63 海旅行は波乱万丈!?⑥
六十三話 海旅行は波乱万丈!?⑥
いつの間に眠ってしまったのだろう。
最初こそ皆でトランプなどをして遊んでいたオレだったのだが、パンチラ等の影響でオレの男の本能が覚醒。 逃げるように布団の中に潜ったところまでは覚えているのだが……まさかそれから一瞬で寝落ちしてしまったとでもいうのか?
目を覚ますと完全に室内はすでに消灯。
愛ちゃんやマリア、石井さんはスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てていて、充電すら忘れていたスマートフォンで時間を確認すると、深夜一時を少し回ったくらいの時刻が表示されていた。
「確かみんなで遊んでたのが夜九時くらいだから……そう考えると結構寝てたんだな、オレ」
かなり質のいい睡眠だったのか、再び目を閉じてみても全く眠気が感じられない。
スマートフォンのアプリで遊んで時間を潰すという方法もあるが……その音で愛ちゃんたちを起こしてしまうのも申し訳ないよな。
「んー……なにをするか」
上体を起こして考えていると、オレの隣で寝ていたマリアがコロンと可愛く寝返りをうつ。
そんなマリアの奥には愛ちゃんと石井さん。
三人とも、なんて愛くるしい寝顔なんだ。
それからオレは数分間、一番近くで寝ていたマリアの寝顔を見つめて癒されていたのだが、ここでマリアが夕食前に言っていた言葉を思い出す。
『夜にあそこの海、近づかない方がいい。 ここに戻る時、海の方から変な気配を感じた』
あの時マリアが言ってたのって、結局なんだったんだ?
ゆっくり起き上がり窓の外に映る海に目を凝らして見てみるも、これといってオレの手を煩わせそうな存在は見受けられず。
それでもあのマリアの怖がりようが異常だったためもう少し詳しく見てみようと注視していると、もしかして独り言でも言ってしまっていたのだろうか。 背後から気配を感じたため振り返ってみると、石井さんが重たそうな瞼を擦りながらこちらを見つめていた。
「あ、石井さん。 ごめん、起こしちゃった?」
「ううん……、どうしたの? 何かいる?」
「いや、特に何も」
オレがそう答えるも、石井さんは控えめなあくびをしながらオレの隣へ。
そっとオレの手を握りしめてきたので何事かと緊張したのだが、石井さんの視線はオレではなく窓の外。 その際何かの姿を捉えたのか、「ひゃあっ」と驚きの声をあげながら尻餅をついた。
「い、石井さん? 大丈夫?」
慌てて握っていた手を引っ張り上げると、石井さんが若干涙目でオレを睨みつけてくる。
「加藤くんの嘘つき……怖そうな幽霊、たくさんいるじゃない」
なるほどな。 それで怒ったってわけか。
「あー、でもそこまで強い……やつもいるかもしれないけど、オレからしたらそこまでだから気にも留めてなかったよ、怖がらせちゃってごめんね。 じゃあ……うん、ちょっと見てて」
オレは石井さんをこれ以上怖がらせないようにするため、倒せる証拠を見せることに。
ちょうど旅館前を四足歩行で歩いていた奇妙な女の霊を発見したので、「じゃああいつ見てて」と言いながら強制除霊を撃ち込む。
するとまぁ想定通りだよな。 女の霊は『ギャアアアアア』と金切り声をあげながら、オレの存在に気付くこともなくそのまま灰となって消えていった。
「ね、平気だったでしょ?」
オレがそう尋ねると、石井さんはホッと安心したように小さく頷く。
「うん……歩き方とか気持ち悪くて怖かったけど、あれでどのくらいの強さだったの?」
「そうだなー、周りに浮遊霊が飛んでなかったから結構危ない存在……悪霊クラスくらいだと思うけど」
「悪霊クラスってどのくらい?」
「ゲームで例えると、イージーモードが低級霊で、ノーマルモードが中級霊……んで、悪霊が次のハードモードってところかな」
なんとなくで説明しただけなのだが、石井さんは弟が結構ゲーム好きらしく、今の言葉で大体は理解した様子。
「それじゃ、加藤くんと一緒にいれば安全だね」と柔らかい笑みを向けてくれたのだった。
か、可愛い。
月明かりというバフ効果もあるからなのだろうか。
石井さんの笑顔があまりにも可愛すぎたため思わず見惚れていると、石井さんが「あ、そうだ加藤くん」とオレの手を引っ張って来る。
「え、な……なに?」
「つまりはさ、加藤くんといれば幽霊は怖くないってことだよね?」
「う、うん。 まぁ……そうだね、極稀にある例外を除いては」
「そこから見える海に、その例外はありそう?」
「いや、特に何もなさそうだけど」
「じゃあさ、今から夜の海、散歩しない?」
「え」
「人のいない静かな海ってロマンチックでしょ?」
石井さんがうっとりとした表情で再び視線を海へと向ける。
「いや、でも……」
「十分だけでいいから……お願い!」
「え、ええええ」
夜とはいえ、外はなんだかんだで暑いに決まっている。
あまり汗をかきたくなかったオレはしばらくの間いい感じの断り文句を考えていたのだが、そんな中オレはとある重大な事に気付く。
これはフラグ……リア充になるための最速イベントではないのか?
あまり恋愛シミュレーションゲームはやったことはないけど、おそらくはそう……こういうロマンチックなムードこそ、お互いの恋愛ゲージを爆上げしてくれるんだよな!!
そうとなれば、話は別だ。
オレは「ちょっとごめんね」と席を外して扉の向こうへ。
その先には二人の霊がいて、オレはそんな二人に今から少しの間部屋から離れること……何かあったらすぐに呼びに来てもらうことが出来るか交渉を試みた。
『ふふ、いいわよそのくらい。 隠れて見てたけど、おばさんから見てもこれはチャンス……絶対にチャンスを掴むのよ、良樹くん!』
『そうだね。 毎日僕たちの愛娘……愛の面倒を見てくれているんだ。 それくらい任せてよ』
そう、オレが交渉しているのは愛ちゃんの実の両親……桜井さん夫婦。
最近までは家にこっそり様子を見に来ていた程度だったのだが、愛ちゃんが霊を視えるようになってからはその頻度も激減……唯一気づかれないであろう愛ちゃんが寝静まった夜のみ、その寝顔を見にやって来ていたのだ。
『でもあれだね。 マリアさんを起こさないよう、僕たちも気をつけないとね』
『そうね。 でもあの子も私たちの存在には気づいているようだし、もし起こしちゃったら愛のことを色々と聞いてみたいわ』
『それはいいアイデアだね』
夫婦はひとしきり盛り上がると、改めて『遊園地に海に……愛にいろんな経験をさせてくれてありがとう』とオレに感謝を述べて愛ちゃんのもとへ。
これで気兼ねなく部屋を空けられることになったオレは、いざ石井さんとの恋愛イベント……夜の海お散歩デートへと挑むことにした。
「ねぇ加藤くん、さっき外で話し声聞こえたけど……誰と話してたの?」
「ちょっとね。 オレたちが外出してる間、愛ちゃんたちを見守ってくれるよう頼んでたんだよ」
「誰に? やっぱり……幽霊だよね?」
「そうだね。 だけど絶対に任せられる人だから大丈夫」
「そうなんだ。 じゃ、行こ」
「うん」
オレたちは愛ちゃんたちが起きないよう、静かに部屋を出る。
でもまさか、この行動が原因であんな悲惨な目にあってしまうなんてな。
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