64 海旅行は波乱万丈!?⑦
六十四話 海旅行は波乱万丈!?⑦
ぐっすりと眠っている愛ちゃんとマリアの見守りを、愛ちゃんの今は亡き実親・桜井さん夫婦に任せたオレは石井さんと二人で夜の海へ。
もしかしたらこの散歩がきっかけで石井さんと付き合える未来が……とうとうオレにも春が来るのかもしれない。
そんな期待を胸に抱きながら夜の静かな海岸沿いを石井さんと歩き始めたのだが、やはり室内からでは気づかなかった点もたくさんあるんだな。 しばらく歩いていると若者たちの品のないはしゃぎ声が耳に入ってきた。
「うわぁ……こんな時間でもはしゃいでる人たちっているんだね」
石井さんがかなり引き気味に声のする方へ視線を向ける。
オレも「確かにね」と石井さんの発言に同調しつつ、はしゃいでいる団体の方へと視線を向けた。
「ーー……って、あわわ!!」
団体の一部の顔を見た途端、オレの体は即座に反応。
間髪を容れずに石井さんの後ろに回り込んで足にしがみつくようにしゃがみ込む。
「か、加藤くん!?」
「シーーーっ!!」
オレは驚きながらこちらを見下ろしている石井さんを見上げ、あまり大きな声を出さないよう口元に人差し指を当てる。
それもそのはず……少し先ではしゃいでいる団体こそ、日中ヤンキー女子たちに詰め寄り、オレの顔面を思い切りパンチしてきた大学生の集団だったのだ。
「どうしてまだここに……とことんオレにとってマイナスしかない奴らだな」
あいつらが霊だったなら容赦無く強制除霊をブチ込んでいるところなのだが、如何せん人間相手では守護霊を排除する以外に為す術もない。
オレはかなりの小声で石井さんにここから離れることを提案。 ヤンキー嫌いの石井さんもそれに同意し、オレたちはそそくさとその場を後にした。
◆◇
少し離れた場所で腰を下ろしたオレたちは、海のさざ波を聴きながら小休止。
オレの心の中で蘇ったトラウマが少し消えてきたところで、先ほどの団体・大学生グループがオレを殴った張本人たちだったということを石井さんに教える。
「えええ!? そうだったの!?」
何があったのかは石井さんも喫茶店で陽キャの佐々木さんから聞いていたので把握はしていたが、やはり石井さんは心の優しい持ち主だな。
石井さんはあの集団がオレを殴った人たちだと分かった途端、嫌悪感たっぷりの表情でその視線をあの集団のいる方向へ。「なんであぁいう派手な人たちって、自分が誰かの上に立ってるっていう実感がないと満足しないんだろうね」と小さく愚痴を漏らす。
「まぁそうだけど……石井さん、そんなに怒ってくれるなんて驚いたよ」
「ううん、私もほら、詳しくは言えないけど中学の頃とかヤンキーの子たちから酷い目にあわされてるから……あの時の、苦しんでた頃の自分を思い出して余計に腹が立つんだ」
「なるほどね。 でもありがとう」
その後オレたちはせっかく夜の海に来た……ということで、ヤンキーや派手なやつらの話題は一時中断。 月明かりが幻想的に反射している海へと視線を向けた。
「すごい綺麗……でもあれなんだよね? 加藤くんにはこの綺麗な光景だけじゃなくて、私には視えない……幽霊たちの姿も視えてるんだよね」
無理矢理にでも会話の方向を変えたかったのだろう。
石井さんが答えあわせをするようにオレの顔を覗き込んでくる。
「ーー……まぁね」
「今もいるの?」
「さぁ、どうだろ。 でも見ないほうが石井さんの為だと思うな。 せっかくの景色が台無しになっちゃうかもだし」
「えー、そう言われたら見たくなっちゃうかも」
「夜に心霊番組見たくなっちゃう的な?」
「そうそう、それ。 観たら絶対にトイレとかお風呂に入るのが怖くなるって知ってるのに、ついつい好奇心で観ちゃうんだよね」
石井さんはそう楽しそうに語ってはいるが、それでもここでオレに触れてこないということは少し前のトラウマがまだ残っているからなのだろう。
その判断は正解だ。
本来ならこういうロマンチックなムードの中で、手を繋いだり見つめあったり出来たのなら最高に青春っぽいのだろうが、それを今したとて……そこから予想できるのは石井さんが叫び声をあげるか、失神してしまう未来だけだ。
「それで……結局いるの?」
「んー。 いると言えばいるかな」
オレたちの周囲には数多の低級・中級霊。
おそらくはあの大学生グループの叫び声で呼び寄せられて来たのだろうが……普通では考えられない量の霊が、オレたちのいる浜辺周辺に集まっていた。
「そうなんだ、やっぱりいるんだ」
オレの答えを聞いた石井さんは、少し考えるような表情で「んー……」と唇を尖らせる。
「ど、どうしたの? やっぱりここは嘘でも『いない』って言って欲しかった?」
「ううん。 やっぱりいるんだって思って。 てことはさ、今ここで写真を撮ったりしたらそういう幽霊たちも写っちゃうかもしれないってことだよね」
石井さんがスマートフォンを取り出しながら、カメラレンズを指差す。
「え、なんで?」
「だってこんなに綺麗な海を撮らないなんて勿体無くて……でも、こういう時間に水辺で撮ったりすると、幽霊が映りこみやすいっていうじゃない? それはそれでちょっと怖いかなって……で、どうかな」
あー、なるほどね。
石井さんは今幽霊がいることが怖いんじゃなくて、この目の前に広がる綺麗な景色を『幽霊無し』で写真に収めたくて、こうしてオレに聞いてきているということなのか。
「そういうことか。 それなら……ちょっと待っててね」
オレはどの画角を石井さんに撮りたいのかを聞いてから、その周辺にいる霊たちを一気に強制除霊させていく。
『ギャアアアアアアアア!!!』
『アアアアアアア!!!』
霊たちは為す術もなく圧倒的なオレの力の前に消滅。
そして霊たちもなんだかんだで知能はあるからな。 オレの近くにいると消されると悟った霊たちは一目散にそこから退却。 少し離れたとこで未だはしゃいでいた大学生グループの方へと向かっていった。
「ーー……うん、おっけ。 この周囲だったら、今どこを撮っても写らないから安心して」
オレが微笑みながら親指を立てると、石井さんが「もしかして倒してくれてたの?」と目を大きく見開きながら顔を近づけてくる。
「え、まぁ……うん。 そうだね」
「ありがとう。 本当に嬉しい」
石井さんは嬉しそうにスマートフォンの電源を付けてカメラを起動。 夜の海や砂浜、夜空に浮かぶ月を楽しそうに撮っていく。
「本当に綺麗。 この写真見たら、今のこの時間のこと……すぐに思い出せる」
「それは良かった」
オレはそんな石井さんの姿をそっと静観。
それからどれくらい経っただろう。 突然石井さんは何かいいことを思いついたのか、スマートフォンからオレに視線を移し、若干顔を赤らめながら距離を縮めてきた。
「な、なに?」
「一緒にさ、撮らない?」
ーー……。
「え?」
突然の石井さんの提案にオレはフリーズ。 しかし石井さんはそんなオレをリードするかのように顔を隣にもってくると、内側カメラでオレと石井さんのツーショットを画面に収めてシャッターを切る。
「い、石井さん?」
「加藤くんって誰かとこうやって写真、撮ったことある?」
「いや。 オレ、本当に友達とかいなかったから親以外は誰とも……」
「そっか。 へへ、じゃあ加藤くんの初めてのツーショットの相手、私になっちゃったね」
「ーー……っ!!!」
う、うおおおおおお!!!!
可愛い……可愛すぎるよおおおおおおお!!!!!
先ほどよりも赤く頬を染めた石井さんのその言葉に、オレは完全にノックアウト。
これは、もういけるやつ……告白したらOKがもらえる確定のシチュエーションなのかもしれない。
オレはここで決めるぜと言わんばかりに大きく深呼吸。
石井さんに『好きだ』ということを伝えようとしたのだが、そのタイミングでまさかのハプニング……少し離れた浜辺の方から、恐怖に満ちた複数人の叫び声が聞こえてきた。
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