死地へと向かうほど、オレもバカではない。
オレは死霊や大学生グループに気づかれないよう静かに後ずさり。 旅館まであと少しのところまで離れることに成功したのだが……
「ーー……」
突然オレの頭に愛ちゃんとマリアの姿が浮かび上がってくる。
それと同時に、オレはこうして逃げてきたわけだけど……果たして愛ちゃんやマリアならどう行動するだろうかと考えた。
「どうしてこの状況でそんなことを……。 まぁ二人なら、絶対助けに向かうんだろうけど……」
愛ちゃんやマリアのためを思うのなら、オレはまだ死ぬわけにはいかないし……故にオレはここで無茶をすべきではない。 しかしここで安全策をとって彼らを見捨てたとしたら、その瞬間にオレは愛ちゃんたちにとっての目指すべき目標ではなくなってしまうのではないか。
「あああ、どうしちまったんだオレは! 今までなら即決で見放して逃げ帰ってるのに!」
これも愛ちゃんやマリアと過ごした結果……オレも知らず知らずの内に、愛ちゃんたちから影響を受けていたとでもいうのだろうか。
数分後、オレが立っていたのは大学生グループの中。
「お、お前は昼の……金髪女の彼氏!?」
「なんでキミがここに……!!」
彼らはオレの突然の登場に大驚き。
各々いろんな質問を投げかけてくるが、それをオレは全てスルー。 大きく深呼吸をして気合を入れると、皆に視線を向けながら口を開いた。
「一瞬ですよ。 一瞬隙が出来てそこのお友達を引っ張っている相手の力が緩むと思うんで、そうなったら一斉に引っ張って……そのままオレのことは気にせず逃げてくださいね」
悪魔のときだって無事だったんだ。
呪詛返しを一発くらった程度で死ぬことはない……よな。
オレは女の霊に目掛けて強制除霊を一発撃ち込む。
すると案の定女の霊の力が一瞬緩み、それを察した大学生たちは一気に力を込めて仲間の男性の救出に成功……しかしそれと同時にオレは心臓に強烈な痛みを覚えて膝から崩れ落ちる。
「お、おいキミ、大丈……」
「早く……早く逃げて!!」
「いやでも……」
「オレの頑張りを……無駄にするな!!!!!」
オレの鬼気迫る声に反応してか、大学生たちは一目散にその場から逃走。
それでも女の霊は彼らに向けて手を伸ばしていたので、流石にもう一発撃ち込んだらオレの命が危険だからな。 オレは威嚇射撃と言わんばかりに女に向けて砂を投げた。
『お前……ハ……』
「さて、これからオレ……どうするかな」
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